#30 シュミレータ。驚異の教育

 【オオモリ城壁基地(格納庫) 仮想訓練装置室シュミレーションルーム


 金髪短髪少女わたしは、奮戦します。


 挑戦期間は今日で7日目。


 [2面 ゴブリンの巣窟]


 操縦棒は強く握られ、体は少しひんやりします。

 操縦席内のスイッチは、言葉と共に動きます。


 出現したゴブリンのガキを潜り抜け、ボス戦へ。


 (マザーゴブリンは、子供ガキを攻撃した瞬間に隙ができる)


 慣れた手つきで戦鋼せんこうを動かし、ボスの体を粉砕します。


 2面────クリア



 [3面 ゴブリン寺院]


 (次の面は、ボスの攻撃密度が高いですが、ランダムな安全地帯があります)


 阿修羅の腕と、口からのビームを、

 機体を滑り込ませることで、ギリギリ躱します。


 「回避ッ、回避ッ、回避ッ────これでトドメです」


 戦鋼せんこうの刃が、ボス魔物に突き刺さります。


 「どうですか、ナビィ」

 『正式な操縦者パイロットが粋がることか?』


 脳内の幻聴ナビィの機嫌は少し悪いようです。


 3面────クリア



 [4面 ゴブリンパニック!!]


 「やはり数が多すぎますね」

 『捌く腕は、まだ未熟だな』


 4面────失敗


 「一体一体は、何とかなるんですが」

 『戦いとはそういうものだ』

 「巨大ビーム兵器とか無いですかね」

 『無い物ねだりは、死を招くぞ』

 「その通りですね」


 少し趣味に毒されているかもしれません。


 (でも、プラモデル作るの楽しいですし)


 既に6体ぐらい作って壊しているんですよね。

 毎回、新しいのを渡して貰えるので、そろそろお返しが必要ですね。


 気を取り直して、リトライするために電源を────

 

 「────誰ですか?」


 後ろに映る影は、小さい体と大きな頭。


 「サニーッキュ。もう深夜だっッキュよ」

 「もう、そんな時間ですか」


 意外と気づかないモノですね。

 先ほど昼飯を食べたと思ったのですが。


 操縦席コクピット内の強化魔法を止めて、終了準備を始めます。


 「それにしても、面白い魔法使ってるッキュね」


 操縦席コクピットの後ろから声が飛びます。


 「えっと、実は教えてもらいまして」

 「へー、誰かから教えてもらったキュっか?」


 (……どう答えればいいのでしょう)


 幻聴ナビィと言っても伝わらないと思いますし、嘘を付くのは違いますし。


 「の、脳内の先生に」

 「……頭、大丈夫ッキュか」

 

 「だ、だいじょうぶです」


 そうですよね。

 普通、脳内から声が聞こえるとかヤバい人ですよね。


 (どう返すのが正解だったのでしょうか)


 思わず天井を見上げます。

 電灯ランプは、既に消えていますね。


 「ええっと────そうだッキュ。レイニーが呼んでるッキュ」

 「大尉がですか?分かました」


 褐色大尉レイニーが何の用でしょうか。

 単純に考えるなら仮想訓練シュミレーションの進捗とかですね。


 (一週間もたってクリアできていないというのは心にきますね)


 帽子サニー曹長に挨拶をして、格納庫から去ります。

 

 夜も遅いですし、居るのなら隊員室とかでしょうか。 

 

 ◇◆◇

 

 【オオモリ城壁基地(業務室)】


 「あら、丁度いいタイミングね」

 「遅くなってすみません」


 基地隊員の協力もあり、褐色レイニー大尉に合うことが出来ました。 


 「それで、今の進歩はどのぐらいかしら?」

 「すみません。まだ4面で止まっています」


 褐色レイニー大尉に首を傾げられます。


 「うん、4面?」

 「正確には────4面ボス前で終わってます」


 業務室のカレンダーは、七日前で止まっています。


 「まだ、一週間しかたってないわよね」

 「そうですね」


 褐色レイニー大尉は額を抑えます。


 「そっかぁ、アレ、4面までいったかぁ」

 「何か問題でもあったのでしょうか?」

 「いや、いいのよ。なんでもないわ」


 妙に歯切れが悪いですね。

 やはり、仮想訓練をクリアしてないのが問題なのでしょうか。


 「まあ、3週間空いたと思えば儲けものね」


 ────ということで、仮想訓練は終了。明日からは、警戒の任に命じます。


 「了解です」


 敬礼を褐色レイニー大尉に返します。


 しかし、口にはしませんが、明日から実戦ですか。

 仮想訓練をしなくてもいいのはうれしいのですが。


 (基地での訓練はどこにいったのでしょう)


 なにより、私の戦鋼せんこうはありませんし。


 「もしかして、生身での戦闘でしょうか?」

 「あら、そうね────ちょっと格納庫行ってきなさい」


 投げられたのは、ぬいぐるみが付いたキー。


 「様子を見たら、さっさと寝てちょうだい」


 追い出されるように扉から出ます。

 褐色大尉も疲れた顔ですし、早めに退散するとしましょう。


 ────私、4面行くの2年以上かかったんだけどなぁ。


 扉の向こうの呟きが、届くことはありませんでした。


 ◇◆◇

 

 【オオモリ城壁基地(格納庫)】


 格納庫では、忙しなく作業員の方々が動いています。


 「また仮想訓練か、嬢ちゃん」

 「いえ、大尉に格納庫に行って来いと」

 「ああ、なるほどな」


 手に持った、ぬいぐるみの付きキーを見ると、整備員は納得してくれました。


 「こっちに来てみろ」


 そこにあったのは不透明なビニールがかけられた大きな塊。

 各部からは、緑の光沢が覗いています。


 (形状から戦鋼ですか?)


 ですが、横で整備されている戦鋼と比べて大きいような?


 「おい、ビニールとっていいか?」

 「上は大丈夫っす」


 軽い会話の後、整備員は外す作業に取り掛かります。

 

 止めるためのテープが外されていき、ビニールが風で揺られます。


 「んじゃ、見て驚くなよ」


 上部のビニールが剝がされます。


 「へっ?」


 そこにあったのは────戦鋼【SP-N1】

 

 旧時代な形状。

 緑に輝く装甲。

 特徴的な単眼。


 (おまけに私が書いた文字まで再現されています)


 ですが、細部が違いますね


 「妙にガッシリしてる気が」

 「そこに気づくとはお目が高いな、嬢ちゃん」


 ────コイツは、化け物だぜ。


 なんせ、旧式のフレームに、新型のエンジンを積み込んでやがる。

 おかげで、フレームの強度は限界に近い。下手すりゃパアだ。 


 「正直、新造した方がマシなレベルだ」


 装甲を触ります。

 傷一つなく、コーティングまでしてあります。


 「てっきり廃棄されたと思ってたんですが」

 「整備員共と大尉殿の暇つぶし、ってヤツだ」


 まっ、まともに動いた原因追及してたら、こうなったとも言うが。


 「傷つけるなとは言わんが、大事に使ってやってくれ」


 そう言うと整備員は去っていきました。 



 単眼モノアイに映る自分は、湾曲です。


 「これが私の戦鋼せんこう


 久しぶりの愛機は、刺激的な匂いがしました。

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