#18 城塞は臨む

 金髪短髪少女わたしは、唖然とします。

 城塞の中は広大です。広さで言えば13番基地の何倍もありそうです。


 「で、私はどうすれば」


 上官に挨拶するのが一般的ですか。

 ですが、周囲には基地服や野戦服を着た人ばかり。


 『イカれた格好の奴でも探して見たら、だ』

 「ふざけないで下さい、ナビィ」


 上官が戦鋼せんこう乗りだからと言って変な格好をしている────


 鬼殺し教官←常時飲酒

 目隠しアオイ一曹←目に鉢巻


 「────割と、アリかもしれません」


 戦鋼せんこう乗りは、基本的に変人ですね。


 (思わず唸ってしまいました)


 幻聴ナビィの意見は基本無視なのですが、今回は採用です。

 ですが、人込みの中から簡単にヤベー奴せんこう乗り


 『居るぞ』「居ましたね」


 基地の服を着て一般的と見せかけて、

 六角ナットを髪留めにしている少女。


 (個人的には、クレイジーさが足りないような気もしますが)


 少なくとも、彼女は普通の人ではないことは分かりますね。

 

 ◇◆◇


 金髪短髪少女わたしは、六角少女に近づきます。


 背は私ぐらいなので、人込みに居ると分かりずらいですね。

 灰色髪グレーに金属ナットは目立ちますけど。


 「あの、すみません」

 「へっ?」


 急に声をかけたのは失礼だったでしょうか。

 ですが、私にも分がありますので。

 自分から名乗り、礼を徹するのがいい......ハズです。


 「ええっと......木色未来キイロ ライライ、訓練生です」

 「訓練生?おっほん────貴様が、噂の新人かッ!」


 ど、怒鳴られてしまいました。

 早速、礼を欠いてしまったのでしょうか?


 「ははい、一応新人です」


 噂かどうかは知りません。


 「らいらいき────大層な名前だな。今日から貴様はライライちゃんだ」

 「はい?」


 六角少女上官?は何を言っているのでしょうか。


 (私の名前が気に食わなかったということですか?)


 H02元の名前より呼びやすく覚えやすいとは思います。

 少しキラキラしているのは否めませんが。


 「はいっ、復唱ッ」

 「ら、ライライちゃんですッ」


 私は、何をやっているんでしょうか。

 ですが上官の命令です。

 

 (円満な部隊を作るた為の秘訣かもしれませんし) 


 従っておくに越したことは────


 「そういう訳でライライちゃん、同期の六角ロッカク菜都ナットだよ」

 「へっ?」


 同期?

 六角ナットを頭に付けた、灰髪の少女が同期?


 「上官ではいないのでしょうか?」

 「階級は兵長だけど、分類としては同じ訓練生だねー」

 「......」


 騙されました。

 同期を騙すような六角ナット少女は信用なりませんね。


 「いや、ごめんってー」


 どんなに謝っても私の信用は取り戻せませんよ。

 失ってからこそ、大切なものに気づくのですから。

 

 ◇◆◇


 金髪短髪少女わたし六角ナット少女は、基地の廊下を歩きます。

 彼女の件は、夕食のおごりで勘弁してやりました。

 

 (せいぜい薄くなった財布に悲しんでください)


 野口千円札の大切さは身をもって知っていますからね。

 たかが野口千円札、されど野口千円札です。


 「いーや、一人で上官に合いに行くの心細かったからさー」


 どうやら六角ナット少女も上官に挨拶ですか。

 やはり、教官への挨拶が基本なのですね。


 「いや、まずは基地司令に挨拶からだよ」

 「そういうものなのでしょうか」

 「そういうものだよ」


 13番基地は、そんなこと無かったような。

 いえ、個人の権力が強すぎたので許されたということでしょうか。

 不思議ですね。


 と、常識を説かれていたら、豪華な木の扉まで来ました。

 扉には【司令室】ですか。なるほど。


 「し、失礼しますー」

 「......失礼します」


 外の日光に照らされるは、豪華な調度品と、書類が散乱している机。

 ソファーには、二人の少女ちっさい女性おっきい

 

 (どちらかが基地司令なのでしょうか?)


 「指令なら居ないッキュ。納入品で忙しいッキュよ」


 小さな少女が、

 大きな帽子を押さえながら答えます。


 「見ない顔だな。いや配属された訓練生か」


 (胸部装甲が)大きい女性が、

 黒髪短髪褐色の頭を向けます。


 「私は、サニー曹長だッキュ」「レイニー・ディー、大尉よ」


 小さい女性が、帽子サニー曹長。

 大きい女性が、褐色レイニー大尉ですね。


 (見かけが分かりやすくて、助かります)


 何故か人の顔を覚えるのが苦手なんですよね。

 生まれつきなのでしょうか?


 「だいたい覚えました」

 「何かすごく失礼な事考えていない?」

 「馬鹿にしたなッキュか」


 「まあいいわ────」


 褐色レイニー大尉はポケットに手を入れます。


 (タバコでも────いや)


 『飛び道具かドォドォ────ンンッ


 銃弾が銃身バレルから飛ぶ。

 軌道は、私と六角ナット少女。

 

 (ギリギリ避けれなくは無いですが)


 「ぐえッ────」「────ひゃあ」


 盛大に後ろに跳んだので、壁に頭をぶつけましたね。

 屈んだ六角ナット少女には、当たってはいませんね。


 合計2発、体に当たった場所は。


 (傷がありません)


 服を捲っても、貫通跡もありません。

 床で跳ねているのは、黒い弾。

 

 (ゴム.....弾?でしたか)


 褐色レイニー大尉は私達を見ます。


 「30点に────」「────0点って所ね」


 褐色レイニー大尉の視線は冷たいですね。


 (戦鋼せんこう乗りなら、躱して見せろということでしょうか)


 『甘いな。私なら指で掴めたぞ』


 幻聴ナビィが何か言ってますが、気にしません。

 そもそも掴んでどうするんですか。大尉にでも投げ返しますか?


 「貴方、13基地で戦鋼に乗っていたわね」

 「えっ、ええ」


 急な質問です。

 13基地で褐色レイニー大尉と合ったことはありません。

 

 (つまり、訓練生の書類には目を通しているということ)


 見るからに、事務職、秘書ではなさそうですし。

 と、すれば同じ戦鋼せんこう乗りですか。


 「清州きよす さくら────酒乱の鬼殺しを知っているかしら」


 心臓の音が早くなります。


 「上は隠しているけど、彼女の機体は」


 ────上部からの圧迫による損傷が酷かったそうで

 悲劇が起きた場に一つ目巨人サイクロプスでも居たのかしら?


 「────ッ」

 「沈黙は損よ」


 褐色レイニー大尉は、銃の弾倉マガジンを入れ替えます。

 

 「そう、じゃあ────」「────はいはい、そこまでッキュ」


 大尉の、銃を持つ手が震えます。

 

 「サニーィッ」

 「木色キイロは私と基地案内でも付き合うッキュ」


 私は指令室からひこずられます。


 まだ────心臓が煩いですね。


 ◇◆◇


 【監視カメラ(司令室) 記録復元】


 映るは2人の男女。

 一人は褐色女性レイニー

 一人は基地司令と言われた優男。


 部屋の書類は風で舞い。ゴム弾も床を転がる。


 「戻ったかしら」


 褐色レイニーはソファーで大の字に座っている。


 「いや、参ったね────」


 優男基地司令は腕を回す。


 「ゲッソリするほど判子を押す羽目になったよ」

 「それは結構なことで」


 褐色レイニーは、足で床を叩く。


 「木色きいろ訓練生の戦鋼は運びこまれているかしら」

 「そりゃもちろん、ピッカピカの新品が来てたが?」

 「分解してちょうだい」

 「へっ?」

 「内部まで隈なくよ。最悪予備パーツにしても構わないわ」


 優男基地司令は、手元の書類を見る。


 「技研のチェックは通過済みだぜ」

 「それでもよ」

 

 褐色レイニーは、天井を見上げる。


 「まあ、君が言うならだが、彼女の訓練はどうするのさ」

 「どうにかするわ。それぐらいは、ね」


 外から吹き込む風が強くなる。


 「全く無茶言うぜ────まあ、それより」

 「それより?」


 優男基地司令は真剣な顔になる。


 「書類手伝ってくれないかな」

 「女性の口説き方なら、他をオススメするわ」


 暫しの沈黙────

 

 「......あれーぇ、こんなところに銃弾がぁ」

 「わ、わかったわよッ。あっ、ちょ、返しなさいソレ」

 

 【記録終了】

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