#23 動きと仕組み

 【監視カメラ(格納庫) 映像開始】


 カメラに映るは、洗浄される戦鋼せんこう(背後装備付き)


 手前には、

 黒髪にナットで髪を止めた、六角ナット少女と

 黒ずんだ作業服を着た、整備員。


 「にーちゃん、機体が思ったように動かないんだけどー」

 「具体的には?」

 「ふらつくというかー、軸がズレているというかー?」


 六角少女は、ふらふらと揺れます。


 「訓練前に整備は終わらしたはずだぜ」

 「でも動かすときに違和感がー」

 「なら、部品の問題じゃねぇな」


 整備員は、頭をかきます。


 「じゃあ何が問題なのー?」

 「OSソフトウェアの問題だ」


 六角少女は首をかしげます。


 「今の戦鋼せんこうOSソフトウェアじゃ、追加武装に対応できなかったって話だ」

 「じゃあ、全て手動マニュアルで動かせるようにしたら大丈夫ってことー」

 「……それ、冗談で言ってるよな」

 「いや、真面目だけどー」


 整備員は、額を押さえます。


 「例えば、戦鋼せんこうが歩くために必要な動作はなんだ」

 「足を動かすことじゃないの?」

 「簡単に言えばそうだ。だが、具体的にだと────」


 足の角度、腰の捻り、腕を動かしての重量調整、etc

 合計100個以上の関節電動機モーターの起動。


 しかも、ただ電動機モーター動かせばいいってわけじゃない。

 全部を調整しながら動かすことで


 ────歩くっていう動作は出来る。 


 「お前さんにそれができるか?」

 「いやー、複雑ですねー」

 「……つまり、人様に処理できる動作じゃないってことだ」


 整備員は、歩いている足を指す。

 

 「複雑だけど、俺たちがいつも歩いてる動作と変わりないんだぜ」

 

 六角ナット少女は、足を動かす。


 「自分でやるのは簡単なんだけどねー」

 「そりゃそうだ。それを自分の倍以上ある物で、やるのが大変なのさ」

 

 整備員は、整備帽を被りなおす。


 「まっ、嬢ちゃんは戦鋼の教本の勉強からだな」

 「なー、なにをー」

 「おいおい、そんなに足踏みしても「ドォンッ!!」────へっ?」

 

 六角ナット少女は、注目されます。


 「えっ、えー、いや私何もしてないよーッ」


【記録終了】


◇◆◇


一方、オオモリ城壁基地【地下】


砂埃が晴れ、散乱した機材と廃材の中にあるのは、横に倒れた鉄の鎧。


鎧の肩には、ペンキで戦鋼せんこう【SN-P1】と書き直されており、

装甲は継ぎ接ぎだらけ、背中からはコードが見えています。


正面装甲が取っ払われ、周囲から丸見えの操縦席コクピットでは、

金髪短髪少女わたしが、倒れています。


「ナビィ────」

『馬鹿者────』


「『きちんと機体を動かせ』してください」

「『......あッ?』」


幻聴ナビィは、キレキレです。


「何かいいたいんですか?」

『まず、魔道具の調整は分野外だ』


でも、幻聴ナビィ『私なら余裕だな』って言ってませんでしたっけ。


『うっ────い、いや、私の負担が大きすぎるのが悪いッ』

「そんなにですか?」

『ああ、この魔道具ッ、ポンコツの癖に操作が多い』


例えば、歩く────電動機モーターを動かす為に、

魔力の伝達、雷魔法の発動、威力調整、発動時間をいじった挙句、

それを同時に100以上で行う。


『馬鹿だ、馬鹿が作った魔道具だ』


内容を聞く限り、かなり頑張っていたんですね、幻聴ナビィ

歩くって普通の動作なので、補助さえあれば簡単にできると思ってたんですが。


「でもナビィが頑張ってくれないと動きませんよ、コレ」

『......分かってる。分かっているが、無理な物は無理だッ』


 沈黙すること数分。

 頭にノイズが奔ります。


『tāmāde......仕方ない、貴様に魔法を教えてやる』

「魔法ですか?」


 意外です。

 幻聴は、もっと気分屋で、傲慢な印象があったんですが。


 (自慢することはあっても、教えてくれるのは初めてですね)


 何にせよ、有難く教えを請いましょう。


『教師の真似事など死んでも嫌だったが......一度で覚えろ』


 どうやら『できる』と言った手前、引っ込みがつかない様子です。


◇◆◇


初級ショキュウ-強化魔法キョウカマホウですか」

『本来は武具に使用するものだ』


まあ、中身がない戦鋼ポンコツなぞ、デカい鎧と変わらんだろ。


「な、なるほど」

『いいか、よく聞け。馬鹿どもは────』


強化魔法キョウカマホウを、装備品を魔力で硬くする為に使う。


だが、魔法の本質はそこではない。

装備品の先まで魔力を張り巡らし、自分の体の拡張として扱うこと。

行動の幅を増やし、対応の柔軟性を上げる。


『それが、この魔法の神髄だ』


幻聴ナビィは誇ったように言い切ります。


「つまり────戦鋼せんこうに使えば体のように動かせる、と」

『まあ、最初からそこまでは期待していないがな』


全てが夢のように上手くいく魔法ではないようです。

ですが、やってみる価値はあるでしょう。


「では、早速────初級しょきゅう-強化きょう……待ってください」

『どうした、何か不満があるか』


いえ、もっと根本的な問題です。

魔法の呪文を忘れたとか、もっと強い呪文が欲しいとか

そんな話ではありません。


いいですか、幻聴ナビィ


落ち着いて聞いてください────


「魔法ってどうやって使うんですか?」

『はっ?』


呪文唱えただけで発動してたら、さっき成功してますし。

何かしらの過程が必要なのは分かります。


『魔法とか家で習ったりするだろ、普通』

「魔法学......あれは人がやるものではありません」


魔法学────懐かしい名前ですね。


魔法学は、名の通り魔法を分析・研究する科目。

専用の大学が作られたり、授業にあるぐらい人気の高い分野なのですが。


内容は複雑。

意味不明の数式、英語ではない英語、無駄に多い括弧。


(先生に言われた言葉は、考えるな慣れろ、でしたっけ?)


単位ごとドブに投げ捨てた思い出があります。


『ええいっ、なら最初、私が貴様の魔力を操作する』

「それでコツを掴めと」

『そうだ。貴様は呪文を唱えてろ』


幻聴ナビィ、なんかヤケクソになってませんか。

何時もの回りくどい言い方はどこにいったんでしょうか。


『では、魔力を出すぞ』

「あっ、はい」


胸に感じる灯の感覚。

心臓と逆の位置が鼓動する不思議な感覚。


生み出されるは、光の粒。

光は、腕を通り、手から出ていきます。


(暖かいのに、体が出血した気分です)


手から出た光は、操縦席に広がり、戦鋼せんこうに吸い込まれていきます。


『早くしろ』

「あっ────しょ、初級しょきゅう-強化術きょうかじゅつ


瞬間、周囲がぼんやり発光します。


(上手くいったのでしょうか)


『ほら、動かして見ろ』

「ええと、手を「ギ、ギギッ」────えっ」


歪な音とともに動く、指の先。

ですが、操縦席コクピットからは確かに見えました。


「ナビィ、見てください指が、指が動きましたよッ」

『まだまだ、だな。ほら次だ、次』


金髪短髪少女わたしの夜は、今日も明けていきます。

期限までは後────1日。


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