#3 潜入命令

[異世界スーア第13前線基地、現在【通常業務】]

[定点カメラ(倉庫) 午前18:00]


 天井につるされたライトは、薄暗い倉庫を作り出す。

 鈍光に照らされた、並ぶように鎮座する金属の塊。

 金属の周囲には、押しのけられた乱雑な荷物たち。


 荷物の近くには、数人の人影を写す。


 「よく聞け貴様ら、今日は連絡事項があるッ!」

 

 紙パックを咥えた女性は通る声を飛ばす。


 ダークな黒色のポニーテール。

 メイクがなくとも凛々しい顔。

 服はスーツを纏い、体系を引き締めて見せる。

 

 総評すれば、凛とした女性。


 「傾聴けいちょうッ」


 「今日もキレッキレですね、教官きょうかん殿」

 「紙パックは捨ててくださいよ、教官きょうかん殿」

 「ちなみに、寝癖ができてまっせ、教官きょうかん殿」


 紙パックが下に落ちかける────


 「────なっ、髪は直したはずだッ」


 右手で紙パックを受け止め、左手で髪を抑える。

 

 だが寝癖には弾性がるようで、

 髪を抑えたところでもとに戻る。

 数回の攻防をへて教官と呼ばれた女性は諦める。


 「......れ、連絡事項があるッ!!」

 「「「イエスッ、マム!!!」」」


 作業服を着た男たちの声が響く。

 

 ふざけた態度は何処にか、

 男たちの一糸乱れぬ行動は、

 十分満足だ、と言わんばかりの動きだ。


 「よろしい、今日は予備隊員が配属の予定だ。よしなに頼む」

 「そんで、その予備隊員はどこですか?」

 「もう到着している時刻、ではあるんだが」


 教官は手に付けた機械的な時計を見る。

 

 その後、周囲を確認を行うが、

 周囲には、金属の塊と積み上げられた荷物のみ。

 おおよそ少女はともかく、人と呼べる気配すらない。


 「今日到着したのは、荷物だけでっせ」

 「本当にそれだけか────」

 

 どんどんっと倉庫内に重音が響く。


 銃声にしては軽い。

 どちらかと言えば削るような破砕音。

 地面から魔物共でも来たかというのが教官の感想。

 

 「どこからだッ、敵襲かッ」

 「いえ、音は荷物から聞こえています」 


 耳を澄ませば、

 破砕音は箱の一つから響く。

 つけられた箱のタグは[精密機器]。


 (ずいぶんと野性的な精密機械だな)


 そんな感想を抱きつつも教官は指示を出す。


 整備員に指示異をだし、

 荷物の周囲を取り囲ませる、

 男共は工具。教官は素手を構える。

 

 音が変わり、

 箱の耐久値は、

 既に限界に聞こえる。


 「気を付けろ、何が出てくるか分からんぞ」

 「そんときゃ、そん時ですよ」

 「頼もしいな────来るぞッ」


 ずどん、という爆砕音をもって木箱は、爆散。


 最初に、

 聞こえてきた音は、

 魔物どもの叫び声ではなく、


 ─────少女の声。

 

 「ようやく出れましたが、無茶苦茶では?」

 「えっ、いや、ナビィ、貴方の案でしょう?」

 「そうですが......えっ囲まれている?」


 真顔の少女。

 呆然とする周囲。

 過ぎ去っていく時間。


 暫し沈黙へて、


 「ほ、本日配属になりました。H02エイチゼロツーです」


 少女はぎこちない敬礼をおこなう。


 ◇◆◇


 おかしいですね。

 上からの指示に従って、

 荷物として送られてきたはずなのですが。


 どうして、私は注目されているのでしょうか。


 周りに集まるは整備員達。

 あーだ、こーだと会話を始める。

 もちろん少女の気持ちは無視である。


 「黒髪短髪少女ですか」

 「異世界の女だぞ。女じゃない戦闘民族ゴリラ確定だ」

 「ですが、無表情黒髪ロリッ子......銀髪なら加点ですかね」

 「ちゃんと名前聞いていたか、名前が犯罪者番号だぞ?」

 「あれ難民にも付けられる識別番号ですよ」

 「だとしても碌な予感がしないぜ」


 やはり注目を浴びる少女。

 服装に不備はないはずですが。

 きちんと支給された服を着ていますし、靴も揃えました。


 (と、すれば変装用のカツラでも、ズレていますか)


 脳内の幻聴ナビィ曰く、“ハゲに人権はない”だそうですが。


 そんな幻聴ナビィは呆れた声です。


 『いや箱を割って出てくる女がいるか』

 「ですが、命令には安全な輸送の為と」

 『荷物で送っている時点で察しだ』


 確かに箱に詰められたり、

 箱の扉が開かないことには、

 割と不満ではありますが。


 (個人的には久しぶりに気持ちよく寝れて満足です)


 呆れた馬鹿だ、とは脳内の幻聴ナビィの声です。

 そんな雑談を脳内でかましていると、凛とした女性の声が響きます。


 「静かにしろッ。疑問は最も。だが13基地ウチに来た以上、仲間メンバーだ」

 「「「サーイエスマムッ!」」」


 整備員の視線が消えます。

 木の葉を散らすが如くとは正にこのこと、

 女性の発言はそれほどにまで重いものなのでしょうか。


 「よろしい。ならば作業に戻れ」

 「「「了解しました教官殿」」」


 整備員達は各々の作業に戻ります。

 私はどうすればいいのでしょうか。


 (とりあえず整備員達と同じ行動をとるべきでしょうか)


 そう思い一歩を踏み出そうとしますが、


 「まて、H02エイチゼロツー。貴様には追加の連絡だ」


 教官と呼ばれた女性に呼び止められるのでした。


 ◇◆◇


 粉砕した木箱。

 内部から力が加わり破壊された木箱は、衝撃吸収用に詰められた紙屑と共に破片となって床に跳び散っています。

 コンクリートで舗装された床は、七色に反射する場所があり油か何かをこぼした跡が見られます。 


 コンクリートの影は3つ。

 小さい影の私と、大きい影の女性が2人。 


 大きな影の1つである教官が口を開く。


 「ウチには後2人のパイロットがいる」


 教官が口で指したさきには青髪の女性。


 「1人はそこの女性、アオイ一曹」


 ブルーオーシャンのような青髪ロングヘヤー。

 線は細く、出るとこも出ていない、スレンダーな女性。


 一般的に見ればお淑やかな女性なのだが。


 「なぜ目元に鉢巻を......」

 「ええ、これは生まれつき必要なもので」

 「目に鉢巻をまくことが、ですか?」

 「まあ、アクセサリーのようなものだと思っていただければ」


 (現代のファッションという奴でしょうか)


 あっはいっといった感じで鉢巻アオイ一曹と握手を交わします。


 「もう1人はキイロ訓練生なのだが────目下、遅刻中だ」

 「はあ、寝坊ですね。死ぬほど訓練する誰かのせいです」

 「教え甲斐が有りすぎるのも悪いことだとは思わんか」

 「ふふ、言い訳は聞きたくないですね」


 教官と鉢巻アオイ一曹は睨み合い、笑い合います。


 どうやら私も死ぬほど訓練する羽目になりそうですね。

 

 と考えていたら、スピーカーから声が響きます。


 [[[────時報です。19時になりました]]]


 反響しているあたり、各処で同じ音声が流れているのでしょうか。


 「では、鬼殺し教官。私は用事があるので」

 「鬼殺し、教官?」


 聞きなれない名ですね。

 いえ、犯罪者番号の私が言えたことではないんですが。

 

 『鬼......聞いたことがあるぞ』

 「ナビィ、詳しく知っているのですか」

 『ああ、鬼とはオーガという魔物の一種だ』


 ────筋力に優れ、強靭な皮膚は魔法を弾く。また、知性も高く魔法を使うハイオーガも存在する。奴らの肉を食べる時は、魔力に酔いに気をつけることだ。


 「あいかわらず物知りですね」

 『当然だ。伊達に生きているわけではない』


 幻聴ナビィの解説に感心します。

 相変わらず無駄話の匂いがしますが、少しは為になる話もあるということですね。


 (話をまとめると、【鬼殺し】とは、オーガを屠ったということですか)


 「実は昔、鬼の化け物と対峙する羽目に────」

 「なに、冗談を。いつも【鬼殺し】という酒を飲んでいるからでしょう」

 

 「────諸説の一つでもある」

 「いや、本説でしょう」


 紙パックに書いてある文字は【鬼殺し】

 

 先の話は何だったんですか。

 僅かばかりの尊敬を返して欲しいですね。


 「......まあいい、後はこれだ」


 鬼殺し教官から、渡される。

 これは、小さい板?


 「基地内用の仮パスだ。壊すなよ、部屋に入れなくなるぞ?」

 「なに、普通は壊れませんので大丈夫です」


 と言うと、教官たちは歩き出す。


 部屋番号は304。

 

 (これだけでは、どこにあるのかすらわかりませんね)


 第一に部屋を確保。次点で基地の探索というところですか。

 

 倉庫のドアから、見える太陽は2つ。

 息を吸い、深く吐き出す。

 空気は、少しひんやりしている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る