#31  初めての実戦

【オオモリ城壁基地(城壁外周)】


 金髪短髪少女わたしは、周囲の警備をします。

 

 新しくなった操縦席コクピットからは、独特の匂いが。

 

 画面モニターには、褐色レイニー大尉の戦鋼せんこう

 流線形の形状が光を反射しています。


 新型機の方が性能が良いというのは、認めますが。


 (武装が大型拳銃のみで大丈夫なのでしょうか)


 褐色レイニー大尉は、いつも通りの装備と言っていましたが。


 自分は、大型銃と盾まで持ってきいます。


 『身軽な方が動きやすくて好きだぞ』

 「いや、盾は持つべきだと思います」


 幻聴ナビィは軽装が好きですが。

 盾は防御以外にも使えますし、有って損は無いです。

 

 戦鋼の装甲が薄いだけというのは────むっ。


 (後方の草むらですか)


 「ッ4時の方向、敵来ま「ドンッドンッ」────へっ」 

 

 真横を通る、弾丸。


 探知機レーダーには味方の青点のみです。


 (いま、敵がいましたよね?)

 

 通信機の電灯ランプは発光します。


 [あー、大丈夫、大丈夫、見えてるから]

 

 向こうからは呑気な声が聞こえてくるのでした。


 ◇◆◇


 あれから数匹の魔物を、屠った後────


 [分かってたけど、心配はなさそうね]


 褐色レイニー大尉から、御墨付きを貰いました。

 

 (私が倒したの2匹だけなんですが、大丈夫なのでしょうか)


 気づいた時には、魔物の反応が消えてましたし。

 感覚としては、下手なホラーより怖いかもしれません。

 

 そんな気持ちも知らず、通信機は光ります。


 [本来、この任務は2人か3人で行うものなのだけど]

 「てっきり一人で行うものだと」 


 始める時も、帽子サニー曹長から引き継いでましたし。


 [どこも、人手が足りないのよ]


 ────ウチの戦鋼乗り、ここ半年で3人も病院送りにされちゃってね。

 大尉権限で人手が足りないって言ったら、訓練生送って来るし。


 [正直、やってられないわ]


 大尉の戦鋼せんこうは、森の手前で止まります。


 [基本、森の中までは入らなくてもいいわよ]

 「森で魔物が巣を作ったりしないんですか?」

 [だから、定期的にチームを組んで“間引き”を行うわ]

 「大変な作業ですね」

 [ウチは、半分絶壁だから、まだ楽な方よ]


 森の境目が続く先は、断崖絶壁。

 影で下が見えないのが、深さを教えてくれますね。

 

 (ですが、地を這う魔物なら来れませんが)


 「鳥系の魔物とか、飛んできそうですけど」

 [それが、警戒してたけど一向に来ないのよね]


 時間の無駄だから、自動防衛システム便りになってるわ。

 基本、城壁の周りをぐるぐるして、時間まで見張るのが仕事。


 面倒だったら、城壁の上から撃ち殺してもいいわよ。


 「────私も、よくやってるし」


 大尉は簡単に言いますが、基地の城壁って見える以上に高いです。

 戦鋼3個分、だいたい8mぐらいですかね。


 (ミサイルを盗むのも一苦労でしたし)


 流石に、あの距離からの狙撃は────


 「ナビィ、来るときに撃ち殺された魔物いましたよね」

 『いたな』

 「アレ、森の中腹ぐらいだった気がするんですけど」

 『ちなみに魔力はここから感じたぞ』


 もしかして────拳銃あの距離を?


 ですが、幻聴ナビィが嘘を付くとも思えません。


 「実はレイニー大尉、ヤバい人だったりします」

 [なによ。効率がいいのよ、効率が]


 拳銃での狙撃は、効率とかの問題じゃないと思います。


 「じゃあ、私は業務に戻るから後はよろしく」


 褐色大尉の戦鋼は、基地に戻っていきました。

 

 アレ、通信機が光ってますね?


 [忘れてた────粘液上の生物みたら、グレネードか魔法で焼き斬ること]


 アレ、装甲は錆びさせるわ、繁殖力高いわで、最優先抹殺対象だから。

 間違って基地内に持って帰ったら、懲罰モノよ。


 覚えときなさい────スライムに人権は無いわ。


 物騒な発言と共に、通信は切られました。


 ◇◆◇


 【オオモリ城壁基地(格納庫)】


 金髪短髪少女わたしは、警備を交代します。


 あの後、魔物と遭遇することもなく。

 無事に警備は終わりました。


 今までの事を考えると、一波乱ありそうと身構えていましたが。

 

 (────いえ、緊張感を失うほうが駄目ですね)


 慢心は死につながると、仮想訓練先生クソゲーも教えてくれましたし。


 「ぎりぎりー、間に合ったー」


 操縦席コクピットから降りた先には、六角ナット少女。

 急いできたのか、黒髪と髪飾り六角ナットが乱れています。


 「はい、これどーぞ」

 「これは?」


 手渡されたのは、緑色の瓶。

 重さの感じ、中には液体が入ってますね。


 「今日、初実戦だったでしょー」

 

 ────お疲れさまーの、ジュースだよー


 「それは、ありがとうございます」

 「じゃー、この後も予定あるからサラバー」

 

 嵐のように六角ナット少女は去っていきました。


 わざわざ、飲み物を渡す為だけに来たのですか。


 手元の瓶に書かれたラベルは【お茶サイダー】

 古風なラベルが懐かしさを感じさせます。


 背中に、嫌な汗を伝います。

 

 心が惹かれるのは分かるのですが────


 (個人的には、もう少し手心というか)


 いや、貰った物にケチを付けるのも問題です。

 ここは、思い切って飲むに限ります。


 いざ、試飲。


 「これはッ」

 

 ────意外といけますね。


 また一つ、世界の神秘に近づいた気がします。

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