#26 それはそれ、これはこれ

 【オオモリ城壁基地(医療室) 】 


 金髪短髪少女わたしの前には、褐色大尉レイニーが立ちます。

 横で寝ている六角ナット少女の寝息は静かです。


 「不幸中の幸いかしら、ただ気絶してるだけよ」


 あと数時間もすれば起きるそうよ。

 褐色大尉レイニーは、私を見ます。


 「状況、聞いてもいいかしら」

 「事故で露見した隠し通路から、敵が出現────」


 「続けて」

 「────六角ナットの奮戦もあり、敵を撃退に至ります」


 「なるほど、急な接敵だったわけね?」

 「はい」


 「貴方が機体に固執して戦闘になったわけじゃないのね?」

 「それは────分かりません」


 私は作った戦鋼せんこうに、囚われていたんでしょうか。

 上官を見返す為という反骨精神があったのでしょうか。


 「あの時は、戦うことしか考えていませんでした」

 「そう? けど、退くという選択肢もあったはずよ」


 言われてみればですね。

 敵が来たから倒す、ということしか考えていませんでした。


 (本当にそうでしょうか?)

 

 あの時熱くなった頭、戦うことしか考えなかった頭は。

 反骨精神などではありません。


 (自分自身が戦場から逃げない為に、他の選択肢を消していた)


 これが答えだと思います。

 

 「心意気は結構────でも、それは視野が狭い以外の何物でもないわ。」

 

 褐色大尉レイニーの目は厳しいです。

 ですが、別の事が言いたいような顔をしています。


 「今回、両方助かったのは運のおかげだと思いなさい」

 「そう、ですね」

  

 勝因を分析すると、敵の数、状況に救われた節があります。

 

 もしも、数が多かったり、敵が強かった場合、

 私もベットで横たわるか、来世に期待していたかもしれません。

 

 「……ああ、もう、本当に調子狂うわねッ」


 褐色大尉に、頭を押さえられます。


 「あの反抗的な態度はどこにいったのよ」

 「あれは、その」


 一時の気の迷いと言いますか。

 本来は、上官に反抗することなど考えないんですが。


 「いい、反省は重要だけども。それはそれとしてッ」

 

 ────あなたが基地を守ったことは褒められるべき、なのよ。


 「へっ?」


 褐色大尉レイニーは何を言っているのでしょうか。

 私が間違ったのではないのではないのでしょうか?


 彼女が乗せた手は、髪を撫でます。


 「ええ、ええ、よく頑張りました」


 ────貴方の働きは、無謀かもしれないけど、決して無駄ではなかったわ。 

 未然に起こる脅威を防いだのよ?ちょっとは威張りなさいよ。

 なのに、植物みたいに話を聞くんだから。

 

 「全く、どんな性格してるのよ」


 撫でていた手を止めると、

 持っていた封筒を差し出してきます。


 「これは────」

 「まっ、おとなしく学びなおしてくることね」


 中に入っていたのは、戦鋼訓練学校の推薦状ですか。

 文字は、何回も書き直された形跡があります。


 ◇◆◇


 【オオモリ城壁基地(格納庫)】


 「今日も整備っすか、大尉」

 「この後、地下探索の命令がおりそうなのよ」


 格納庫内で、工事用のパワードスーツも準備中か。


 (仕事が増えて面倒とは、言えないわね)


 戦鋼を調整するために、機材でも取りに行きますか。

 確か、格納庫の奥に────


 「あれ、これは」

 「訓練生が乗ってた戦鋼っすよ」


 戦鋼【SN-P1】とペンキで書かれた機体は、

 右腕は融解しており、幾つかの装甲は無くなっている。


 (昔、見た物より歪で継ぎ接ぎだらけね)


 溶接は適当だし、コードなんかガムテープで固定してるし。


 「酷い出来ね」

 「全くです」

 

 こんな機体で良く生きてたわね。

 褒めたけど、本当に運が良かったのね。


 「まっ、エンジンとコアだけ分解して残りは廃棄で」

 「いや、それが、」


 整備員は言葉に詰まる。


 「────動力エンジン中枢コアがありません」


 何を言っているのかしら?

 エンジンとコアがない戦鋼があるわけないでしょ。


 「ですが、動力室エンジンルームは空っぽで、中枢室コアルームは存在すらありません」

 「……これ、ただの鉄の鎧ってこと?」

 「現状そうなりますね」


 思わず頭を抑える。


 「これ、本当に動いてたの?」

 「脚部の芝刈用モータは、全部焼ききれていました」


 「もう、ツッコまないわよ。ただの過電流よね?」

 「隊員曰く、自力で上に上がってきたらしいです」


 頭が痛い。


 もう今日は帰っていいかしら。

 夢を見るぐらいには、疲れが溜まってる可能性があるわ。


 「ま、まあ、敵もビビって退却でしょ。ハリボテでも十分よね?」

 「それが現場の荒れ方を見て、」


 コイツ、初級どころか中級魔法を受けてます。


 「────冗談よね?」

 「事実です」

 

 いやいや、旧式戦鋼ポンコツの装甲なんて銃弾ですら貫通するのよ。


 初級魔法で消し炭にされてきた機体なんて山ほど見てきたし。

 実際に、私が経験した話だし。


 (だとしても、もしそれが本当なら)


 コイツに乗っていた操縦者パイロットは────


 「今年の合同演習、何月よ」

 「12月だったと記憶していますが」

 「あと半年、あるわね」


 整備員に、手荷物を押し付ける。


 「た、大尉殿ッ」

 「ちょっと、急用思い出したわ」


 さて、彼女がまだ帰ってないといいけど。


 ◇◆◇


 「ここに居たのね」

 「あっ、すみません。もうすぐに撤退準備を終わらせますので」


 キイロ訓練生は荷物を、もうまとめ終わってたのね。

 まだ、出発には時間があるとは言え、ちょっと危なかったわね。


 「封筒をよこしなさい」

 「へっ?」


 奪い取られる封筒。

 目の前で引き裂かれる書類。


 「これで良し」


 訓練生が、啞然としてるけど気にしたら負けね。


 「あのこれは」

 「プランBよ」


 プランBのBは、無茶ぶりのBよ。

 正直な所、状況が変わったって奴かしら。


 「現金な奴とでも、なんとでも言ってちょうだい」


 銃弾を見て避けたあたりから、逸材とは思ってたけど、


 ────まさかここまでの化け物とは。


 (本音は、学校で時間をかけて精神を治して欲しかったけど)


 才能は十分、となれば荒治療、一択。

 今すぐ現場でシバいて、鍛え上げる。

 そして────


 「あのいけ好かない連中に、一泡吹かせるのよ」


 ウチの部隊に足りない、絶対的なエース。

 私みたいに階級だけじゃなくて、本当の実力を持った化け物。


 この子を、ふんぞり返っている女王艦隊のエースの連中を

 

 ────撃抜く切札にする。


 「死ぬ気で頑張りなさい。明日から私の後方支援よ」

  

 今日から、また忙しくなりそうね。




 

 








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