#11 家に帰るまでが遠足です

 黒髪短髪カツラ系ショート少女は重さを感じて起きます。

 

 『ずいぶんとお眠りだったな』

 「疲れていたもので」


 左を見ます。

 部屋の時計が差す時刻は、異世界時刻日本標準時との時差は24時間4時ぐらい。

 基地には窓がないので、外が暗いか明るいかは分かりませんね。


 久しぶりに、よく寝た感じです。

 人と話すのは疲れる、ということでしょう。


 『戦場きちで、気を抜きすぎるなよ』


 幻聴ナビィは、やけに早起きです。

 昨日、いいことでもありましたか?


 「ふぁィにしても体が重く感じます」


 (疲れが抜けていないのでしょうか)

 

 右を見ます。

 訓練生キイロの顔。ヨダレを黄色の髪に垂らし、ほぼ裸で私に抱きついています。上がはだけて寒かったので、湯たんぽの代わりにでもされたのでしょうか。


 『全く、兵士としての自覚は無いのか』

 「幸せそうですね」

 

 彼女を剥がし、自由を得ます。

 周囲は思ったより散乱していません。昨日、一緒にいた目隠しアオイ一曹が片付けてくれたのでしょうか。よく覚えていません。


 「彼女キイロの服を探しますか」

 『ずいぶん優しいことで』

 「まさか」


 部屋の隅に、脱ぎ捨てられたキイロの制服を見つけます。

 見かけによらず重たいです。ポケットの中に何を入れているんですか。


 漁ると────鏡、縦長の機械、メモ帳......可愛いカードケース

 

 「ありましたか」


 カードケースを開くと、


 【[名前:木色キイロ来来ライライ] [権限:レベル3]】


 上の権限のパス。仮パスで開かないドアが、ようやく開くようになるハズです。


 『意外と考えているんだな』

 「もちろん、考えています」


 部屋のドアを開けます。 

 残されたのは、制服を上にかけられた訓練生キイロのみです。


 ◇◆◇


 以前来た道を辿り、【保管室】扉の前に来ます。 

 早朝ですから、通行人はいませんね。


 ならば扉の中を確かめた後、地下を探索と行きますか。

 

 「好機ですね」


 飛び上がり、パスキイロのを機械に叩きつけます。

 電子音と共に、扉が左右に割かれ、内部が露になります。


 「薄暗いですね」

 『反応は、部屋の右横だ』


 灯りが欲しいところですが、光を見られるのは危険ですね。

 目を凝らして見ると、剣や盾などが置いてあります。


 『ここがドロップ品の保管庫か』

 「ドロップ品とは、魔石とかのですか」

 『ああ、それに時々落とす品も含まれる』

 

 幻聴ナビィの為になるお言葉だ。

 一見、ガラクタにしか見えない。いや、異世界産だから特別な効果でもあるのでしょうか?厳重な管理が、一層の謎を掻き立てますね。


 「あれ?右奥のモノって」

 『やはり、コイツは......』


 写真で見たものと同じ遺物────青い宝球。

 神秘的な雰囲気を漂わせ、僅かな光で蒼く輝きます。ですが、神秘的であるという以上には分からないですね。


 幻聴ナビィは詳しく知っているのでしょうか?

  

 『ナビィ、これは何なのでしょう?』

 『いや、私達には関係のない物だ』

 

 幻聴ナビィは沈黙します。思い出を思い返すような、長い沈黙です。

 答えないということは、本当に必要が無い話ということなのでしょう。

 深く聞く気もありませんし、回収が任務です。


 手に持っている遺物青い宝球を回収します。

 重要なものですが、ポケットぐらいしか隠す場所無いですね。


 「では、頃合いを見て基地から抜け出しますか」 


 折角もう一日休みがありますし、基地を満喫してからでも遅くないですね。

 忍び込む配送の荷物の吟味も必要ですし、ゆっくりと考えますか。

 

 「遺物......見つかりましたね」

 『運がいいと、喜ばないのか?』

 「よろこぶべきなんでしょうね」


 何が言いたいのでしょうか、私は。

 これではまるで────


 爆/発


 衝撃は足元を揺らし、倉庫のモノはガタつきます。


 [基地に甚大な被害を確認。敵、ゴブリンWARNING襲撃!WARNING襲撃!]

 [警戒態勢をレベル5に引き上げますWARNING襲撃!WARNING襲撃!非戦闘員は速やかに退避してくださいWARNING襲撃!WARNING襲撃!]


 「簡単には終わってくれないようですね」

 『帰るまでが、何とやらだ』

 「遠足気分ではないんですが」


 私は、一歩を踏みしめる。


 ◇◆◇

 

 黒髪短髪カツラ系ショート少女は、保管庫ドアから周囲を窺う。

 

 『で、どうするつもりだ』

 「基地中央にでも逃げ込みますか」


 外は戦闘していることでしょう。

 故に、混乱に乗じて外に逃げるのはリスクが高いです。

 なら、内部に避難が丸いはずです。


 (中央に娯楽施設食堂・浴場があるなら避難所シェルターぐらいはあるハズです)


 「ナビィ、現在地は?」

 『中央部なら、壁向こうだぞ』


 つまり、右の通路を通った先ってことですか。

 距離は、大したものでは有りません。急げば数分でしょう。


 『警戒を怠るなよ。先の爆発、ゴブリンメイジがいるぞ』

 「実感が湧かないんですが」

 『だ』

 「分かりやすくて結構です」

 

 幻聴ナビィのありがたい話です。

 地球産の魔物劣化サンドワームに手こずる実力なので、接敵しないことをを切に願っておきましょう。


 中心部に急ぎます、が、


 「これは」

 『金属の壁だな。邪魔なものを』


 道は、中央までの道はありませんでした。壁、目の前あるのは、金属の壁だけです。触るとビクともせず、通り抜ける隙間もありません。


(来たときに道はあったので、隔壁でも降りたのでしょうか?)


 『どうする、ぶち破るか?』

 「いえ、外に出ましょう」


 内部にいても聞こえる、爆発、銃声、爆発。

 外が激戦の中、隔壁は破れません。


 戦闘をしているということは、どこかが守るべき場所侵入経路があるということ。

 

 (大方、逆側の倉庫内部でしょうか)


 外部から入れそうなところは、倉庫以外思いつきませんね。


 「感知を頼みます、ナビィ」

 『任せろ。だが頼りすぎるなよ』


 幻聴ナビィは冷静です。

 

 通路を見渡せば、壊れたランプが点滅する【非常口】

 力任せに非常用ドアを開け―――――


 「これは......」

 『魔物ゴブリンメイジにしては、火が早いな』


 赤一色


 自然と無機質な基地は何処に行き。ペンキをぶちまけたような風景────炎の海という奴ですね。爆発音に乗って来るのは、獣のうめき声。


 未だ日は昇らずとも、周囲は明るいのが......唯一ですか。


 「笑えませんね」

 『ここで笑えれば一人前だぞ』

 「気遣いは結構ですよ、ナビィ」


 震える手を握りしめ、隠密を始めます。

 目指すは、中央への入り口です。


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