#28 クールダウン

 金髪短髪少女わたしは、天井を見上げます。


 「無理です────私が馬鹿でした」

 『さっきまでの威勢はどうした』


 幻聴ナビィの提案からかれこれ、2時間。

 時間こそ、たってはいませんが。


 心が限界です。


 味方が敵の1面をクリアして、意気込むこと数分前。

 2面のモブ敵として現れる、魔物ゴブリンのガキ。


 ゴブリンの子供という設定なのに、なぜか急所クリティカルが出やすく、戦鋼せんこうを一撃で粉砕します。


 「初手ガキ遭遇からの、ワンパンは流石に堪えました」


 無駄に高い素早さで、接近され。

 探知機で気づいたときには、時既に遅し。


 (画面全体モニターに映るゴブリンのガキは、夢にも出てきそうです)


 「今日はもう寝ます」

 『おやぁ、一度口に出したことを曲げるのか?』

 「いや……本当に勘弁してください」


 今なら、敵の姿を見ただけで発狂する自信があります。


 『「クリアするまで」なんと言ったかなぁ?』

 「確かに、言いましたが……」

 『まだ序盤も序盤で止めるのかぁ。私は悲しいなぁ』

 

 幻聴ナビィの癖に、痛いところを付いてきますね。

 

 「でも、明日の訓練もありますし」

 『明日まで、まだ5時間もあるぞ?』

 「あー、うるさいですね。そこまで言うならナビィもやってみてくださいッ」


 あと、5時間も仮想訓練装置クソゲーと戦うなんて正気ではありません。

 できれば明日もやりたくはない、そんな気持ちです。


 『全く、私を誰だと思ってるんだ────体を少し貸せ』

 「後悔しても知りませんよ」


 とは言いましたが、幻聴ナビィの操縦は上手です。

 以外と、クリアしてくれるかもしれません。


 (ちょっと悔しいですが、クリアできるなら、それでもいい気がします)


 今日の私は、もう駄目な気がします。


 ◇◆◇


 更に時は進み、3時間後。


 金髪短髪少女ナビィは、赤くした目を見開いて


 ────台パンをしていました。


 「カ、カスがッ」

 『ナビィ、落ち着いてくれません』


 私の体で、操縦席コクピットを台パンしないでください。

 怒られるの私なんですよ。


 「魔力感知に引っ掛からない魔物が、いるわけが無いだろッ」

 『ゲームなので仕方ないと言えば、それまででなきが』


 現実と違って、仮想の敵は魔力持ってませんから。

 

 (ああ、だからですか)


 敵の発見がいつもより遅いのは、魔力を感知できないからだったんですね。


 「挙句、6本腕のゴブリンだと……馬鹿にするのもいい加減にしろ」


 阿修羅ゴブリンでしたっけ?

 各腕から、対応した攻撃を飛ばすとかいう意味不明な魔物でしたね。


 (最終的に、全部の腕の攻撃を躱したら口からビーム吐いてきましたからね)

 

 もう何でもアリな気がします。


 「ナビィ、まだやるんですか?」


 ステージは3面ボス。

 数々の悪意の数を乗り越え、たどり着いたボスに初見殺しを食らうという状況。


 1面で止まっていた私に比べると、流石、幻聴ナビィというところです。

 

 「たかが映像ごときに負けるなど────」

 『説明書によると、全部で6面あったはずです』

 「────いいか、これは敗北ではない勇気の撤退だ」


 幻聴ナビィでも心が折れましたか。

 

 ◇◆◇


 「だいぶ遅い時間ですね」

 『全くだ』


 格納庫にから見える外の景色は、黒一色。

 肌を突く風が冷たいですね。


 (結局、私はまだまだ実力不足ということですか)


 今回の仮想訓練シュミレーションで実感しました。

 幻聴ナビィが居なければ、初心者にもなれない腕ということだと。


 (このままでは、いけませんね)


 「あの、ナビィ」


 実際に畏まった話しをしようとすると、口が上手く回りません。

 いつもなら、難なく話せる幻聴ナビィなんですが。


 「えーと、ですね」

 『どうした?言いたいことがあるなら、はっきり言え』

 「魔術の練習というか、訓練法とかありませんか?」


 私は────あの時と変わらず、弱いままです。

 それでは、また、間違って失うかもしれません。


 『魔法の練習?そんなもの無くても────』


幻聴ナビィの声が途切れます。


 『────いや、そうだな。まずは一つの魔法を使いこなせ』


 貴様に教えた強化魔法あるだろ。

 あれは、基礎みたいなものだ。

 

 簡単な魔法ながら、魔力の伝達、出力の調整、と

 魔法を使うにあたっての基本が詰まっている。

  

 『結局のところ、数を使うのが一番────なハズだ』


 幻聴ナビィにしては歯切れが悪いですね。

 いつもなら、もっと威張って話してくれるんですが。


 (しかし、そう言われましても困りましたね)


 「練習の為に、戦鋼せんこうを動かすわけにもいきませんし」


 折角なので、実際に使うもので練習したいですし。


 『その程度の練習なら、人形で十分だろ』

 「人形ですか?」

 『ああ、まずは小さなものからだ』


 一理はありますが。 

 人形をどうするかが、問題ですね。


 (裁縫は得意ではありませんし)


 縫うことぐらいはできるんですが、

 作るとなると流石に無理な気がします。


 何か、いい手段は────


 「おっ、嬢ちゃん。こんな時間まで訓練かい?」

 「────へっ、いや、もう寝ようかと」


 こんな夜に、まだ人がいるとは。

 風に乗って来るのは、油の匂い。


 (よく見れば、整備員の方ですか)


 交代しながら、機体や施設の整備をしているのでしょう。


 「すみません。邪魔になってますよね」

 「いや、構わないぜ。よく皆が休んでる場所だしな」


 ────レイニー大尉とかな。ここで何時もタバコ吸ってるし、気にすんな。

 夜だからバレてないとでも思ってんのか、配給品を馬鹿スカ吸いやがって。

 こっちの身にもなって欲しいぜ。


 「そ、そうなんですね」


 配給品、購買で買えるものですか。

 高い金さえ払えば、何でも買える印象がありますね。


 前に見た時は、鉛筆から食べ物まであった気がします。


 (と、すると目的のモノもあるかもしれません)


 「あの、ここの購買部に人形とかありますか?」

 「どうした急に、趣味か?」


 整備員の目は、意外そうです。


 「いえ、魔法の練習に必要で」

 「人形かぁ、配給部には無かった気がするぜ」

 「ですよねェ」


 流石に、需要が無いですね。

 人形とか、割と子ども寄りの趣味ですし、その手の人なら自分で作りますよね。


 「まあ、頼めば仕入れてくれると思うぞ。プラモとかも頼めば仕入れたし」

 「何でも入れてくれるものなんですね」


 もっと、厳しい検閲とかがあるのかと思ってました。

 

 (異世界で働くストレス軽減もあるのでしょうか?)


 しかし、プラモですか。

 懐かしいですね昔はよく────いや、プラモ?

 

 (別に人型なら、人形ではなくてもいいのでは?)


 最悪、戦車のプラモデルでも練習にはなりそうですし。

 アリかナシかで言えば、聞いてみる価値はあります。


 「すみません、今の話を詳しく」

 「ああ、書類を配給部か、上司にだな」

 「いえ、そこではなく、プラモの部分です」

 「へっ?」


 整備員は、頭をかきます。


 「大した物じゃないぞ。昔のロボットアニメのヤツだが、どうした?」

 

 私にとっては、十分すぎるものです。

 昔のロボットなら、だいたい人体に近い形でしょうし。


 「無理は承知でお願いします。そのプラモ一つ譲ってくれませんか?」

 「……ほ、ほう」

 「あっ、もちろんお金は払います」


 数分後、交渉の結果。

 プラモデルを獲得することができました。


 (案外あっさりと譲ってくれましたね)


 配給品なので、割と苦労すると思っていたんですが。

 しかも、何故か無料で。おまけにニッパーもつけてくれましたし。

 

 (整備員の笑顔は少し怖かったですが)


 プラモデルの表紙は【HG 144/1────】


 「知らない機体の名前ですね」


 作るために、まずは接着剤の確保からですね。


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