#25 俺達/私たちの戦場

 【オオモリ城壁基地(地下) 隠し通路】


 急に飛び出してくるとは何なんだ────耳無し獣人は。

 毛の長さから見るに、魔力量はそこそこか。


 (人型だが────顔が異形そのもの)


 しかも、頭に奇妙な突起が付いている。

 我々のように、生まれなかったのを後悔するんだな。


 「隊長ッ、奥に人影は見えません」

 「ご苦労」


 新人なのに先陣をきるとは、見どころがある奴め。


 (やはり、呼吸がしにくいな)


 補助魔法で緩和されているとはいえ、水の中の方が心地よい。

 おさも全く無茶を言ってくれる。


 「隊長ッ、この耳無しはどうしますか」

 「放置して置け」


 後で、処理すれば問題はない。


 (それより、周囲の把握だ)

 

 一体どうして、我々の作戦がバレたのか。

 敵はどのぐらいの規模なのか。

 

 「警戒しておけ、何が来るか分からんぞ」

 「「「はっ、はい」」」


 悪くないチームだが、まだまだ練度が足らんな。

 

 ◇◆◇


 【オオモリ城壁基地(地下) 廃品置き場】


 チームに槍を構えさせながら進むが、敵影は見えない。

 音は────補助魔法のせいで詳しくは聞こえないか。


 「こ、ここは何でしょうか」

 「倉庫のようなものだろう」


 おさの昔話だと

 ────地上には魔道具が集まった倉庫、いや、宝物庫があるのじゃ。我々には理解できないモノじゃが、だいたいは奇妙な形で、途轍もない効果を秘めておる。


 「気を付けろ、ここは最重要場所かもしれん」 

 「わ、罠があるってことですか」


 見たところ奇妙な形の道具ばかり。


 (やはり、魔道具の倉庫に違いない)


 とすれば、先の耳無し獣人は倉庫番か何かか?


 「た、隊長見てくださいッ」

 「なんだこれはッ」


 ────海の怪物クラーゲンを模した杖か。


 怪物を象徴する吸盤が付けられた杖。

 一見、簡素に見えるが、杖の効力を最大限まで発揮させるための簡素さ。


 使い方を間違えれば、世界を滅ぼせる一品だぞ。


 「だが、何のオーラも感じないな」

 「た、確かに」

 「おおよそ、失敗作だ。でなければ、雑に置いてはいないだろう」

 「流石、隊長だ」


 そう褒めるな。

 

 「だが、迂闊な行動はよせと言ったはずだぞ。」

 「す、すみません」


 少し緊張感が足らんな。

 不慮の事態に対応が出来んぞ。


 「そこの土人形ゴーレムが動き出したらどうする」

 「「「へっ!?」」」


 皆の視線は、土人形ゴーレムに集まる。

 継ぎ接ぎだらけの腕、ボロボロの体、一つしかない瞳。


 (おそらく放置されて、もう長い年月が経っているのだろう)


 土人形ゴーレムとはいえ、少し悲しさを感じさせてくれる。


 「冗談だ」


 怖い顔をするな、警戒心を煽っただけだ。

 宝物庫を守る土人形ゴーレムなら、部屋に入った時点で起動している。


 「た、隊長ぅ」

 「だが、何が起こるか分からん。気を引き締めろ、ということだ」


 「「「は、はいッ」」」


 その後、周囲を探索するが人影は無し。

 目の前の土人形の周りだけ、荒れているのは不思議だったが。

 

 (昔に、コイツが暴れたからなのだろう)


 とすれば、奥の道に進むのが正解か?

 いや、物資を回収して一度拠点に戻るか?

 

 (おさから指定された日まで、まだ余裕────)


 「全く、土人形ゴーレムごときが俺様を脅かしやがって「ガッ」」

 「おい、何をやっている」


 迂闊なことをするなと、あれ程。


 「あ、いや、すみま────「ドォンッ!!」」


 瞬間しゅんかん、空が落ちてきたような、衝撃しょうげき

 部下は、水泡のようにはじけ飛ぶ。


 「た、隊長ッ」

 「うろたえるなァ、武器を構えろ」

 

 まさか、動くとはな。魔法回路がかみ合ったか?


 部下には悪いが、土人形ゴーレムの攻撃方法は見さしてもらった。

 土人形の攻撃方法せんとうパターンは、命令された行動のみ。


 (拳を振ったのなら、かなり簡易的な物だな)


 「魔法で削れ、中級チュウキュウ-水魔法ミズマホウ

 「「しょ、初級-水魔法ミズマホウッ」」


 魚鮫族の基本陣形。


 いくら接近攻撃が脅威であろうと近づかなければ問題あるまい。


 「撃て、撃て、撃てッ」

 「「水魔法ミズマホウ水魔法ミズマホウ水魔法ミズマホウ!!」」


 おおくの水弾が弾け、砂埃すなぼこりが舞う。


 水中と違って、水魔法の使い勝手が悪いな。


 「だが、土人形ゴーレムには、十分だろう」


 部下を回収して退かせてもらうか。

 部下を傷つけたとなると、長に怒られるのは確定だな。


 「俺、やりましたよッ、隊t────」


 土人形の腕が、部下を砕く。

 煙を切り裂いた腕は、継ぎ接ぎはあれど、綻びはない。


 「────馬鹿な」


 あれほどの魔法を受けておきながら無傷だとッ。

 

 ◇◆◇


 『おいおい、もう終わりか?』

 「ナビィ......私、生きてますよね」

 『当然だ。10倍でも死にはせん』


 そ、そうなんですか。


 直撃した時は、2度目の天国が見えましたが、気のせいだったようです。


 『しかし、拳が甘いな』

 「前に殴れ、って言ったのナビィじゃないですか」

 『雑魚に当てろとは言ってない』


 魚人に格差があるんですか?


 見た感じ服装が違うぐらいしか区別はなさそうですが。


 「x、xSVXgdsfYッ」

 「vCYxdOAeUe!!」


 『ほら、魚人逃げるぞ』

 「っ、分かってますよ」


 水弾を撃ってきますが、本当に効いていませんね。


 (機体へのダメージがないなら、直進させてもらいます)


 ペダルを踏みこんで、前へ。


 視界が更に悪くなりますが、位置は────


 「xSVXッ、FENzyU、FENzyU」

 「逃がしませんよッ」 


 戦鋼せんこうを振りかぶり、腕を振り下ろします。


 「FENzyUッ、FENzyUッ」

 「────あァぁぁぁッ」


 魚人ぎょじんは、一瞬の拮抗────爆/散ばくさん


 機体を揺らすほどの、衝撃。

 操縦席コクピットは揺れ、思わず前に倒れこみます。


 『馬鹿がッ、魔石ごと潰すアホがどこにいる』

 「でも、ナビィは前に砕いてたじゃないですか」

 『あんなカス魔石は砕いても問題ない』


 画面モニターには、日の光が差します。

 

 (天井が衝撃で崩れましたか)


 次に爆発が起これば、確実に天井は崩落します。

 最悪、基地本体に影響が及ぶかもしれません。


 『本来は、持って帰りたいところなんだがな』

 「どうするんですか、ナビィ」


 接近する足音、

 戦鋼せんこうに近づいてきますか。


 「ETtTtxeqd、NGIxYッ!!」


 『タイミングを合わせろ、魔石ごと焼き斬る』

 「やっ、やってやりますよ、ナビィ」


 狙うは────胸の部分。

 経験上、人型ならば、胸に魔石があるハズです。


 「次に爆発させたら、私も死ぬかもしれません────」


 魚人は、目前。

 

 「────そこォォ」『上級fortschrittlich-火魔法Feuermagie


 胸に突き刺さる、熱線。

 熱線は押し込むように、大きくなり────


 「────ッ」


 ……やがて消えます。


 画面モニターに映るは、崩れた瓦礫と、砕けた赤い石のみ。

 先ほどの戦闘は何処に、爪痕だけが残っていました。

 

 スピーカーが震えます。

 

 [誰かk、誰かいるのッ!]

 [レイニー、焦ってtもいいことないッキュよ]

 [うるさいわね、誰kかッ]


 繋がっているかも分からないマイクを取り上げて喋ります。


 「こちら────木色キイロ 来来ライライ、負傷者の、負傷者の回収を頼みます」


 天井から差す光は、眩しいです。


 

 

 

  






  




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