#15 奇跡を求めて

 『起きろ。まだ死んでないぞ』

 「そう、ですね」 


 幻聴ナビィの声で、気が戻ります。

 少女わたしの体は、痛いです。


 正面画面メインモニターは無事。右腕は、エラーというか消失してますね。

 炎の直撃は、腕一本のおかげで耐えたというところですか。

 

 (右手の感覚がぼやてていますね)

 

 「助かりました、ナビィ」

 『運が良かっただけだ』

 「なら、運にはもう少し頑張って欲しいところです」


 後ろには整備員にいちゃん達。

 前には、瀕死の教官鬼殺し。戦鋼の反応は沈黙。

 そして、化け物────鬼武者おにむしゃ


 「無傷とは笑えますね」

 『落ち込むな。生物としての格が違う』

 「慰めるって知ってますか、ナビィ?」


 機体を起こし、目前を構える。


 「まだやるのか?鉄の騎士ゴーレム

 「当然です」


 鬼武者おにむしゃは見据えます。

 眼は、機体ではなく、私を射ています。

 見られている?威圧が一段重くなった気がします。


 「喋れる鉄の騎士ゴーレムか......もしや」

 

 操縦棒レバーを動かし、半壊した戦鋼せんこうを動かします。

 怯えた整備員達を守るように、彼らに戦場を見せないようにするように。


 「貴様、そこまでして砂利を助けたいのか」

 「愚門です」


 会話をしてきた?妙ですね。

 先の戦いを見る限り、言葉で攻める相手ではない気がしますが。


 (時間を稼げるなら構いませんか)


 体は満身創痍。少しでも回復はしたいです。

 できるだけ会話を続けてみるのも戦略ですね。

 

 「すかされたも、ここまで来ると一興か」

 「興が乗ったのなら、お引き取り願えませんか?」

 「冗談を言う奴だ────」


 話の意図が読めませんね。


 「───そうだな、腹切りしろいのちをよこせ。それで手打ちにしてやる」

 「!?」


 何を、言っているのでしょうか。

 言葉を解釈するなら────“私の命で皆が助かる”ということですか。


 『死者に命は似合わん。乗るなよ』

 「わ、わかっています」 


 幻聴ナビィには咎められます。


 鬼武者おにむしゃが約束を守る保証はありませんし。

 私一人の命と他が釣り合うとも思いません。

 ですが、それは、とても────魅力的に感じます。


 (私は生き残りたいそう考えている......ハズです)

 

 なのに、どうしてでしょう。

 体は甘美な密を得たように、話を受け入れようとします。


 「さて、どうする」

 「わ、私は────」『────よく聞け、馬鹿。二択だ』


 幻聴ナビィが言葉を挟みます。


 『1つ、戦って皆と死ぬ。2つ――――――』

 

 2つの提案は、現実的であり、悪魔的でもあり、

 現状を打破する可能性を持った提案でした。

 

 「冗談ですよね、それ」

 『選べ、2つに1つだ。強要はせん』


 幻聴ナビィは何を言っているんですか。

 そんなの、どちらかを選ぶぐらいなら。


 「私が命を差し出せばいいじゃないですかッ」


 全てそれで丸く収まるじゃないですかッ。

 彼女キイロに託されてここに立っているんですよ。

 私が教官を、整備員を、皆を守らないといけないんですよッ。

 


 なのに、私は.....


 『そんなの一択しか、選べないじゃないですか......』

 『────そうか。作業はこちらがやる。最善ベストを尽くせ』


 ポケットの青い宝球が一瞬光り始める。

 光は、徐々に体に吸い込まれていく。


 《冒険の記録セーブデータ復元ロードしますか?》

 

 無機質な音が脳に流れる。

 覚悟は、覚悟は決まったハズだ。

 

 戦鋼せんこうを一歩踏み込む。


 ◇◆◇


 「戦いをとるか」


 鬼武者おにむしゃは動かない。


 《冒険の記録セーブデータが削除されました》

 《新しい冒険の記録ニューデータを作成します》


 操縦棒を前に倒す。

 戦鋼は排気を出し、動き出す。

 揺れる機体を押さえつけ、奥歯を食いしばりながら操る。


 「────ッ」


 目標は定まっている。

 おぼつかない足取りで前に進む。


 そして、

 

 戦鋼せんこうの一歩を持って────教官を踏みつぶした。


 ぐちゃり


 足の裏が生ぬるい。残骸から油ではない色が溢れている。

 操縦席から生えるねじ曲がった腕が、内部の惨状を物語る。

 

 (何故なのかは考えたくもないです。)

 

 魔物ゴブリンでもなく、

 鬼武者でもなく、

 私が私が、 

 

 私が────


 『ちっ、まだ足らん。次ッ』

 「────ッ」


 後方画面サブモニターを見る。


 整備員達は、傷ついた者を治療をし、周囲を確認する姿が映る。


 (私は生きないといけないんですよッ。)


 生きないと、

 皆を守れないから、

 私が皆を守る為に────


 「し、死んでください」


 私は呪詛を吐き出すように、操縦棒レバーを引く。

 戦鋼せんこうを反転させ、突進させる。

 

 「えっ」


 整備員のにいちゃんに、

 知り合いのおっちゃんに、

 怪我した見知らぬひと。

 

 戦鋼せんこうで「やめろ」潰す。

 確実に「助けてッ」、念入りに「死にたくない」踏みつぶす。


 少女は、赤く染まる。 


 《レベルが1になりました》

 《これで一人前の冒険者です。これからも頑張ってください》 


 無機質な音が、脳に届く。

 

 『ギリギリか。だが無いよりマシか』

 「ナビィ、私はッ、どうすればッいい」


 早く、早く指示をください。でなければ、私がおかしくなりそうです。


 『.....奴に肉薄して、1秒稼げ』

 「ふっはは、間違いなく死にますよ、それ」

 『半分なら死んでも大丈夫だ。行けッ』


 動力を回転させ、目標にカッ飛ばす。

 制御なんて言葉は忘れてきた。

 

 機械は前に進めばいい。


◇◆◇


 私の動きを見ても、行動一つしない鬼武者おにむしゃ

 舐めているのか、遊んでいるのか。

 どちらにせよ、こちらから向かってやる。


 操縦棒レバーは、既に意味をなしていない。


 「背水の陣か。いや、気でも狂ったか」

 「あっ、あ゛ああああッ」


 前に動けばいい。


 「まあいい。中級チュキュウ-火炎魔法カエンマホウ

 「ッ!」


 頭部は消失。

 正面画面メインモニターは暗転。

 だが、戦鋼は動いてはいる。


 制御を失った特攻が、狙いを歪めたか────どうでもいいですね。


 (どうせ相手は避けもしない)


 戦鋼せんこうが盛大にぶつかる。


 「────ッ」


 体の骨が鳴る。

 戦鋼せんこうは静止、左腕も操作不能エラー


 「ならば」


 切替機スイッチを叩く。


 [正面装甲をパージPurge Frontal Armor]


 機体を捨て、操縦席コクピットから飛び出す。

 周囲は煙炎に包まれているが、見えない訳ではない。


 鬼武者おにむしゃは、目前。


 (さっきから、その顔が気に食わないんですよ)


 拳の構えなど知るか、狙いは顔面。

 ふざけた顔にど真ん中のストレート。

 奴もこちらを向くが、知った事ではない。


 「クソくらぇッ!」

 「甘い────ちっ、子供がきかッ」


 わたしの拳は、小手でいなされる。

 てきの拳は、腹に突き刺さる。


 (安いですね。心臓の一つぐらいは覚悟していましたが)


 死なないなら、結構ッ。

 一秒、稼ぎましたよ。


 「ナ、ビィッ────」『────任せろ』


 左の手に、光彩が集まる。

 色は────赤。全てを塗りつぶす、絶対の赤。

 

 「限定解除リミットオーバー────超級Superklasse-火魔法Feuermagie


 灼熱を獲た拳は、存在を許しはしない。


 一切の妥協を許さず。左手は振り下ろされる。


 「赤色せきしょくッ、貴様ッ生きていたか」

 「吹き飛べ、亡者が」


 視界は途切れる。

  

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