#34 クソゲーを超えるリアル

 金髪短髪少女わたしは、前髪をおさえます。



 黄色い地面に、はえる迷彩色の車。


 (まだ、トラックが何台も来てますね)

 

 金属フェンスが開いたとびらを通る、輸送車トラック


 とびらに掛けられたプレートは【オオモリ城壁基地訓練場】


 各所に盛りあがった土や、黒くなった地面が見えます。

 

 後ろに並ぶは、4機の戦鋼せんこう



 前を向けば、集まった────褐色レイニー大尉、帽子サニー曹長、六角ナット少女。


 (もう、そんな時間ですか)

 

 「調整は終わったかしら」

 「一応、十分ほど前に」

 「上々ね」


 褐色大尉の服は、ピンク色で汚れています。


 (色的にペイント弾のインクでしょうか?)


 「暴発でもしたんですか?」

 「いや、毎回こうなのよ」


 視線のさき────戦鋼せんこうには、ナイフが装備されていました。


 「拳銃ではなくナイフですか?」

 「たまには、こっちもつかわないとね」


 地面に滴るのはピンクの液体。


 見たところ、訓練用ペイントナイフというところですか。


 「後片付けが大変そうですね」

 「掃除は負けた人間の仕事よ」


 戦鋼せんこうの腰には、もちろん、きれいに磨かれた大型拳銃リボルバーがあります。


 「まあ、頑張ってぬかせてみることね」

 「お胸をおかりします」


 ふれた、胸部装甲は熱いですね。


 今日のエンジンはかかりが良さそうです。


 ◇◆◇


 訓練場の地面がピンクに汚染された頃。


 地面に転がるは3人の少女。


 「いや────大尉強すぎじゃないですか」

 

 「ようやく気づいたッキュか」

 「むりー、銃弾あたんないー」


 気づいたら撃破判定だされるってどういうことなんでしょう。


 戦鋼の背後には、ピンクの一文字がえがかれています。

 

 銃を抜かした帽子サニー曹長も、3発で仕留められてましたし。


 「ちょっと寝ぼけてるんじゃないの、あんたたち」


 「睡眠時間はきちんと取ったはずです」

 「いや、そういう事じゃないッキュ」

 「つよすぎー、ナーフきぼうー」


 のぞき込むは、褐色レイニー大尉。


 息切れ一つしていない姿は心にきますね。


 「悪いけど、手は抜けない性格なので」


 「これでも、いつもより弱体化してるのが笑えないッキュ」

 「たしかにー、前回は1発で終わったしー」


 ほんとうにそれは弱体化と言えるのでしょうか。


 気分がすぐれない程度では?


 「いやー、今回も掃除大変そうねぇ────頑張って頂戴」

 

 褐色レイニー大尉は、基地に戻ろうとします。


 顔は、満足と言わんばかりの笑顔です。


 (いやな気分ですね)


 掃除するのが嫌なわけじゃないんですが。


 「レイニー、キイロがなにか言いたげッキュ」

 「なにかあるのかしら?」

 「いや────模擬戦、本来の目的が果たせないと考えただけです」


 模擬戦の目的は、【異世界人に対する訓練】


 「実際に接敵する場合、集団の可能性があります」


 (実際、魚人と接敵したときも集団でしたし)


 本心は決して、


 掃除するのが手間だとか。

 煽られたことに腹がたつとか。

 大尉の笑顔にムカついたとか。


 浅はかなものではないと信じたいです。


 「それで、どうしたいのかしら?」

 「なので────3vs1を要求します」


 褐色大尉は目を見開きます。


 「ふふふっ、いいわよ」


 やっぱり腹が立つ笑顔ですね。


 ◇◆◇

 

 軽い休憩をはさんで、少女3人は集まります。


 目の前に用視されたのはホワイトボード。


 褐色大尉の写真の横には、文字が書かれています。


 「まず、レイニーの脅威は視野の広さッキュ」

 

 後ろから攻めても、多分見えてる。

 背後から胸を揉もうとして、幾度なく見切られたッキュ。


 「次点で、経験からくる素早い判断ッキュ」


 異常なほど冴えてる読み。

 予知したって上から潰してくる変態ッキュ。


 「それは────無理なのでは?」


 仮想訓練装置よりも、クソ敵が身近にいるとは思いませんでした。


 「ナットは、光魔法は使えるッキュか?」

 「初級ならつかえますー」

 「そう考えると、〆はキイロしかないッキュから」


 ホワイトボードに書き足されていきます。


 「作戦としては────」


 1段階目、ナットが光魔法で視野を潰すッキュ。

 2段階目、キイロが仕留めるッキュ。


 「で、どうッキュか?」

 「いや、先に撃たれて終わりな気が」


 仕掛ける前に、褐色大尉の射程に入ると思います。


 そして狙撃されて、撃破判定がオチです。


 「大丈夫ッキュ、陣形はこんな感じで」


 【陣形】

 前 レイニー サニーナットキイロ 後 


 「銃弾は私が受け止めるッキュ」


 それならば、後方に撃破判定が出ることはありませんが。


 「そんな作戦、現実では────」

  「────1人死ぬことになるッキュか?」


 「甘えたこと言わないで欲しいッキュ」


 怪我や死がない戦場なんてあるわけない。

 ましてや、私たちが挑むは格上ッキュよ。


 ────自分の命ぐらいは、賭け金ッキュ。

 

 帽子サニー曹長の視線は、私を射抜きます。


 「な、なら私が最前列に」

 

 機体の練度は、私よりも帽子サニー曹長の方が上です。


 作戦の成功率を考えるならば最前列は私です。


 「その装甲が薄い戦鋼でッキュか?」

 「────ッ」

 「肉壁にもなれない機体は論外ッキュ」

 

 反論はでてきません。


 私の戦鋼が、肉壁に向いていないのは事実です。


 「あのー、そのー」

 「言い過ぎたことぐらい分かってるッキュ」

 

 前から撃たれるのが分かっているなら、盾ぐらい構えてるッキュ。

 

 だから実際でも、簡単に死ぬわけではないッキュ。


 「少しは味方を信用するッキュ」


 そう言うと、帽子サニー曹長はホワイトボードを片付け始めます。

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