#33 実践3割、準備が7割

 【オオモリ城壁基地(会議室)】


 金髪短髪少女わたしは、集まります。


 前には、

 髪がぼさぼさの褐色レイニー大尉と

 体に比べて大きな帽子がずれている帽子サニー曹長。

 

 飲み会の名残か、部屋にはゴミ袋が沢山転がっていました。


 「というわけで、明日、全員で模擬戦を行うわよぉ」


 褐色レイニー大尉は、くたびれた表情で言います。


 いつもより覇気がなく、顔も少し青いですね。


 「体調悪いなら無理しないでも」

 「昨日の酔いが響いているだけよ」


 六角ナット少女も朝から青い顔をしてましたし、酒はやはり危険ですか。


 自分はお酒が弱い、と、無難に断っていてよかったです。


 脳内の幻聴ナビィの方は、悲しい声を出していましたが。


 「いま、訓練場を逃すと、次に借りれるのがだいぶ後なのよ」

 「なら、今日は大人しく休むッキュよ」

 「わかってるわよ」


 帽子サニー曹長の言葉に、渋々といった感じですか。


 今日の警備任務は、自分が多く引き受けた方がいいですね。


 「各自機体の調整を怠るらないでねぇ」


 体を引きずって部屋からでる褐色レイニー大尉は、少し情けなかったです。


 ◇◆◇

 【オオモリ城壁基地(格納庫)】


 時刻は過ぎて、夜。


 「嬢ちゃん、今日はどうした」

 「明日の模擬戦のために、機体の整備です」


 暗くなったのに、整備員は今日も忙しそうです。


 (いつもより、格納庫が広く感じますね)


 置かれてある戦鋼は4機はきちんとありますし。


 「人数が少ないのでしょうか」

 「昨日の飲み会でやられた連中が多くてな」


 整備員は頭をかきます。


 「そんなにですか」

 「新人、若手がおつりやがった」

 

 どの部門も人手不足が顕在化してますし、業務への支障がありそうですね。


 最低限、自分の戦鋼せんこうを整備できるようになっていてよかったです。

 

 「まあ、最近立て込んでたし。いい休みだろ」

 「たしかに、ドタバタしていた印象はありますね」


 自分が見つけた地下通路には、日夜を問わず整備員が駆り出された様子でした。


 結局、奥は水没しており探索は中断になったはずです。


 褐色レイニー大尉が疲れていたのも、安全のため同行していたからでしょう。


 「まあ、だからと言っても整備には手を抜いていないがな」

 「そうですね。見た感じ私がさわるところないですよね」


 戦鋼せんこうの内部を触るには知識が足りませんし、駆動系に問題は見えません。


 あとできることって、装甲を磨くぐらいですか。


 「嬢ちゃん、武器の方は見なくてもいいのか?」

 「いつもと違う武器を使う気はないので」

 

 戦鋼の横に立てかけられているのは、突撃銃アサルトライフル

 

 大きさは私の体より大きく、大人3人がかりでようやく運べます。


 「いや、そうじゃねぇ────弾の方だ」

 「弾ですか?」

 「相手は魔物ってわけじゃないからな」


 整備員は、水音がなる銃弾をもってきてくれました。


 銃弾の色も、一般のモノより奇抜です。

 

 「ピンク色の弾ってあるんですね」

 「こいつはペイント弾────別名、金食い虫だ」

 

 模擬戦のためだけに、作られた弾でな。

 ご丁寧に全口径に存在する。


 毎年、コレを仕入れるのが義務化される程の不人気商品だ。

 ほんと、予算を削りたいのか、企業との約束なのかは知らんが。

 そんなんなら、部品の一個でも入れてくりゃいいってのによ。


 「というわけで、嬢ちゃんが訓練で使う銃はなんだ」

 「戦鋼用の突撃銃ですけど」

 「なら弾倉の交換だけでいいな」


 整備員は「よっこらせ」と、床に弾をおきます。


 「どっかの大尉みたいにマグナムなんか使うとだな」

 「────わざわざ弾が手動交換で面倒だ、っていいたいの」


 いきなり、あらわれる褐色レイニー大尉。


 「えっ、いやーそんなつもりはありませんよ」

 「大丈夫よ。私も同じ気持ちだから」

 「あ、さいですか」


 少しよろめきながらも、特注の戦鋼用拳銃リボルバーをいじります。


 拳銃の弾を取り出すだけでも一苦労しそうですね。 


 「そこまでして、模擬戦やる意味はあるのでしょうか?」


 手間と目的が釣り合ってない気がします。


 実力をつけるだけなら、仮想訓練室や警戒任務で十分ですし。


 「意味はあるわ」

 「へっ?」


 褐色大尉の手が止まります。


 「私たちの敵ってなんだと思うかしら」

 「えっと、魔物でしょうか」

 「大まかに言うとそうなるわね」


 でも、戦鋼で想定されている敵は────耳付きの人型。

 ゴブリンと違って、知能も高く、高度な魔法だって使ってくるわ。

 

 「今までの警戒任務は、害虫駆除と変わらないわ」

 

 そこまで差があるものなのでしょうか。


 今まで、魔法をつかう武者や魚人もいましたし。


 「耳付きの人型ってことは、犬顔の人間って感じでしょうか?」


 魚顔の人型もいましたし、いてもおかしくはなさそうです。


 どちらにせよ、魔物にはかわりなさそうですが。


 「見かけの差は、私達に獣の耳が付いたぐらいよ」

 「ほんとに差がありませんね」

 「だけど、彼らと私たちには決定的な違いがある」

 「違い、がですか?」


 経験を踏まえると、魔法が使えるか否かとかですかね。


 異世界にいる人は大体使えますが、地球では珍しい部類ですし。


 「正解は、人であるか否かよ」


 ────彼らに人権は認められてないわ。


 だからこそ、戦鋼乗りは彼らを害虫のように殺すことができる。


 「効率良く、害虫を殺すために模擬戦は必要なのよ」

 

 褐色レイニー大尉の姿は、どこか悲観的です。


 「そう、ですか」

 「まっ、若いころに考えることじゃないわ」

 

 そう言うと、作業に戻っていきます。


 私たちの敵。

 そんなこと考えたことも無かったです。

 

 よく考えれば────

 この戦争が始まった理由も、

 続いている理由も、

 知りません。


 (ほんとうに、わたしは無知ですね)


 今日は、少し教本でも────

 

 「あれ、サニー曹長」

 「ちょうどよか────見つけたァ、レイニー。寝てなきゃダメッキュよ」

 「う、うるさいわね。明日の準備がぁ──……」


 大型拳銃にもたれかかる褐色レイニー大尉。


 寝息も聞こえますし、かなり無理をしてたようです。 


 「疲れているのに、わるいことをしましたね」

 「大丈夫、いつものことッキュよ」

 「そうなのですか」

 「どーせ、明日になったら元気になってるッキュよ」


 帽子サニー曹長は、近くから担架をもってきます。


 「全く、手間がかかるッキュ」


 手慣れた手つきで担架にのせますね、帽子サニー曹長。


 過去にも似たようなことがあったのでしょうか。


 「すまないッキュけど、レイニーを運んでてもらえるッキュか」

 「構いませんけど」

 「自分も機体整備しないといけないッキュから」


 たしかに、帽子サニー曹長も専用の新型機でしたね。


 「レイニーには、戦鋼せんこうは自分が整備するって言ってッキュ」

 「いいんですか?」

 「どーせ、よく見てる機体だッキュ」


 帽子サニー曹長の足取りも、少し重そうです。


 (私は、大尉を運ぶとしますか)


 滑車がついていたおかげか、意外と一人でも運べますね。


 「────休み、休み、をよこしなさい」

 「わたしも将来はこうなるんでしょうか」


 不穏な寝言とともに医務室を目指します。



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