#26 それはそれ、これはこれ
【オオモリ城壁基地(医療室) 】
横で寝ている
「不幸中の幸いかしら、ただ気絶してるだけよ」
あと数時間もすれば起きるそうよ。
「状況、聞いてもいいかしら」
「事故で露見した隠し通路から、敵が出現────」
「続けて」
「────六角ナットの奮戦もあり、敵を撃退に至ります」
「なるほど、急な接敵だったわけね?」
「はい」
「貴方が機体に固執して戦闘になったわけじゃないのね?」
「それは────分かりません」
私は作った
上官を見返す為という反骨精神があったのでしょうか。
「あの時は、戦うことしか考えていませんでした」
「そう? けど、退くという選択肢もあったはずよ」
言われてみればですね。
敵が来たから倒す、ということしか考えていませんでした。
(本当にそうでしょうか?)
あの時熱くなった頭、戦うことしか考えなかった頭は。
反骨精神などではありません。
(自分自身が戦場から逃げない為に、他の選択肢を消していた)
これが答えだと思います。
「心意気は結構────でも、それは視野が狭い以外の何物でもないわ。」
ですが、別の事が言いたいような顔をしています。
「今回、両方助かったのは運のおかげだと思いなさい」
「そう、ですね」
勝因を分析すると、敵の数、状況に救われた節があります。
もしも、数が多かったり、敵が強かった場合、
私もベットで横たわるか、来世に期待していたかもしれません。
「……ああ、もう、本当に調子狂うわねッ」
褐色大尉に、頭を押さえられます。
「あの反抗的な態度はどこにいったのよ」
「あれは、その」
一時の気の迷いと言いますか。
本来は、上官に反抗することなど考えないんですが。
「いい、反省は重要だけども。それはそれとしてッ」
────あなたが基地を守ったことは褒められるべき、なのよ。
「へっ?」
私が間違ったのではないのではないのでしょうか?
彼女が乗せた手は、髪を撫でます。
「ええ、ええ、よく頑張りました」
────貴方の働きは、無謀かもしれないけど、決して無駄ではなかったわ。
未然に起こる脅威を防いだのよ?ちょっとは威張りなさいよ。
なのに、植物みたいに話を聞くんだから。
「全く、どんな性格してるのよ」
撫でていた手を止めると、
持っていた封筒を差し出してきます。
「これは────」
「まっ、おとなしく学びなおしてくることね」
中に入っていたのは、戦鋼訓練学校の推薦状ですか。
文字は、何回も書き直された形跡があります。
◇◆◇
【オオモリ城壁基地(格納庫)】
「今日も整備っすか、大尉」
「この後、地下探索の命令がおりそうなのよ」
格納庫内で、工事用のパワードスーツも準備中か。
(仕事が増えて面倒とは、言えないわね)
戦鋼を調整するために、機材でも取りに行きますか。
確か、格納庫の奥に────
「あれ、これは」
「訓練生が乗ってた戦鋼っすよ」
戦鋼【SN-P1】とペンキで書かれた機体は、
右腕は融解しており、幾つかの装甲は無くなっている。
(昔、見た物より歪で継ぎ接ぎだらけね)
溶接は適当だし、
「酷い出来ね」
「全くです」
こんな機体で良く生きてたわね。
褒めたけど、本当に運が良かったのね。
「まっ、エンジンとコアだけ分解して残りは廃棄で」
「いや、それが、」
整備員は言葉に詰まる。
「────
何を言っているのかしら?
エンジンとコアがない戦鋼があるわけないでしょ。
「ですが、
「……これ、ただの鉄の鎧ってこと?」
「現状そうなりますね」
思わず頭を抑える。
「これ、本当に動いてたの?」
「脚部の芝刈用モータは、全部焼ききれていました」
「もう、ツッコまないわよ。ただの過電流よね?」
「隊員曰く、自力で上に上がってきたらしいです」
頭が痛い。
もう今日は帰っていいかしら。
夢を見るぐらいには、疲れが溜まってる可能性があるわ。
「ま、まあ、敵もビビって退却でしょ。ハリボテでも十分よね?」
「それが現場の荒れ方を見て、」
コイツ、初級どころか中級魔法を受けてます。
「────冗談よね?」
「事実です」
いやいや、
初級魔法で消し炭にされてきた機体なんて山ほど見てきたし。
実際に、私が経験した話だし。
(だとしても、もしそれが本当なら)
コイツに乗っていた
「今年の合同演習、何月よ」
「12月だったと記憶していますが」
「あと半年、あるわね」
整備員に、手荷物を押し付ける。
「た、大尉殿ッ」
「ちょっと、急用思い出したわ」
さて、彼女がまだ帰ってないといいけど。
◇◆◇
「ここに居たのね」
「あっ、すみません。もうすぐに撤退準備を終わらせますので」
キイロ訓練生は荷物を、もうまとめ終わってたのね。
まだ、出発には時間があるとは言え、ちょっと危なかったわね。
「封筒をよこしなさい」
「へっ?」
奪い取られる封筒。
目の前で引き裂かれる書類。
「これで良し」
訓練生が、啞然としてるけど気にしたら負けね。
「あのこれは」
「プランBよ」
プランBのBは、無茶ぶりのBよ。
正直な所、状況が変わったって奴かしら。
「現金な奴とでも、なんとでも言ってちょうだい」
銃弾を見て避けたあたりから、逸材とは思ってたけど、
────まさかここまでの化け物とは。
(本音は、学校で時間をかけて精神を治して欲しかったけど)
才能は十分、となれば荒治療、一択。
今すぐ現場でシバいて、鍛え上げる。
そして────
「あのいけ好かない連中に、一泡吹かせるのよ」
ウチの部隊に足りない、絶対的なエース。
私みたいに階級だけじゃなくて、本当の実力を持った化け物。
この子を、ふんぞり返っている女王艦隊のエースの連中を
────撃抜く切札にする。
「死ぬ気で頑張りなさい。明日から私の後方支援よ」
今日から、また忙しくなりそうね。
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