#7 仕事は多い
足取りは、少し重くなっています。
ですが、頼まれた仕事は1つの荷物を運んで終わるものではありません。
荷物運びは、まだまだ続きます。
「大箱を向こうに運んでくれ」
「おやっさんの方に頼む」
「おやっさん、とは?」
「向こうの白煙あげてるジジイだよ」
確かに向こうに、タバコを咥えて整備服を着た、じいさんがいます。
日差しが強くないのに、帽子とグラサンとはファンキーな人です。
「腐っても
「────おい、なァに、ぼさっとしてやがる。さっさと荷物を持ってこいッ!」
「は、はい、今すぐッ、という訳で頼んだぞ」
整備員は、急いで消えてしまいました。
荷物、運ぶの手伝ってくれてもいいんですよ、と言うひまは無かったですね。
「意外と重くないですね」
仕方ないので、周囲に気を付けながら運んでいきます。
箱が大きいので前が見にくいです。
「ここで大丈夫でしょうか?」
「おそ────なんだお前さんか。その周囲に置いといてくれ」
「置いておきます」
おそらく、タバコの匂いなのですが。
甘いわけでもなく。
爽快なわけでもなく。
ですが、頭が働くような。
体が軽く感じるような。
────不思議な匂いです。
「あまり吸うなよ、体にはよかねえぞ」
「悪いモノを吸っているんですか?」
薬物か何かでしょうか?
(周りの皆様は咎めていませんし、合法的なモノですか)
「俺ぐらいの年になると、髪が薄くなっちまうんだ」
「薄毛対策......?」
「違え。要は、体の
────おかげでこんなクソ不味いものを吸わねぇといけねぇ。
(私にとっては良いにおいなのですが)
人によって感じ方はぞれぞれです。
それよりも、
「髪と魔力......
『いや、初歩の初歩だぞ』
脳内の
研究所では魔粒子についてすら教えてくれませんでした。
私の知識もナビィ由来の物が多いですし。
『だが、髪は大事にしろと親から習わなかったか?』
「習った記憶は無いです」
髪について言及されたことはないはずです
男の人なんか髪を長く伸びる邪魔なモノだと思っている節もありますし。
私達の髪なんか────だから、カツラが必要だったんですね。
(髪が無いと、
カツラが大事にするべき物に入っている理由が分かりました。
「どうした、
「いえ、1つ謎が解けたので......顔に出てました?」
「雰囲気だ、ジジイの特権だよ」
匂いだけではなく、人柄も不思議な
私の表情筋は、死んでいるのですが。
「仕事にもど────『魔力......
「機体入るぞォ!緊急だッ。整備員は退避ィッ」
「慌ただしい奴らだ」
脳内の
帽子が飛び、砂埃が舞う。
白く染まった倉庫で、
最初に見たのは、
鋼鉄の騎士
「
「でも~、被弾してアラームが止まらなくてェ」
「パージでもしておけ、馬鹿が」
戦鋼の中から、しみったれた声がします。
声は、
操縦席から出てきた黄色の髪も、心なしかしんなりしています。
機体からは、配線が垂れているところもあり。
右腕には、大きな凹みがあります。
(状況から見て、なにかにぶつけたという感じですか)
「全く、そもそも攻撃に当たるなって話だ」
「整備長、どうか許してやってほしい。味方を庇った余りの被弾だ」
鬼殺し教官の声は、後ろから響きます。
恰好はいつもと変わりませんが、
「そんな馬鹿をさせんのが、アンタの仕事なハズだろ」
「そうだな、面目ない」
「構わん、機械は直せるからな────野郎ども集まりやがれッ」
言い切ると、
「反省ものだな」
「んっ」
鬼殺し教官と目が合います。
(合うというか、興味が惹かれますが正解ですか)
何故か持っている袋に目が行くのです。
おいしい物でも入っているのでしょうか?
「こいつか?ただの魔石を入れた袋だが」
「魔石ですか?」
「ああ、近隣のゴブリンからとれる素材だ」
鬼殺し教官は、見かねて説明してくれます。
ゴブリンの魔石ですか。
地球の魔物は、魔石なんて落とさなかったような。
『奴ら魔石は限界だったということだ』
「どういうことですか?」
『知らん。魔物を倒したら魔石が割れた、以上だ』
「説明になっていません、ナビィ」
(地球産の魔物も、魔石は持っていたということでしょうか)
ですがなぜ限界だったのでしょうか。
環境が合わなかった?
ご飯が食べれなかった?
専門家でもない私が考えたところではありますが。
「まあ、落とすモノは他にもあるんだが────」
すまない、魔石を保管庫にしまわねばな。仕事、頑張ってくれ。
教官は、倉庫から出ていってしまいました。
基地には、「保管庫」もあるんですか。
(知らない場所が、たくさんありますね)
やはり、仕事を素早く終わらせて、基地を探索するべきですね。
『......空回るなよ』
「まあ、見ていてください」
この後、頑張りすぎた結果、疲労と睡魔に襲われることを、私は知りません。
◇◆◇
『で、任務はどうするんだ』
「明日......頑張ります」
少なくとも今日の自分にはもう無理です
きっと────明日の私が頑張ってくれるハズです。
おやすみ、なさい。
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