#13 引き継いだものもの

 構えるは満身創痍な機体────戦鋼せんこう

 捉えるは魔物ゴブリン


 首にかかる髪の毛が妙にベタ付く。


 操作棒レバーは、少女の手には大きい。


 ────幻聴ナビィ少女わたしは、戦鋼を動かす。


 『まずは回避と攻撃からだ』

 「動かすのに精一杯ですよッ」


 動きは機敏に欠ける。


 戦鋼せんこうの装甲は剥げ、外の景色が覗く。

 画面の光は半半といったところ。


 『ならば死ぬだけだ。正面来るぞ』


 正面画面メインモニターに映るは、異形な人様。

 赤黒く、平べったい、人様は人にあらず。


 (こちらの気持ちも知らないで)


 棍棒こんぼうは掲げられ、殺意が目と鼻の先まで迫っていた。

 

 「ジェッアッ5FHg8H!」

 「かい───」


 「回避」の二文字は、脳には浮かべど。


 戦鋼せんこうは上手くは動かず。機体を傾けるだけで終わる。


 ────歪む視界

 

 一瞬、静寂にて意識が戻る。


 何が起こった。

 いや、ぶつかった。

 当たったのだ攻撃が。

 

 何と、魔物と────ゴブリンは


 「どこへ?」


 画面に影は無し。


 嫌な金属音が上から鳴る。


 ゴブリンの顔が、空いた穴からのぞく。

 

 「取り付かれました、かッ」

 

 すでに棍棒は鋭く見える。


 「キシャァァッsv5eBQ4nCx!」

 「ちぃッ──!」

 

 操縦棒レバーを左に動かす。


 戦鋼せんこうは左にカクつく。


 (あいかわらず、上手く動かせませんねッ)


 操縦棒レバーを無理やり振り回し、魔物ゴブリンを弾き飛ばす。

 

 「シャッ、シャーmRA、DKRHw4v

 

 が、鮮やかに着地され。

  

 こちらに構える魔物ゴブリン

 

 傷も疲労も無ければ、害する視線のみが存在する。


 「本当に化け物です、ね」


 操縦棒レバーは硬い。


 体が重い。

 頭も痛い。

 戦鋼せんこうは動かないし。

 敵は素早い。


 地球で戦ったヤツよりも何十倍も強そうだし、武器だって持ってる。


 (やっぱり無理じゃないですか)


 なのに、私は嗚咽だって止まらない様です。


 『どうだ慣れたか?』

 「全くです。腕を動かすのが限界、です、よ」

 『おお、そうか。ほら、もう一回来るぞ』


 幻聴ナビィは気楽そうです。


 こっちは焦っているのに、冗談じゃない。 


 魔物ゴブリンは再び襲来する。


 戦鋼せんこうはまだ思いどうりに動かない。


 (クソですよ。どうやって避ければいいんですかッ)


 右に、いや左に操縦菅を倒すべきか。


 『全く、 頭ではなく使使

 「意味が分かり──


 地球での戦闘が奔る。

 頭は動かなくとも、体が。

 死地を超えた経験の動きが、右手を動かす。。


 スローに見える、突進ゴブリン

 操縦菅レバーは、前に落ちる。


 ──ああああァッ」 


 


 金属の手が、ゴブリンを貫く。


 腕は破損。

 エラーは多数。

 息は絶え絶え。

 腕も震えてる。


 でも────魔物を仕留めた。

 

 (ははッ、ようやく1体ですか)


 最初から避ける必要はなかったんですね。


 「経験の賜物……ですか」

 『感謝してもいいぞ?』

 「倒したのは、私ですよ」


 地球にいた時よりも成長できた、ということでしょうか。


 ナビィの力がなくても、いや────手は貸してくれましたね。


 (どう考えても、頭より早く体が動いていましたし)


 ナビィのアシストが入ってましたね。


 『及第点だ。あと3匹、いけるな?』

 「もちろんですッ」


 喝として言葉を吐く。


 殺らなければ、殺られるだけ。


 未だ揺れる機体を、前に進める。


 ◇◆◇


 燃え盛る炎の中に、戦鋼せんこうは立つ。


 すでに魔物まものの姿はない。

 

 「助かりました......ナビィ」

 『実践したのは貴様だ』

 「ですが私は」

 『だがは要らん。体に不調はないな』

 「そうですね」

 

 体に小さい傷はあれど────生きています。


 激戦から生き延びました。

 魔物を戦鋼で倒して。

 戦鋼を彼女が託したお陰で。


 「でも彼女キイロは」

 『で、貴様の目に映るのはそれか?』


 幻聴ナビィは厳しいですね。


 ことを思うと、なぜか眼が重いというのに。


 (過去に囚われているということでしょうか)


 操縦棒レバーには、赤黒い汚れがついています。

 

 『現実いまを見るのも一興だぞ』


 画面に光が戻ります。


 映るは、整備員にいちゃん達。


 大小様々なケガをしており、傷なしとはいえませんが無事です。


 「あっ......よかったです」

 『まだ戦場だ』

 「ごめんなさい。でも気が抜けてしまって」


 気持ちが止まらない。


 いつぶりだろうか、誰かのことを悲しんだのは。

 いつぶりだろうか、誰かのことで喜んだのは。


 整備員にいちゃんも、安全を確認したのか。


 こちらに駆け寄ってくる。


 「大丈夫かッ!キイロッ」

 「あッ」 


 今更になって思い出します。


 この戦鋼せんこう彼女キイロの機体。


 (彼が生きているのを期待しているのは彼女キイロ)


 「本当にボロボロだな、ハッチ開けるぞ」

 「いや、私は────」


 言葉が終わる間もなく、開閉音が鳴ります。


 口からはいだまに声はでません。


 整備員にいちゃんに、彼女キイロではないと伝える間もなく。


 (彼は絶望しますよね)


 彼女キイロでなく私が乗っていることに。


 有望な若者ではなく裏切者わたしが生き残ってしまったことに。


 「流石、期待の訓練生キイロ! 体は無傷か」

 「────えっ?」


 整備員にいちゃんは、何を言っているんでしょうか。


 疲労のあまり、顔を間違えてる?


 (そんな馬鹿なことがありますか)


 「き、彼女キイロは」

 

 動揺か、服の隙間からパスが落ちる。


 可愛いカードケースに入った、彼女キイロのパス。

 

 パスの写真は─────私の顔。


 「ひッ、何で」

 『後で考えろ。いまは戦場だ』

 

 幻聴ナビィの一言で現実に戻されます。


 思考はいまだ宙に浮いたまま。


 倉庫は燃え続けています。

 

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