#27 白熱!仮想訓練

 【オオモリ城壁基地(格納庫)】


 金髪短髪少女わたしたちは集まります。


 今日も元気な、帽子サニー一曹、褐色レイニー大尉。


 病み上がりなのか静かな、六角ナット少女です。

 

 「いや、機体どうするんッキュッか」

 「ナットのがあるでしょ」

 「あれ一応、彼女用の専用機ッキュよ」

 「背中がデカいだけでしょ」

 「いや、それはないッキュ」


 上官たちは、愉快な議論をしています。

 やはり、私に後方支援を経験させたいのでしょうか?

 

 ですが、私には致命的な欠陥があります。


 「その、実は新型機、操縦できないです」

 「「へっ?」」


 褐色レイニー大尉に頭を掴まれます。


 「ま、前が」

 「なぜ、それを早く言わないの」

 「言う瞬間タイミングがなかったというか、言いそびれたというか」

 「機種転換できてないぐらいは、怒らないわよ」


 暫しの間をおき、頭掴みアームクローから解放されました。


 「よし、私が悪かったわ         」

 「今何か言いましたか?」  ということはアレは未体験か

 「いえ、ちょっとついてきなさい」

 

 褐色大尉はそう言うと、格納庫の内部の部屋に案内します。


 「これは────」

 「模擬操縦席シミュレーションってやつよ」


 この────大きい長方形の銀箱が?

 横にドアが付いていますし、中に操縦席コクピットでもあるんでしょうか。


 「「うわぁー」ッキュ」

 「どうしたんですか、皆さん?」

 「「いえー、何でもない」ッキュ」


 何故かスルーされてしまいました。

 二人の表情に、同情と悪意を感じます。

 

 肩に手を置いた褐色大尉は、怪しい顔です。


 「まっ、せいぜい頑張ることね」

 「了解です」


 ドアに手をかけると、妙な寒気がします。


 (本能が拒絶している?)


 研究所に模擬操縦席シミュレーションなんてものは無かったので、

 記憶キイロの方の問題でしょうか。


 「まあ、早速やってみますか」


 振るえる手を抑え、ドアを開けます。


 ◇◆◇


 訓練生わたしを見送った褐色大尉────レイニーは笑みを浮かべます。


 「あなたたちも使ってもいいのよ?」

 

 少女二人────サニーとナットに振り向くが、


 「いやー、思い出しただけでも吐き気がー」

 「嫌な思い出しかないッキュ」


 居たのは、青い顔した少女達。


 「そんなにかしら?」


 私は、練習の為によく利用するけど。

 そこそこ面倒な程度よ?


 「それはレイニーが変態だからッキュ」

 「上官はー、実力があるからそんなことが言えるんですよー」


 「まあ、新人の心を折るのによく使われるから、言いたいことはわかるわ」


 難易度は【中級】で初心者に現実を見せる、なんて昔はよくやった手段ね。

 新人の頃、知らずにクリアまで飯抜きにさせられたのは、いい思い出ね。


 「酷い機械だッキュ」

 「本当の用途は別なんだけどね。ただ難しすぎるのがね」


 本当は大戦の頃の、疑似戦闘装置トレーニングマシーンだった気もするわ。


 「まあ、訓練生の場合それどころの問題じゃないかもしれないけど」


 今回の難易度設定は【超級】

 マイナス要素が酷すぎて勝てる設定ではないんだけど、


 (さっさと操縦を覚えるには十分)


 嫌になるほど死んで、早く現実で動かせるようになって頂戴。


 レイニーは、早速アラートの聞こえる模擬操縦席シミュレーションを見つめます。


 

 ◇◆◇

 【模擬操縦席シミュレーション(内部)】

 

 金髪短髪少女わたしは、台パンをします。


 「で、できませんよッ、こんなクソゲー」

 『おい、口調変わってるぞ』


 いや、幻聴ナビィもやってみたら分かりますよ。

 

 「このゲームには3つのクソ要素があります」

 『お、おう』 


 「1つ、操作性です」


 周囲に配置された50以上のスイッチ。

 ペダルに至っては3つもあります。


 (おかげで、起動するまでに20分もかかりました)

 

 起動するまでに4つの手順を踏む必要があり、説明すらありません。

 足元に手書きの説明書がなければ、即死でした。


 「次に、機体です」


 操縦席コクピットは最新なのに、戦鋼せんこうの性能が終わってます。

 戦鋼せんこうを動かす為の魔力タンクは、すぐに無くなりますし、

 熱量とかいう謎の設定が、行動を阻害してきます。

 

 (いや、操縦を理解していないと言えばそれまでなのですが)


 せめて、魔力タンクの回復剤ぐらいは欲しいです。


 「最後に、敵がクソすぎます」


 まず、探知機レーダーに映らず、急に出てこないでください。

 あと、攻撃方法────ゴブリンが、退きながら魔法を撃たないでください。

 それをやっていいのは、ゲーム内の兵士だけです。


 「総合して、クソクソクソの三冠王です」

 『────外の空気を吸うとか、どうだ?』 


 思い返せば、他にもありますね。


 時たま出る、敵の急所攻撃クリティカル

 誤射しかしない味方。

 敵の数を間違えるオペレーター。


 もはや、悪意のごった煮です。

 開発者は我々が苦しむのをおかずにご飯を食べています。


 (もう少し手心というか、人の心とかないんですかッ)


 考えれば考えるほど、眉間に皺が寄っていきますね。


 『昼だし食事に行くというのは、どうだ……』

 「嫌ですッ」


 幻聴ナビィが何か言っていますが、それは甘えです。


 負けたままで終われる訳ないじゃないですかッ。

 

 「クリアするまでやりますよ、ナビィ!!」

 

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