#21 次の一手

 【監視カメラ(会議室) 記録】 


 カメラに映るは、

 褐色の女性と、大きな帽子を被った少女。


 「行っちゃったッキュ」

 「無駄よ。どうせ帰ることになるわ」


 何かしようと考えているようだけど、だいたいの手は打っておいたわ。


 「地下にある廃材から戦鋼せんこう動かしたりするッキュか?」

 「動力エンジン演算装置コアも、昔に抜き取られてるわ」


 重いだけの鉄塊をどうやって動かすのよ。


 「ならパーツを盗んでッキュ」

 「整備員には釘を刺しておいたわ」


 ついでに、3日間だけ警備のシフトを増やしました。


 「......そんなに彼女が嫌いッキュか?」

 「意味を測りかねるわね、サニー」


 女性は部屋を出ていく。


 【復元終了】

 

 ◇◆◇


 【監視カメラ(格納庫) 記録】  


 カメラに映るは、

 黒髪のナットを付けた少女と、整備員。


 「ライライ、大丈夫かなーぁ」

 「心配か、ナットの嬢ちゃん」

 「初めての仲間だからねー」

 

 二人の前にあるのは、むき出しになった操縦席コクピット


 「これ、直せないかなー」

 「頑張っても1週間ってところだな」

 「分解するのは直ぐだったのにー?」

 

 整備員は、作業用帽子を深くかぶる。


 「嬢ちゃん、戦鋼せんこうってのはそんな単純なもんじゃねえ」


 精密な部品、制御プログラム、定期的な整備

 3つがあって動く────技術の結晶みたいなもんだ。


 「一度外に出したら、また調整のやり直しだ」

 「そーなのー?昔のちっさい奴は自分でもいじれたけどー」

 「それ何年前のヤツだ?」

 「3年ぐらい前の奴かなー」


 整備員は、再び前を見る。


 「3年前とは比べ物にならないぐらい進化してるってことさ」


 装甲、関節、姿勢制御器、全てが小さくなり、全ての性能が向上した。 

 その結果、参考書一冊じゃ収まらないぐらいの知識が要求される。

 機械をいじりたいのに、何で量子について勉強してんのかってよく怒ったもんだ。


 「特に新型魔導エンジン、こいつが難敵でな」

 「気分屋というか、きちんとおだてないと動力として働いてくれない」


 整備員は、操縦席コクピット近くにある広い空間を見つめる。


 「子供みたいだねー」

 「子供をおだてる方がもっと楽なレベルだ」


 おかげで、どの基地整備班もエンジンの予備が欲しくて嘆いているらしいぜ。

 もちろん、ウチもだが。


 「ほら、嬢ちゃんは自分の機体のチェックをしな」

 「あいあいさー」


 各々は自分の仕事に取り掛かる。


 【復元終了】


 ◇◆◇


 場所は変わって、地下倉庫【廃材置き場】

 周囲には、壊れた機器が散乱し、中に水が溜まっているモノもあります。

 中でも一際大きい鉄塊────旧式の戦鋼【SN-P1】


 無理やり正面装甲を開けられた、それを見て、

 金髪短髪少女わたしは、唖然としています。


 「まさか、動力エンジン演算装置コアも抜き取られているとは」

 『ハリボテとは、正にこのことだな』


 通りでうんともすんとも言わない訳です。

 装甲は力技で剥がしましたが、内部は悲惨の一言。


 座席はボロボロ、画面モニターはひび割れ、肝心な部分は空洞です。

 真面目に動かすなら、新型の機体を作った方が早そうですね。


 『どうする、新型でも盗むか?』

 「どうせ、格納庫の警備は厳重ですよ」


 来る途中で見ましたが、一度来た時より警備が多くなっていた気がします。

 厳重な状態で、機体どころか部品を盗むことは不可能に近いでしょう。


 『なら、白旗でも振るか』

 「いえ、振るのは後です」


 白旗を振るのなら、出来るだけやってからでしょう。

 とりあえず────直せる範囲で機体の整備をします。


 『だが、整備と言っても部品が無いんだろ』

 「別に使える部品は格納庫以外にもありますよ、ナビィ」

 『......ポンコツ故の利点か』


 最新型ならまだしも、旧型の戦鋼【SN-P1】は大層な部品で作られていません。

 基本的に代用が利く部品で構成され、シンプルというか単純な形をしています。


 (まあ、そのせいで壊れやすいんですが)


 補強をきちんと入れないと、腕が落ちるとか日常沙汰でしたし。


 「という訳で、基地の物資を片っ端から分解してパクります」

 『つまり────いつも通りというわけだな』


 狙い目は、移動用の車や、作業用の補助機械とかですか。

 あとは、会議室や指令室のPCも欲しいですね。

 人が少ない区画から通信配線を引き抜くのもありかもしれません。


 「ふふ、ナビィ、昔を思い出しませんか」

 『ああ、迷子になって帰れなくなった話か』

 「違いますッ。研究所での部品探しの話です」


 監視を搔い潜って車を分解したり、研究所の謎の装置を付けてみたり、

 毎回ガムテープや雑な溶接で補強していた気がします。


 後は、他人の機体の部品をパク......交換するのもよくやりましたね。

 今思えば、彼らには申し訳ないことをしました。


 『だが、動力エンジン演算装置コアはどうするんだ』

 「私にいい考えがあります」

 『聞くだけならタダか』


 簡単な話です────


 「なければ、積まなければいいんですよ」 

 『冗談は、ほどほどにしろ』

 

 いいえ、冗談ではありません。

 


 ────私がエンジンで、ナビィがコアです。


 私達二人で、一つの戦鋼せんこうとなります。

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