2章 少女起動編

#17 道なりにて

 森を照らす2つの太陽。

 布の隙間から差し込む光は多めですね。


 金髪短髪少女は運送車トラックに揺られます。


 ガタゴト、ガタゴト


 テント張られた荷台に積まれた荷物が揺れます。

 大小様々な段ボール。厳重に固定された金属箱。

 自分の横の荷物は落ちてきそうですね。


 (見える道はかなりの悪路ですか)


 襲われる心配をして、背筋を伸ばしているのは馬鹿らしいですね。


 目の前で座っている兵士にいちゃんは休憩してますし。

 私も寝たふりでもした方がいいのでしょうか。


 暇つぶしの積荷の番号を足していく作業も疲れてきましたし。


 『そんな貴様に朗報だ』

 「それは本当に朗報ですか、ナビィ?」


 『勿論。魔物の集団が狙っているぞ』

 「悲報の間違えですね」

 『暇つぶしには持ってこいだろ』


 蛮族みたいな暇つぶしがあってたまりますか。

 手持ちの無線は────服に付かないので置いてきましたね。

 小柄な体に合う野戦服が無いのはどういうことなんでしょうか。


 仕方ないですが、兵士にいちゃんには働いてもらいましょう。


 「あのー」

 「......悪いがクッション性はこれ以上なくてな」


 目の前の兵士にいちゃんは、眠そうに帽子を取ります。

 顔に生気がありませんが、今は一大事です。


 「いえ、そうではなく。魔物が接近しています」

 「へっ?」

 「えっと、『数は5』、『種類は多分虫』だそうです」

 

 ブオオオオオンッ風切り音


 兵士にいちゃんの顔がどんどん青くなっていきます。


 [連絡ッ、魔物接近、数5、多分虫ッ]

 

 兵士の通信機が赤く光り、鳴り響きます。


 [総員、運送車を止めて陣形を取れ。魔物を撃退する]


 キュキキュウウッ────ガンッ


 戦闘態勢ですね。

 皆、運送車トラックおりてきます。


 「おい、弾は込めたか」

 「当然。おい、防壁よこせ」

 「馬鹿が、円陣組むのには足りねえよ」

 「そっちは車で守っとけばいいだろッ」


 兵士の皆さんは、ワイワイガヤガヤしています。


 「楽しそうですね」

 『全く、どこから襲われるか分からんというのに』

 「嘘は良くないですよ、ナビィ」

 『ほう?』


 何となくですが、分かります。

 接近する塊でしょうか。方向としては────


 「皆さんッ、2時方向です」

 「「「へっ、2時?」」」


 皆が同じ方向を向きます。

 

 目線の先には、木々が生えた森。

 そして────ブオオオオオンッ巨大な蜂


 [[[何、ぼさっとしてるッ、撃たんかッ!!]]]

 

 全員の通信機が鳴り響きます。


 「キシャアア────ガッ!!」


 ドドンッ


 正面の巨大蜂が落ち、金属音が聞こえた後。


 「ふぁ、発射ふぁいやッ」


 ドドドドドドドドドッ────カランカランカラン

 

 兵士たちの銃撃によって、巨大蜂は撃退することができました。


 撃退は出来ましたが、疑問が残りますね。 

 兵士が射撃する前の発砲音。あの射撃はどこから?


 辺りを見渡せど、森しかありませんし。

 遠くに見えるのは、輪郭が分かる城塞じょうさいのみです。


 ◇◆◇


 「嬢ちゃん、助かったぜ」

 「いえ、自分ができることをしたまでです」


 対応が妙に優しくなっていますね。

 乗る前は、のけ者のような対応だったのが嘘みたいです。


 「俺の代わりに運転席横に座っときな」

 「功労者のケツを痛めるわけにはいかねぇからな」

 「おらッ、もう少し食った方がいいんじゃねえの?」


 (自分は荷台でも構わないんですが)


 あっという間に運転席に押し込まれてしまいましたね。

 善意を無下にするのは申し訳ないですから、おとなしく乗っておきますか。


 「嬢ちゃん殿、進路はこのままでよろしいですかな?」

 「────っよろしいです」


 彼らの事を思い出します。短いながらも長くいた13基地隊員のことを。 

 彼らも────今のように気がいい人たちでした。


 「訓練生殿、疲れていたら眠っていても構わないんですよ」

 「大丈夫です」


 また、魔物が襲ってくるかもしれません。

 先ほどは幻聴ナビィが助言をくれた為、先に行動できましたが。


 (気分屋のナビィのことです)


 二度目は無いでしょうね。


 「安全の為にも、休憩だけにしておきます」

 「そいつは働き者で結構ですな」


 安全を確認した後、ドアが閉められ運送車トラックは進みだします。

 城塞の輪郭は濃くなり、やがて周囲の姿を鮮明にさせます。


 森を切り取った場所に立つ城塞。

 周囲には建築物の残骸が存在し、外壁は石と鉄板を合わせたツギハギだらけです。

 ですが────有無を言わせぬ貫禄、が感じられます。


 「────ほェ」

 「訓練生殿はここに来るのは初めてか」


 見とれているのが、バレてしまったのでしょうか。

 ジロジロとみてたつもりは無いんですが。


 「ここは元魔物まものどもの要塞でな」


 運転手は楽しそうに話します。


 ────激戦に次ぐ、激戦でな。

 何人死んだとかいうレベルじゃねぇ。屍を盾にして進んだ訳さ。

 まあ、最後は我らが女王様達がぶっ倒したってオチなんだが。


 「見てきたように話しますね」

 「そりゃあ、実際にいたからな」


 ポンコツみたいな機械を動かして戦友と戦ったさ。

 まあ、今はお空の上で昼寝中だろうよ。


 「......辛い思い出では無いんですか」

 「ツライさ────でも、持ってるだけじゃ人は変われん」

  

 ガタガタ


 「すまんな、しけた話しちまった」 

 「いえ、為になりました」


 運送車トラックの揺れがひどく感じますね。

 窓からは────日差しが眩しいですね。


 「あー、そういや訓練生殿は車酔いはしてないか?」

 「車酔いですか?」


 特に気分が悪いと感じたことはありません。

 なんなら、いつもより快適な移動と感じるまでです。 


 「なら賭けは俺の負けか」

 「へっ?」

 「だいたい、ここに来る新人は青い顔するのが定番でな」


 そう言えば、向かいに座っていた方は顔を青くしていましたね。

 

 (てっきり眠たくて、顔を隠していると思いましたが)


 ただただ酔っていただけですか。

 確かに、敷くものもなければ、地面も凸凹でしたね。

 ですが、戦鋼せんこう乗りとなれば、あの程度で済む話でしょう。


 「青い顔をしなかった奴は大体大物になれるってやつさ」

 

 妙なジンクスもできてますね。

 

 (ただ揺れに耐性があっただけな気もしますが)


 私も初期のころは戦鋼せんこうSN-P1エスエヌ ピーゼロに乗って、よく吐いてましたし。

 慣れたら何ともない揺れだと思います。


 「それにしても────移動とは車を使うものなのですね。」


 実は、軍用車での輸送は初の経験です。

 今まで、荷物だったり砲弾に詰められて飛ばされていたので快適ですし。

 何より、在りし日の少年心というものがときめいています。


 「嬢ちゃん、そいつは場を和ませる冗談か?」

 「いえ、本心です」


 ────女王様の元にはクレイジーな奴しか集まらんのか。


 呟きは陽気な風に乗って消えていきます。

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