#19 進む時と止まった時

 金髪短髪少女わたしは、帽子サニー曹長に案内されます。

 

 城塞に囲まれた基地────大森オオモリ城壁基地だそうですが。

 予想以上に広い内部となってますね。


 「ここが食堂だッキュ」

 「ずいぶん変わってます」


 食堂というより、カフェですね。

 奥には、おしゃれなテラスも見えますね。


 軍事基地にしては、凝った内装です。


 「そんなに変わってるッキュ?」

 「すみません。個人的な評価です」

 「いや、気にしないでいいッキュよ」

 

 帽子サニー曹長は、食堂の注文所に進んでいきます。

 メニュー表は、相変わらず様々なものがあり値段も相応です、か。


 (今日は、非常用のレーションで済ませる予定だったんですが)


 給料未だに貰ったことが無いんですよね。

 非常に、まずい気がしています。


 「昼頃だし、食べていくッキュ」

 「あの......お金が」

 「もちろん、おごりで大丈夫ッキュ」

 「ありがとうございますッ」

 

 上官のお金ですし、控えめに注文しましょう。

 あっ────新作料理.....なかなかの商品ですね。

 ですが────期間限定も捨てがたいです。

 

 結局、帽子サニー曹長がオススメを注文してくれました。


 ◇◆◇


 場所は移り変わり、食堂のテラスへ。

 金髪短髪少女わたしの手元には、食べ終わった皿があるのみ。

 帽子サニー曹長は未だおいしそうに食べてます。


 眺めとしては、整備された訓練場と森────

 

 (基地の後ろって断崖絶壁になっていたんですか)


 辺鄙な場所に、城塞を作った訳です。


 「なかなかスゴイ眺めだッキュか?」

 「いや。すごい位置に基地があるなって思いまして」

 「昔は、悪さをしたら谷に落とされるって言われてたッキュ」

 

 リアル獅子の子落としですか。


 「訓練でヘマしないように気を付け......ます」

 「無理に畏まらなくてもいいッキュよ」


 ありがたいお言葉ですね。

 どうも昔からというか体のせいか、敬語が苦手になっています。


 「あと、レイニーがピリピリしてるのも許して欲しいッキュ」

 「いえ、特に気にしていませんが」

 「それでも、新人にあの態度は無いッキュよ」

 

 個人的には、印象に残って顔が覚えやすいので、プラスだと思います。

 初手に腹パンとかもありましたし、ギリギリ挨拶の範囲です。


 「全く、だから大規模作戦外されるッキュよ」

 「大規模作戦?」

 「そうだッキュ」


 ────集められた精鋭隊員エリートでデッカイトカゲをとかなんとかだッキュ。

 詳しくは知らないケド、色々大変だったらしいッキュ。


 「ここ以外にも精鋭エリート用の基地があるんですね」

 「宣伝の為に増やしすぎた結果ってレイニーは言ってたッキュ」

 「そうなんですか」

 「ここはその中でも末端キュ。名ばかりッキュよ」


 確かに、宣伝でもよく○○小隊を新たに設立とかやってたイメージがあります。

 戦場の英雄がーみたいな見出しでしたっけ。


 (戦争の風向きがいいなぐらいにしか感じていませんでしたが)


 宣伝目的だったんですね、アレ。


 「どの道、私は皆とのんびり過ごせればいいッキュよ」

 「平和的な考えですね」

 「今日と変わらない明日こそ宝だと思わないッキュか?」


 そうかもしれません。

 ですが、帽子サニー曹長の意見は今日が素晴らしいものだから言えるものです。

 でなければ、じゃないですか。


 「明日からは、ビシバシ訓練するから覚悟するッキュ」


 帽子サニー曹長は食事を片付け始めます。


 ◇◆◇


 他には、遊戯室や、隊員部屋、

 基本的な構造は、軍事基地と変わりませんね。

 スケールが全部デカいですが。


 「あとここが倉庫だッキュ」


 案内されたのは、地下。

 上につけられたライトに照らされた通路は、

 レンガ?石で壁ができており、上層部とは違う雰囲気です。


 ひんやりとした空気を感じます。


 「お酒とかがひやせそうですね」

 「食料倉庫も兼ねてるッキュ」


 壁際の籠には、野菜や果物が見えますね。

 他には樽や────


 「あれは絵?」

 『ハーピィ共の落書きだ』

 「ナビィ、言い方です」


 地下の壁に、鳥の絵が描いてありますね。


 (お世辞にも上手いとは言えませんが)


 他の部分は崩れていて、何を表しているのか分かりませんね。


 『この地域は元鳥カスハーピィ共の領地だったはずだ』

 「だから、魔物ハーピィの絵が残ってるんですか」


 幻聴ナビィは相変わらず物知りですね。

 5割ぐらいは嘘の事が多いですが。


 「壁画について知ってるなんて、珍しいッキュ」

 

 絵ではなく壁画だったんですね。


 「いえ、そう見えただけです」

 「なら、なかいいセンスの持ち主だッキュ」


 遠回しに美学的センスが壊滅的だと言われているんでしょうか?

 いえ、裏表なさそうな帽子サニー曹長のことです。

 単純に絵と判断したことを褒めているんでしょう。


 「それはソレで、ここ激戦で崩れかけてるから気を付けるッキュ」

 「今更ですか」


 上を見れば金属で蓋がされた部分があります。

 

 (天井でも崩れたのでしょうか)


 「ちょっと、備蓄の在庫見てくるッキュ」


 声が聞こえた時には、帽子サニー曹長はどこかに行ってしまいました。


 ◇◆◇


 金髪短髪少女わたしは考えます。


 勝手に見て回るのは、少し危険でしょうか。

 向こうには崩れた瓦礫とか、折れた武具が隅にまとめれている始末です。

 控えめに言って、倉庫というより、ゴミ捨て場になっています。


 (ですが、ゴミ捨て場の方がワクワクしますね)


 中には、機器のパーツや鉄の塊も────

 

 (あれ......見たことがある形ですね) 


 近づいてみると、輪郭がはっきりします。


 「これは────」『────よかったな貴様が大好きな産廃サンパイだぞ』

 「SN-P1エスエヌピーワンです。間違ないでください、ナビィ」


 見た感じ、かなり劣化してますね。

 片腕がありませんし、全体的に錆びてます。


 『乗らないのか?』

 「まず、動かないと思います」


 足元に気を付けて、機体を触ってみますが。


 「電源死んでますし、正面装甲ハッチも変形してますね」


 色々といじくりまわしていると、足音がします。


 「頑張っても動かないッキュよ?」

 「そうなんですか」

 「動かすのも大変だから放置されてるッキュ」


 それもそうですね。

 動いていれば、作業用なり土木用なり、使われてはいそうです。


 「ゴミ漁りにしては楽しかったですかね」


 降りようとして、ふと、手元が目に入ります。

 ライトに照らされた、手元は赤黒いです、か。


 (また思い出してしまいますね)


 手元を握りしめます。

 横にいる戦鋼せんこうは静かです。

 

 「あなたはここで何を見てきたんですか?」


 やはり、戦鋼せんこうは沈黙したままです。

 

 「ほらほら、次の場所を案内するッキュよ」


 結局、日が沈むまで帽子サニー曹長に連れまわされるのでした。

 

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