#12 あなたの夢は何ですか?


 黒髪短髪カツラ系ショート少女は、幻聴ナビィの指示に従います。


 『後方3接近!走れッ』


 時には、走り。

 

 『前方2戦闘中、物陰だ』


 時には、隠れる。


 「ようやく見えました」


 倉庫に幾度何度かして、たどり着きます。

 扉は、熱と衝撃で曲がり、内部も赤い。


 「休むのは......」

 『甘えるな、まだ半分だ』

 「分かってます、よ」


 空気を口に含み吐き出します。

 喉が少し痛いですね。


 ◇◆◇


 倉庫の内部でも、戦闘音が聞こえる。

 外といい、中といい、どこも戦闘中ですか。

 

 (内部に逃げ込むのも一苦労しそうですね)


 『倉庫内部にも反応多数、死ぬなよ』

 「死にませんよ。案内役ナビィが有能なので」

 『褒めても何も出せんぞ』


 壊れたドアから、内部を確認します。


 「敵影てきえいは無しで、音のみですか」


 確認の後、内部に滑り込みます。

 倉庫内ないぶは狭いですが、荷物と炎が視界を遮っています。

 

 『飛び出してきてもビビるなよ』


 幻聴ナビィが冷やかしてきますが、嫌なことを言わないで欲しいです。

 実際に飛び出してきたら、ビビるどころの騒ぎじゃありません。

 

 荷物の横を辿るように進んでいきます。

 奥に続く扉は、目視できる距離。ですが、騒音は大きく、獣の叫び声が近くなります。


 「魔物ゴブリンは何をしているんでしょうか」

 『奥で他と戯れてる。幸運ラッキーだな』

 「笑えませんが、感謝ですね」


 走り抜ける。

 荷物の影から抜け出し、扉に向かいます。


 (魔物達には近づきますが、基地内部に入ればこちらが有利なハズ)

 

 戦闘音は横から聞こえます。

 心臓の鼓動も聞こえます。


 扉は、目の前。


 (入ってしまえば、後は内部に隠れて)


 「後は逃げ「整備員お兄さんたちは、やらせないよッ」


 キイロ? 


 ふと、周囲まわりが目に入る。

 ────炎、魔物ゴブリン達、戦鋼せんこう整備員にいちゃん達。


 戦闘たたかいが目に映る。

 ────魔物ゴブリン達、戦鋼せんこう


 戦鋼せんこうと目が合う。

 ────機体ボロボロには訓練生キイロ



 あ、

 

 一瞬が、命取りだった。

 戦鋼せんこうは、爆炎によって吹き飛ぶ。

 壁に激突し、物を言わぬ残骸せんこうと成る。


 あっ、あ


 『足を止めるなッ、馬鹿者ばかものッ!』


 幻聴ナビィの叫びで我に返る。

 ────そうだ、今、逃げているんだ。


 (ええ、そうです。例え、彼女が死亡しても、魔物の所為ですし、原因は私を見てしまった彼女が悪いのであって、私は悪くないです。だから、私は悪くないのです)


 叩きつけられた残骸から目を背け、

 私は再び走り『馬鹿ばかッ、ゴブリンだ』アレ、死―――


 銃声ピチャッ


 「いやぁ、あぶな、かった、ねぇ」

 

 訓練生キイロの声が、鎮座した戦鋼せんこうから聞こえた。

 機体────戦鋼せんこうは、めちゃくちゃで。


 「キイロッ」


 向かう。

 考えるより、早く。


 「さっさと、にげなよ。しんじゃうよ」


 彼女キイロは、掠れた声を出す。

 覗いた先にいた、体はどうしようもなく曲がっており、それは、そういうことだった。


 「「「WUnG2o2TwQXyPキッシャッーアッ!!」」」

 

 振り向く。

 叫び声ゴブリンのの先は、私でなく、整備員にいちゃん達。


 (運がいい────いや、敵と見なされていないだけですね)


 金属音が一つ鳴る。

 整備員にいちゃん達は、魔物ゴブリンに抵抗していますが。

 整備用の工具では、長くはないですね。

 金属音が二つ鳴る。


 「キミさ......むいてないよ。ほんとう、に」

 

 一人、一人と魔物ゴブリンにやられて。

 でも────私は逃げないと。逃げないといけません。


 「ああ、もう。みてられないな――――」


 ―――――あげるよ


 「何、をグチョッ


 彼女キイロの手が、私に触れる。

 パサパサしていて、ぬっとりとした手はどこか温かい。


 「あとはキミのがんばりしだぃ..だよ....」

 「なにを言って────ガッ」


 電流が奔る。

 体に、頭に、鈍器をぶち込まれる。

 母、父、姉、知らない場所、風景────記憶が奔る。 

 誰、誰、誰.....?私は、誰────目が覚める。


 「私は、何をしていた、のですか?」

 

 振り向いた先に残ったのは――――――壊れた戦鋼せんこうだけ。

 周囲には血かオイルか分からない液体が散らばり、誰もいない席が、ぽっかりと空いていた。


 『判断はんだんは、貴様きさまに任す』


 空気が重い。

 足が震えています。


 なのに、どうしてですか。

 どうして────頭は戦うことを望んでいるのですかッ。


 「コイツを“動かせますか”、ナビィ!」

 『当然とうぜんだ。10秒よこせ!』


 戦鋼せんこうの中に乗り込む。

 機体内部コクピットは、暗く、沈黙している。

 彼女の居た場所に座ると、黒いニオイがした。

 

 『3倍の魔力量マナン・ゲージだと、やはり化け物か......回路つなぐぞ』

 「どうすればいいですか」

 『何、座っておけ』


 戦鋼せんこうがいびつな音を立てる。

 正面装甲が前を覆い、半壊したモニターに灯がともる。


 『簡易接続完了。本線通すぞ』

 「グッッ!』


 魔導遮断器マギア・ブレイカ:E/RROR

 魔力圧縮機マギア・コンプレッサ:起動

 超機関電圧:E/RROR

 魔導動力マギア・エンジン──起動開始


 体に再度、電流が走る。

 何だこれは。腕が増えたみたいだ。

 今までの感覚と違う────気持ち悪い。


 『意識を持て、所詮は体が増えただけだ』

 「簡単に、言いますね」

 

 ふらつく頭を押さえます。

 鼻血を切り捨て、歯を食いしばります。


 なぜ、乗っているのかは分かりません。

 なぜ、逃げてないのかも分かりません。


 ただ、体が“戦え”と言っています。

 ならば────やるしかない。

 

 『起動条件最終シークエンスまで完了コンプリートッ』

 「戦鋼せんこう、出ますッ!」


 鉄の騎士は、再び声をあげる

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