#9 妹はそこに居ますか?

 黒髪短髪メイド少女わたし配膳しごとは終わりません。


 「オムライスうどんです」

 「ありがと......おう、今日はここで仕事か」


 整備員おにいさんは、死んだ声で言います。


 昨日仕事をした仲ですが、最終的に重い荷物を押し付けてサボっていた辺り、クソ野郎です。


 (まあ、サボりたい気持ちも理解できない訳でもないですね)

 

 今日も、全身黒く汚れてますから。


 「汚れていますので、戦鋼用の洗浄槽に突っ込むとかがオススメです」

 「残念だが、クソほど忙しんだ。戦鋼せんこうを直さないっていうのに────」

 


 まず、基地に戦鋼せんこうの部品がないだろ。

         ↓

 で、中央に発注したが直ぐには無理。

         ↓

 そもそも最近修理部品が入ってこない。

         ↓

 キレた整備長おやっさんが本部に突撃。

         ↓

 整備長おやっさんが抜けた結果、現場が死。



 「クソみたいな負のスパイラルが出来ちまったわけだ」


 ため息をつく整備員は、一際小さく見えました。


 「たしかに、大変そうです」

 「だろ、分かるかこのツラさが」


 戦鋼せんこうは、人型の機械。


 最新型になると関節や動力周りで、大変な手間がかかるのかもしれません。


 (逆に、手伝うことで入れない場所の話も聞けるでしょうか)


 時間は、さらになくなりますが。


 「応援はいりますか?」

 「応援かぁ」

 

 整備員おにいさんは、腕を組み深く俯きます。

 

 その後、深呼吸をはさみます。


 「──────妹声の「頑張がんばってくれ」で頼む」


 「なにをいっているんですか」


 「もちろん追加武装ツンデレはありだ」

 

 「本当に大丈夫ですか」 


 声は混濁なく正常。

 動きに不審な点もなし。

 目の焦点も定まっています。


 (とすれば私がおかしいのでしょうか?)


 最近では、応援という言葉の意味が変わったのかもしれません。


 「ナビィ、どうしましょう」

 『任務の為だろ。わかっているよな?』


 幻聴ナビィは嫌なことを言いますね。


 限度までの期間が延びたとはいえ、情報のツテは欲しいところ。 


 (でも、本当に必要なのは荷物を運ぶとかの応援な気もします)


 「流石に......」


 断ろう、と言葉を出す前に幻聴ナビィは、


 『なら、という訳だ』

 「ッ!?」


 今の発言は聞き捨てなりませんね、幻聴ナビィ


 本当に、が出来ないと思っているのですか?

 

 (寝言は寝ていってください)


 前を見れば、整備員おにいさんは真顔になっていました。


 「いや、冗談だ。気にしなくて......」

 「任せてくださいッ」


 食事が乗った皿を強引に前に寄せ、付属の使い切りケチャップを持ちます。


 一回、深呼吸。


 妹声────ゲームの妹でも思い浮かべていれば大丈夫でしょう。


 昔の記憶はだいぶ掠れていますが、誤差の範囲内です。


 『貴様、馬鹿にしているのか?』

 「何ですか、ナビィ」

 『想像力イメージが足りない、と言っている』


 脳内の幻聴ナビィは何を言っているんでしょうか。


 妹なんて、創作が一番。


 実際の妹なんて、鬱陶しいだけの存在。


 (所詮、リアルなんて2次元には勝てないんですよ)

 

 『呆れたものだ。それでよく妹を名乗れる』

 「いや、名乗っては無いんですが」

 『馬鹿者が────本当の妹を見せてやる。感謝するんだな』

 

 「なにを────うぇ」


 脳に溢れるは、赤髪ツインドリル童顔ふわふわドレス幼女

 兄/姉 あねさまとの食事しょくじ訓練くんれん排泄はいせつ入浴にゅうよく睡眠すいみん

 幼女の一挙一動が────私に、いや、私が、


 昨日は、兄/姉 様あねさまと遊べなくて残ねんだったなぁ。

 

 きょうこそは、いっしょに────


 ◇◆◇


 「────おーい、大丈夫か?」


 ゆめから、さめる。


 目の前には、きのうあそべまかった、兄/姉 様あねさま


 「は、話しかけないでください、変態ッ」

 「へっ?」 


 わたしが、どんなにさびしかったか、知らないくせに。


 なのに、いきなりお願いなんて。


 れでぃのあつかい、がなってないです!


 「兄貴おにいはサイテーです」

 「いや、無理なら言わなくても大丈夫なんだが」


 わたしじゃなくても、いいんですか?

 わたしじゃ、だ目なんですか?


 「ウルサイです。兄貴おにいじゃなければ断ってますからねッ」

 

 わたしだって、やれるんです。

 だから、あん心して、見ててください。


 食べものに、そーすをかけて、

 まえをむいて、ゆっくりと────


 「が、頑張がんばれ、おにいちゃん」


 こわくて目をとじてしまう。


 できたかな。

 おこられないかなぁ。


 声がきこえない。

 なにもきこえない。

 

 「きょうはちゃんとできたよ、兄/姉 様あねさま


 ケチャップは、歪なハートを描いていた。


 


 「────へっ」

 

 騒音で目が覚めます。


 「おい」


 ......いや、私は何を?

 目の前には人だかり。


 「おい、おい!しっかりしろッ!」

 

 整備員おにいさんは倒れています。


 満足で、幸せそうな顔をしています。


 「死ぬなッ!故郷に家族が、妹だって」

 「────妹はここにいるじゃないか」

 「目を開けてくれ、生きることを諦めないでくれ」

 「悪い、家族に頼む「妹はツンデレに限る」と」

 「町田ァ!」


 整備員おにいさんは、医務室に運ばれていきました。


 後から知りましたが、ただのショック状態になっただけだそうです。

 

 疲れている体に、追い打ちをかけてしまいましたね。


 記憶には無いのですが、申し訳ないことをしました。


 『......0ひゃく点だな』

 「なんの採点ですか」

 『貴様の演技についてだ』


 幻聴ナビィはなにをいっているのでしょうか。


 気を取り直して、次の配膳に行きますか。

 

 えっ、配膳が溜まっている?

 あと20人分を5分で捌け。

 無理ですよ、えっできないと上にチクる?

 冗談ですよね────あっ、ちょ



 『まったくこうも簡単に精神を乗っ取れるとは......馬鹿は人としての軸がないのか』


 幻聴ナビィはつぶやきは、だれにも聞こえてはいません。


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