#14 血は赤かった

 少女わたしは思案します。


 間で整備員にいちゃん達は戦鋼せんこう────機体の整備を行います。


 「馬鹿、装甲が足りねぇよ」

 「おい、壁引っ剥がしてこい」

 「そんなので守れるわけねえだろ」

 「無いよりマシだ、ボケがッ」


 現実に思考が戻ってきたころには、機体の整備は終わっていました。


 正面装甲は塞がれ、機体のエラーも少なく感じます。


 「いいか、ギリ動くが無茶はしないでくれ」

 「どうすれば?」

 「外の魔物ゴブリンの討伐を頼む」

 「外ですか」

 

 倉庫から見える景色は、明るく、黒い影が幾多も見えます。


 数は数十というところですか。


 「安心しろ、鬼殺し教官も外にいる」

 「いえ、別に怯えている訳では────」


 しょう/げき


 背後から、塊が飛んできます。


 攻撃こうげきか────『────いや、戦鋼せんこうだ』 

 

 「教官殿!」

 「ちッ、退け。責任が取れんッ」


 切羽詰まった、声。


 何かがあったは戦鋼せんこうの損傷が教えてくれます。


 「んな、ボロボロの機体で」

 「少し焦げただけだ、心配ないッ」


 黒く焦げており、各部からは火花が飛び散る戦鋼せんこう


 教官とよばれる人が手こずるほど、強い魔物。

 

 基地内部まで────あれ、教官は外に行ったと。


 (内部で戦闘を? いえ、それよりも倉庫の先の内部は)


 赤い。


 倉庫の先は、赤黒く染まっていました。


 無機質な壁も、

 汎用的な調度品も、

 何もかもが。


 「時間がない、ヤツがくる」

 「大丈夫ですよ。後ろも地獄ですから」


 言葉は私には届きません。


 目と、耳は、囚われていました。 


 漆黒。

 輝く黒。

 暗黒。


 例えは、さまざまです。

  

 確実なのは“どす黒い赤に染まったいた”でしょうか。


 黒い鬼が、私を覗いていました。


 ◇◆◇


 少女わたし、鬼殺し教官、整備員にいちゃん達の動きは止まります。


 黒い鬼は、姿を明瞭にさせていきます。


 鬼にみえたのは、武者の甲冑。

 角の生えた仮面は、鋭く光り。

 手にもつ剣には、液体が滴っています。

  

 (現代の戦場に似合わない装備ですね)

 

 ですが、戦場に存在しているのがなによりの証明。


 「肉付にくつきの群れか。大量だな」


 鬼は不敵に喋ります。

 

 (言葉を話した?)


 『鬼武者おにむしゃだと⁉ 何故こんなところに』

 「中級魔物ゴブリンシャーマンとかではないんですか?」

 『馬鹿を言うな。中級の方がまだマシだ』


 幻聴ナビィは、動揺、驚愕。

 で、どこか軽蔑的です。


 頭が痛くなるので、余り叫ばないので欲しいのですが。 


 (しかし、逃げろと言われた中級の方がマシですか)


 後ろには────退けませんか。


 整備員達は動けませんし。

 

 彼らを見捨てては、彼女キイロに合わせる顔がありません。

 

 なにより体が前を向いています。

 

 「ほう、大玉おおだまか。砂利じゃり多しの肉付にくつきにしては珍しい」

 

 鬼武者おにむしゃが私を見る。


 操縦棒レバーを持つ手が、震えます。


 「後ろは任せた、キイロッ!」『撤退しろ、死ぬぞ』


 声は同時に届きます。


 鬼殺し教官の判断は向こう見ずで。

 幻聴ナビィの判断は冷静です。


 ですが、退けない理由はあります。


 『駄目だ、見捨てろ』


 「ですが────」

  「───退路は無い。結界ケッカイ-火魔法ヒマホウ


 鬼武者おにむしゃがつむぐと、周囲の炎が強くなります。


 『囲まれたか』

 「どのみちですね」


 炎は取り囲むように、火を吹きます。


 整備員は物陰に隠れていますし。

 

 鬼殺し教官は、

 

 「退路がなくて、結構ッ────」

  「────やる気か? 肉付きの分際で」


 戦鋼せんこうは輝き。

 足は踏み込む。

 地面は軋む。

 影のみ瞼に焼けつく。

 

 異常な速度。

 

 矛先は、鬼武者おにむしゃ


 「今度は逃げぬのか?」

 「生憎、退く道が無いからなァッ」


 光を纏った戦鋼せんこうは消える。


 ◇◆◇


 影は刹那の直進する。


 鬼武者おにむしゃには構える時間すら与えず────


 『馬鹿が、何故突っ込む』


 幻聴ナビィの声が響きます。 


 「興ざめだな。中級チュウキュウ-火魔法ヒマホウ

 「────ッ」

 

 教官は叩き落とされる。

 

 地面には炎の残火が。

 叩かれた虫のように。

 差を見せつけるように。


 「安心しろ、後から迎えは来る」


 鬼武者おにむしゃは、教官に近寄ります。

 

 『仕掛けるなら今しかないぞ』

 「通ると思いますか、ナビィ?」

 『なら遺言でも残すか? 聞いてやるぞ』

 

 幻聴ナビィの言葉はもっともです。


 格上を狩るには、搦め手しかありません。


 ですが、搦め手が通じる相手とは思えません。


 『早くしろ。餌が死ぬ』

 「分かっていますよッ、ナビィ」


 操縦棒は、ピクリとも動きません。

 

 (どうしたんですか、なんで動かないんですか)


 さっきまで、あれほど好戦的だったくせに。


 敵が強くてビビったっていっているんですかッ。

 

 はやく、はやく動かないと「ガンッ!」────えっ?


 「オイ、こっち向けッ。クソ武者ッ!」

 「馬鹿、そんなことしてどうすんだよ」

 「どうにかするんだよッ!」

 

 整備員にいちゃん達は、スパナ、オイル、ナットとありとあらゆる工具を投げつけます。


 幾つかははずれ、幾つかは鎧に弾かれ、鎧が汚れるだけ。


 鎧に傷一つ付かず、無駄な行動です。ですが、

 

 「砂利共が。吠えるな」


 鬼武者おにむしゃは不快感を顕わにします。


 虫に刺されるのが気に食わなかったのでしょうか。


 整備員にいちゃん達に、殺意の視線をむけます。


 つまるところ────私から注意が外れたということです。 

 

 『勝機だな』 


 体は動きます。

 いえ、動かないといけません。

 動かなければ、彼ら整備員に失礼です。

 

 「ナビィ、動力を────」

 『────最大まで回してる』


 操縦棒レバーを全力で押し込みます。


 (今日乗った機体で、細かい制御ができるわけないですよね)


 1戦闘超えたぐらいで操縦は出来ませんか。


 武器もありませんし、動きも乱雑。


 「ですけど────」

 

 機体をカチ当てるぐらいはできるんですよ。


 (エンジン全開の、質量攻撃ッ) 


 「────これでも食らっとけッ、ってはなしです」


 しょう/とつ


 痛みは全身に。

 血流が一度止まり。

 視界が点滅します。


 「どう、なりましたか?」

 『見ての通りだ』

 

 画面の、砂埃が晴れます。


 一撃は、


 避けられることもなく、

 防がれることなく、

 直撃しました。

 

 直撃はしましたが、


 「軽いな。威力いりょく覚悟かくごも足らん」


 鬼武者はもくぜんに健在。


 (私の一撃は動かず止められた?)


 そんな冗談みたいなことがあってたまりますかッ。

 

 「ありえ『躱せッ、馬鹿者!』」

 「満足か?中級ちゅうきゅう-火炎魔法かえんまほう

 「あっ───」 


 炎が戦鋼をつつみます。


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