#16 私は誰?

 目が覚めます。


 ────天井の照明が眩しい。


 目を閉じます。


 ────体が痒いです。消毒液の匂いが鼻につきます。頭はぼやけています


 目を開きます。

 

 ────やるべきことはただ一つ。


 「ナ、ビィ、背中、かいて?」

 『寝起き一番がそれか』


 幻聴ナビィに文句を言われますが、私も大変なんです。


 声もスカスカですし。妙に腹が減っていません。


 (しかし、体に力が入りませんね)


 起きようとしても起こせませんし。

 腕すらあがらない状態です。


 腕の太めの管は、点滴ですか。


 『時期に動けるようになる』

 「個人的、早い、ほうがいい、です」

 

 芋虫のように動き、背中をこすりつけていると。


 窓の外の少女と目が合います。


 病院服に身を包んだ少女。

 

 顔も、

 状態も、

 目線も同じ少女。


 違う点は1つ。

 髪が金髪きんぱつであること。


 (私に髪はないハズです)


 いったい、なにが起こったんですか?


 「な、ナビィ、私は、勝ったんですよね」

 『勝ったさ。だから今は休め』

 「そう、ですか」


 視界が歪みます。

 目がチクチクして痛いです。


 彼女キイロのことを思いだし、自分のしたことを思いだします。


 (私は、これからどうすればいいのでしょう)


 答えは考えても出てきません。


 考えても出てこないモノを探すのは不可能です。


 (だって私には、大切な人を【────さんッ】)


 「ほげっ」

 『どうした?』

 「いえ」


 なぜ私に友人を失った記憶があるのでしょう。


 記憶の向こうにいる彼女は誰なのでしょう。


 また、視界が歪んできました。


 「ナビィ、私は、どうすれば、いいと思います」

 『知らん』

 「です、よね」


 『あー、お前は自分の行いを後悔しているのか?』


 先生の真似事は嫌いなんだが、とこぼして、

 幻聴ナビィは歯切れが悪く紡ぎます。


 『よく聞け馬鹿、一度しか言わんぞ』

 

 必要なのは何を成す、かだ。


 死までの長さはさほど問題ではない。

 死ぬまでに何を残すのかが問題なのだ。


 意味もなく殺すなど悪人でもできる。

 だがな、奴らの死には意味があった。

 

 『貴様が生き残るという道は、奴らの死でしか成せなかったのだ』 


 「それは......」

 『愚かというなら嘆けばいい』

 『悲惨と思えば泣けばいい』

 『だがな笑うことは許さんぞ』

 

 『大海の中で蛙が一匹生き残るというのは、貴様らが思っている以上に過酷なのだ』 


 「......誰に言ってるんですか」

 『“貴様の精神”にだ』 


 こういう時の幻聴ナビィは意味不明です。


 ですが、気持ち元気にはなりました。


 まずは、動けるようになってからの話ですね。


 ◇◆◇


 金髪短髪きんぱつショート少女は頑張ります。


 ベットの周りの点滴の姿は消え、座りながらトレーとにらめっこをしています。


 目の前には、赤茄子トマトのペースト。

 

 軽やかに使えるようになったスプーンは、何故かピクリとも動きません。


 「ナビィ、コレは強敵です」

 『意外だな、好き嫌いがあるのか』

 「いえ、気づいたら食べれなくなっていました」


 どうしてでしょう。自分は行けると思っているのに、体は動いてくれません。


 「これがPTSDトラウマですか」


 トマトの赤色を見ると、光景を思い出してしまうため。


 トマトを食べれなくなっている。


 だから、

 

 「私は無理にトマトを食べなくてもいいと思うんです」

 『では、目玉焼きの赤い液体はトマトではないのか?』

 「あれは違いますッ」


 幻聴ナビィは理解力が足りません。


 私がダメなのはトマトなのであって、加工品とか味付けが違うとか......


 「私、どうしちゃったんでしょう」

 『特技スキル、トマト嫌いとはこういうことか』

 「どういうことですか?」

 『お前の味方情報ステータスに表示されていた言葉だ。見てみるか?』

 「やめておきます」


 見ても意味わかんないでしょうし。


 知ってなにになるんでしょうか。

 

 (そもそも、味方情報ステータスって現実で見れるものなのですね)

 

 世界の不思議を実感します。

 

 「いやー元気だね。キミ」

 「────へっ?」


 黒縁眼鏡の男。


 見たことの有るような無いような、

 少しふくよかな体形の人です。


 (トマトのせいで周囲の警戒すらおろそかでしたか)

 

 見るかんじ自分よりも、階級の高い人でしょうか?


 「ど、どうも」

 「いやーそのままでいいよ。大変そうだし」


 姿勢を正さなくてはいいようです。


 「なーに、ちょっとした宅配便さ」


 黒縁眼鏡やさしそうなの男は脇の封筒を見ます。


 ぽっちゃりとしたお腹にはさまれた封筒は取り出しにくそうです。

 

 「いやー大活躍だったじゃない。キミ」


  わちゃわちゃ

 「あれー、こっちじゃなくて」


  わちゃわちゃ、ピシッ

 「あった、あった。悲劇を越えた少女様宛だ」


 黒縁眼鏡は、封筒から書類を出します。


 妙に皺皺だったり、インクがにじんでいるのは気づかないふりですね。


 「という訳でキミには辞令がおりた」


 ────────────


 2000年 5月 1日


        辞令書

 第13前線基地 訓練生

 木色キイロ 来来ライライ 一等兵 殿


 2000年5月1日をもって、第13前線基地 訓練生の任を解き、

 同日付けを持って、第三 遊撃部隊クイーンズ・フォース予備隊員に任命する.

 職務に励み、陸軍の戦果に貢献することを期待する.


 日本陸軍中将

 鰓意 三造 


 ─────────────


 「喜んでくれ、キミは女王艦隊に昇格だ」

 

 私が憧れの遊撃部隊クイーンズ・フォースに。

 そう、夢にまで見......ていましたっけ?


 (別にそんなに憧れていないような)


 昔みた情報だと、女性のみの精鋭部隊で。


 他に覚えていることは────


 「とても.....カッコいい名前だと思います」

 「そうか......ボクならもっといい名前を付けれるけどね!」


 『貴様らは子供か』

 

 幻聴ナビィ、うるさいです。


 漢字に英語がふってあると、心が震えるんです。


 黒縁眼鏡やさしそうなの人も、“分かっているから”こその反応ですよ。


 「そういえば、貴方に合った事がありませんか?」

 「うーん、入隊式か何かかね」


 黒縁眼鏡やさしそうなは、病室から出ていきました。


 割と最近見た気がするんですが────気のせいですね。


 ◇◆◇


 病院の外にて


 「おっと、コレはもう不要だな」


 黒縁眼鏡やさしそうなは封筒からもう一枚の紙を出します。


 「相変わらず、文字が小さいなぁ」


 被検体 H02エイチゼロツーにおける輸送指令

 

 H02以下Hと称す。Hは、女神育成■画(凍結済み)の産物である。本来はビーコンの役割を終え、削除する予定であった。Hは魔力子容量マナンタンク欠損でありながら、【13■作戦】を生き残り、魔力子容量マナンタンクを獲得するにいたった。後天的な魔力子容量マナンタンクの獲得の成功例として、Hを海軍技研に提出し────


 「────全く、センスがない」


 黒縁眼鏡に握られていた紙は、黒いチリとなっていた。


 「期待しているよ、H02エイチゼロツーいや、木色キイロ 来来ライライ


 日差しは、昨日よりもつよくなり。


 夏はすぐそこまで、やってきています。

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