#20 意識の問題

 金髪短髪少女わたしはまどろみます。

 魔物が1匹、魔物が2匹、魔物が3匹


 「ライライ起きてよー」


 目に映る少女は何を言っているのでしょうか。


 「いえ、撤退は許可されて────ほえ?」

 「もう朝だよー」

 「いえ、朝.....はっ!「痛ダッ」」


 痛みで脳が覚醒します。 


 「す、すみません、六角さん」

 「大丈夫ー、あと、昨日も言ったけどナットナットでいいよー」

 

 六角ナット少女は、額を抑えながら私を見ます。

 

 確か────昨日ヘロヘロになりながら上官に連れまわされた結果訓練生の部屋に着いて。

 部屋の都合上、六角ナット少女と同室で......軽い挨拶だけして寝ましたね。


 「昨日は直ぐに寝てしまい、申し訳ないです」

 「気にしてないよー。お疲れそうだったしー」

 

 時刻は6時(UTC-3 from スーア)というところですか。

 部屋の備え付けの時計ですし、正確なはずです。

 とすれば、朝飯が混み始める時間ですか。


 「急いで準備する必要がありますね」

 「最悪、戦闘食レーションでも大丈夫だよ」

 「それはモチベーションに影響が出ませんか?」

 

 戦闘食レーションは、基本保存性とカロリー確保が目的のモノです。

 本来は、常食するものではないんですが。


 「それより、昼からの訓練に備えて戦鋼せんこうを見に行こ?」


 結局、六角ナット少女に異を唱えることができず、彼女に連れていかれるのでした。


 ◇◆◇


 戦鋼が保管されている格納庫は、大型の実験場です。

 周囲は厳重に囲まれ、荷物や物資が散乱していることもありません。

 ですが、幾つかの格納場所ハンガーは開いているためか、部屋が無駄に大きく感じます。

 

 金髪短髪少女わたしが感慨にふけっている間に、

 六角なっと少女は整備兵に近づきます。

 

 「整備のおっちゃん、機体あるー?」

 「レイニーとサニーとこの新人か」


 予想通りというか、何というか。

 直属の上官は、褐色レイニー大尉と帽子サニー曹長ですか。


 「ライライちゃん、見てよ見てよ最新型だよォー」

 「叫ばなくても聞こえています」


 最新型戦鋼せんこうは、流線形で近未来という形です。


 「コレさ、とってもえっちだと思わないー」

 「人前で言う言葉ではないですね」

 

 彼女の言葉を解釈するなら、形が美的に感じるということでしょうか?

 空力か何かかは知りませんが、ふざけたデザインです

 個人的には角と丸みだけの無骨な形が好きです。


 「しかも、私がお願いした通り拡張装備オプションが付けれるようになってるうう」


 言われてみれば戦鋼せんこうの背中に、妙な器具が付いてますね。

 

 「拡張装備オプションとかあるんですね」

 「そうだぞ、嬢ちゃん」


 声をかけてきたのは、輸送中トラックの時に居た方ですか。


 「後は、奥の女王用の2機みたいに部品をいじるとかだな」


 奥の格納場所ハンガーにある戦鋼せんこうですか。

 見かけではわかりませんが、2機とも改造されているんですね。


 あれ......2機。六角少女の機体を足しても


 ────合計で3機?


 「すみません、私の機体は」


 数が足りてない気がするんですが。


 「えっ、嬢ちゃん戦鋼せんこう乗りだったのか」

 「も、もう1機余ってたりしませんか」

 「もう1機......あったが予備パーツにしちまったよ」

 「へっ?」


 予備パーツにバラシタ?


 「上も許可出してたし、新型の部品なんていくつあっても困らんしな」

 「冗談ですよね」

 「ところがどっこい現実だ」


 いえいえ、まだあきらめてはいけません。


 「他の戦鋼せんこうは無いんですか」

 「全部中央に持ってかれたよ。全く、上は何を考えているのやら」


 万事休すですか。

 機体が無くては、動かす以前の問題です。


 (日ごろの行いでも悪いのでしょうか)


 ゴミ拾いや、善行を......

 いえ、今度から八百万の神ではなくイエス様でも信仰してみますか。


 「一応、残った新型戦鋼ざんがいならある。一応だが」

 「とりあえず、それを見せてくださいッ」


 流石、八百万の神様です。イエス様とは比になりませんね。

 腕や足が欠損してるだけなら、多分動かせるはずです。


 (前回の戦闘では、全身アラーム状態でも動かせましたし)


 意外と何とかなるかもしれません。


 「ただ後悔はしないでくれよ」


 希望を胸に、不穏な言葉を呟く整備兵についていきます。

 足取りが妙に重いのは気のせいです。


 「こ、これは」


 それをあったのは────戦鋼せんこうと呼ぶには無理がありました。

 

 腕もなく、足もなく、頭もなく、

 そして、装甲すらありません、

 しいていうなら操縦席コクピットだけですね。


 「足と腕と頭は飾りです、ってことでしょうか」

 「完成度は30%切ってると思うぜ、お嬢ちゃん」

 

 流石に、体が生えてきたりはしませんよね。

 起動したら操縦席コクピットだけ動いたりしません?

 

 「ライライちゃん────」


 絶望していると、六角ナット少女が。


 「────コレは、ちょっとえっちすぎない?」

 「確かにえっちかもしれませんが」


 コード類や、内部がむき出しの操縦席コクピット

 装甲で覆われているよりも────いえ、今はそれどころではありません。


 「ナットナット、こういう場合どうすればいいと思います?」

 「うーん、私の戦鋼せんこうが貸せればいいんだけど」


 ですが、個人に設定された戦鋼せんこうを簡単に借りれるとは思いません。


 「明らかに連絡の行き違いだな。とりま、嬢ちゃんは上に報告したらどうだ」


 妙案もありませんし、整備員の言う通りにするのが良さそうです。


 ◇◆◇


 ドアに表記された名前は【会議室】

 褐色レイニー大尉と帽子サニー曹長には、無理を言って集まってもらいました。


 「えっ、機体がないッキュ?」

 「全く、自分の機体の管理もできないとは呆れるわね」


 褐色レイニー大尉と帽子サニー曹長の反応は異なります。

 

 「サニー次の配達日は何時かしら」

 「輸送車トラックは3日後にくるッキュけど、どうしたッキュか?」


 褐色レイニー大尉は、私を見ます。


 「貴方には3日後の輸送車トラックに乗って本国に帰ってもらうわ」

 「ちょっ、レイニー」

 「そもそも、昨日やるべきことは基地の見学では無かったハズよ」


 正論です。

 少なくとも、私は兵士です。ならば、自分の道具の確認が最優先のハズ。

 なのに、私は浮かれて基地の中を見てましたから。


 「それなら、連れまわした私にも責任があるッキュ」

 「でもよ────自分の道具すら面倒が見れない戦鋼せんこう乗りは信用ならないわ」


 別に本国に戻っても構わない。

 以前の私なら────今でさえ同じことを思っているハズです。


 ですが、なんでしょうか。

 【このままじゃ終われない。私は戦鋼乗りになって────】

 また、頭ではなく体が引き下がることを拒絶しています。


 (悪い気持ちではありませんね)

 

 負けたままというのは、あまり好みではありません。


 「つまり────3日以内に訓練に参加できればいいんですね」

 「それは、出来ればの話よね」

 「言葉はとりましたよ」


 去り際の挨拶もせずに、ドアに手をかけます。


 「待っていてください。必ず3日以内に戦鋼せんこうを用意してみせます」


 振り向く必要はありませんね。

 とりあえず熱くなった考えを覚ますため、シャワーでも浴びてきますか。

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