#22 重いと思い

◇◆◇

 【監視カメラ(車庫) 記録】


 「兵長ッ」

 「どうしたァ」

 「重機が動きません」

 「じゃあ、他のを使えェ」

 「いや、他もです」

 「そりゃあ、どうなってんだ」

  

 重機は、風でガタついている。



 【監視カメラ(第5廊下) 記録】


 「おい、ここ停電してるぜ」

 「ほんとだ、電球でも切れたのか?」

 「おいおい、この前変えたばっかだぜ」

 

 天井からは、配線が垂れさがる。

 


 【盗撮カメラ(司令室) 記録】


 「あれー、今日PC動かないんだけど」

 「馬鹿言ってないで仕事をしてちょうだい」

 「いやー、まじか。記録媒体HDDだけは止めてくれェッ」

 

 司令の悲痛な叫びが聞こえる。


 【記録復元:終了】

 

 ◇◆◇


 金髪短髪少女わたしは、唸ります。

 地下の廃材置き場の一角は、ライトで照らされ、

 机には様々な部品パーツが、周囲には工具と器具が放置されています。


 「何をしているの―?」

 「ナットナットですか」


 六角ナット少女の声が聞こえます。


 (もう今日の訓練が終わったのですか)


 電気炉の管理がこれほどめんどくさいとは。

 内部に置いた金属は、ドロドロに融解していますね。


 「少し手伝ってください。手袋をはめて型を────」

 「抑えてればいいのねー」

 「助かります」


 炉の中は熱いので、工具を使ってゆっくりと。

 取り出した金属を、型に注ぎます。


 (上手い具合に、型から糸ができればいいんですが)

 

 「あのー、金属の糸作ってどうするのー?」

 「電動機モータのコイルを入れ返るためです」


 重機の電動機モータでは戦鋼せんこうの関節は動かせますが、重すぎます。

 指一つ一つに搭載していたら、腕ごともげます。


 だからと言って、小さい電動機モータだけでは出力不足で動きません。


 「だから小さい電動機モータのコイルを入れ替え、性能を強化します」


 金属糸は、いい輝きです。

 後で、巻き付け作業をしておきましょう。


 「次は、こいつですか」


 目線の先は────机に固定されたミサイル。

 防衛用に、城壁に設置されていたのを一つ頂いてきました。


 「武器として付けるのー?」

 「いえ、分解します」


 頭を叩き落として、中から小型の機器を取り出します。

 

 (悪くない慣性航法装置加速度計と修正装置ですね)


 付属のジャイロ装置が、かわいらしいです。


 「これ何につかうのー」

 「姿勢制御の補助にでもなればと」

 「なくても大丈夫じゃないー?」


 甘いですね、六角ナット少女。

 昔は、私も無くても動くだろ思っていました。

 

 (ですが戦鋼せんこうは、4mの鉄の鎧です)


 装置無しで動かすと、まず真っすぐ進めません。

 結果潰れて死にかけましたし。二度とはごめんです。


 「へー、でもこれ動いてるときだけだよね。動いてない時はー?」

 「気合です」

 「へっ?」

 「気合と勇気で立つしかありません」

 

 自動制御装置オートバランサ無しで、立っているのは至難の業です。

 風はおろか、傾斜では確実に転びます。


 いいですか、六角ナット少女。

 必要なのは────転んでもどう起き上がれば死なないかの精神です。


 「もう少し作業を手伝ってもらえますか」

 「いいけどー?ちゃんと寝ようねー」

 「うぐっ」


 痛いところを突かれましたね。


 (ですが、順調に進めば、多分寝れるはずです)


 結局、少女の夜は明けていきます。


 ◇◆◇


 [監視カメラ(戦鋼隊員部屋) 記録]


 カメラに映るのは、大きな帽子の少女と褐色の女性。

 大きな帽子の少女は、手に持った紙を見せびらかします。 


 「戦鋼せんこうの指示だしたの、レイニーッキュね」

 「何のことよ、サニー」

 「とぼけても無駄ッキュ」


 手に持った紙────戦鋼分解の許可書。

 サインは、司令とレイニー大尉となっています。


 褐色の女性の女性は、書類を書く手を止めます。


 「......彼女にとっても基地にとっても利があると思ったからよ」

 「隊員が足りてないのにッキュか」

 「人手不足は今に始まった事じゃないわ」


 褐色の女性は、懐の拳銃を取り出します。

 弾倉マガジンを取り出し、部品を一つ一つ分解していきます。


 「彼女、銃弾を避けるどころか当りにいったわ」

 「えっ、レイニーが狙って撃ったんじゃないッキュか?」

 「本当は、2人にギリギリ当たらないラインで撃ったわ」


 褐色の女性は、分解された部品の汚れを取っていきます。

 

 「それはナット訓練生が弱かったから」

 「その日あったばかりの何を知っているのよ」


 取り出された弾倉マガジンの弾は、少しいびつな形をしています。


 「でも、味方を庇うのは当然だッキュ」

 「そんなんじゃないわよ、サニー」

 

 ────彼女は仲間を信用してないのよ。

 自分が守ってやらないと死んでしまう。

 そう、思ってるのよ。


 「それは、ダメなことッキュか?」

 「戦鋼せんこう乗り、特に女王艦隊クイーンズ・フォースにもなると見知らずの他人と組むことがよくあるわ」


 時には、犯罪者の連中だったり、海軍のいけ好かない奴らだったり。

 どんな奴でも背中を預ける時がある。


 「私たちの戦場は過酷よ。一人のせいで部隊が死ぬこともある」

 「そう────ッキュね」

 「疑うことは大切よ。でも、仲間を信用できない奴は最悪よ」


 褐色の女性は、最後の部品を磨き上げます。

 磨きの出来に、女性は満足しているようです。


 「ふゥん、だから本国で休んで欲しかったッキュか」

 「なんの事かしら、サニー?」


 帽子の少女は、書類を取り上げます。

 書類に書かれた褐色の女性の文字は、少し汚いです。


 「またまたァ、戦鋼育成学校せんこういくせいがっこうの推薦状なんか書いちゃってキュゥ」

 「なっ、返しなさいよソレ」

 

 褐色の女性は取り乱します。

 机に放置された部品は輝いています。


 「ち、違うわよ。腐らしておくにはもったいないと思っただけよ」

 「ふーん、それでキュッ?」


 褐色の女性は目を瞑ります。

 

 「うぐ────ここは良くも悪くも過酷すぎるのよ、悪いッ?」

 

 満足したかのように、帽子の少女は出ていきます。

 残された褐色の女性は、まだ唸っています。


 [記録終了]





 

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