#5 少女は何の夢を見る

 黒髪短髪少女わたしは、黄色長髪きいろロング少女に引っ張られます。


 連れてこられた場所は、全体的に無機質ながらも活気が見える空間。


 「ここは─────食堂だよ」 


 注文所と食事場で分かれているタイプですね。


 前まで居た研究所より、広くてゆっくり食べれそうです。


 (椅子がありますし、広いので盗まれる心配もなさそうですね)


 「人数に比べて大きいですね」

 「そりゃあ、昼時は過ぎてるからね」

 「そういうものですか」

 「そうだよ、ほら」


 黄色長髪きいろロング少女の目線は、メニュー表を見ています。


 表示されているメニューは様────海鮮に、肉料理、魔物料理ですか


 (ゴブリン皮の塩焼き、おつまみ羽虫......おいしいのでしょうか?)


 売っている以上食べれるモノということでしょう。


 「色々あるでしょ」

 「とありますね」


 戦場流のなんでも食べてみようという発想なのでしょうか。


 研究所の魔物は食べようとしたら消えてしまいましたし、食べ方は気になります。


 「おばちゃん、出汁マだしマシマシ極みアルティメットカツ丼、2つ」

 「2つ?明日が恐くなるよ」

 「1つは彼女のだから、セーフだよッ」


 気づけば彼女に、カツ丼の乗ったトレーを手渡されます。

 

 ─────“先に座ってて、ですか。


 食堂で頼まなくとも、ポケットには携帯できる食料が入っています。


 (おごられた物を食べないというのも変ですか)


 ここは一緒に食べる、というのが賢い選択でしょう。


 カツ2個のカツ丼は、湯気に乗った匂いを漂わせています。


 ◇◆◇


 「ここのカツ丼だけは、おいしくてね」


 黄色長髪きいろロング少女は、箸でカツを刺します。


 彼女の丼は、すでに底に出汁がみえます。

 

 私の丼は、まだ湯気を帯びています。


 「そういえば、私名乗って無かったね────私の名前は【来来ライライ 木色キイロ

 「えっと、ライライ......」

 「髪の色と因んでキイロでいいよ。キミの名前は?」


 黄色長髪きいろロング少女のキイロですか。

 

 髪が黄色いのと相まって、わかりやすい名前ですね。

 

 比べると、私の名はわかりにくいかもしれません。


 「名前は......H02エイチゼロツーです」

 「すごい名だ......あっ犯罪者番号かっ───気分悪くしたら、ごめんッ!」


 変な名前なのでしょうか。

 

 研究所でも文字アルファベットでしたし、周りも同じだったので違和感が薄れていましたね。


 (私は、とくに気にしていないのですが)


 謝ってくれるあたり、黄色長髪少女キイロはいい子なのかもしれません。


 いや......開幕ブッパ初手腹パンでしたし、油断は禁物ですね。


 「大丈夫です。気にしてません」

 「そ、そうなんだ。えっと────どうして、軍隊なんかに?」

 

 騙されて実験体にされたからです真実、なんて言えません。


 下手をうてば消される可能性もありますし、誤魔化しておきましょう。


 「成り行きです。強いて言うならですか」 

 「そ、壮大な答えだね」


 言葉が強すぎたようです。


 仕方ないので、質問を返してうやむやにしておきましょう。


 「あな────キイロはなぜ軍隊に?」

 「わたし。わたしは、なんでだろ?」


 ────友達の為に、軍隊に入って。


 なんとなくでやっているうちに、友達が居なくなって。


 だから、だれかを友達のようにしないために頑張って。


 「────結果ここに居るみたいな?」

 「......」

 「いやー、ごめんね。自分でもよく分かってなくてさ」


 しいて言うなら────、かな。


 「非常に、斬新な答えですね」


 自分の為ではなく、誰かの為に頑張る。

 美徳ですが、美しすぎる考えだと思います。


 誰もが誰かの為に頑張れるわけがない。


 黄色長髪少女キイロは、死をしらないのでしょう。


 死をしっているなら、誰かなどどうでも良くなります。

 

 必要なのは自分が生きることですから。


 「斬新なのかな。私は────」

 「────戦鋼せんこう操縦者パイロットだから」

 「あれっ、訓練生のこと話したっけ?」


 黄色長髪少女キイロは不思議そうな顔をします。


 朝の教官が発言していた訓練生は彼女のことでしたか。


 日本人にしては、記憶に残りやすい名前でした。


 「鬼殺し教官が、寝坊したキイロ訓練生のことを話していたので」

 「げっ、忘れてたッ」


 “ごめん、先に行くわっ、と言い彼女は走り出します。


 後ろ姿は、眩しく、陽光の様でした。


 カツ丼の湯気は、既に消失しています。


 『大丈夫か、限界だろ?』

 「────────ッ」


 椅子を倒し、急いで動きます。


 幻聴ナビィにはバレていますね。

 

 (トイレは、隅ですか)


 タイルを踏みとび、ドアを蹴飛ばし、蓋を開けて、


 「ゥぐ────ぐェ、グッ、ハアハア────……」

 『難儀な体だな』


 やはり無理でしたか。


 最近は体調が良かったですし、おいしそうな匂いもしていたので、少しぐらいは食べても大丈夫だと思ったんですが。

 左手を動かして────


 『右のポケットだ』


 右のポケットから小瓶アンブルを出します。

 中の液体は、青色。照明の光で、少し神秘性を感じます。

 

 味は......少し酸っぱい気がします。


 「たまには食感が欲しいですね」

 『ゼリー状なら、まだ大丈夫かもしれんぞ』

 「......そうですね」


 トイレの外にいた男性隊員に驚かれた気がしますね。


 音が外まで洩れていましたか。

 

 少し申し訳ない気持ちになります。

 

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