#2 彼女の名前はH02

 ────モニターがアラートが聞こえる。


 機体は動いている?

 私は、死んではいない?


 モニターに映るは、砂をまき散らすみみずの化け物。

 サンドワームは、躱されたことに不満か、「ギュルル」

 と低いうなり声をあげ、再度地下に潜る。


 追いかけようと、機体を動かそうとするが────


 『体が動かない?』


 機体を操縦しているのは私の体。

 でも、動かしているのは、私────ではなくナビィか。

 道理で、第三視点のような俯瞰的な感想が出る訳だ。


 『体返してもらってもいいですか?』

 「寝坊助には、まだ朝は早いだろ?」

 『......後で、体、返してください』


 反論ができない。


 事実、しくじったのは私だ、無残に寝坊助をかましたのも私だ。


 敗者に、決定権はない。


 「虫の癖に奴らの知能、身体能力は高い。囮は奴らの常套句だ」

 『では、どうするのですか?』

 「同じことをするだけだ」


 ナビィは、倒れている残骸に発砲する。

 レーダー上の青い光が消え、金属と液体が飛び散る。


 一点、二点、三点。

 光が、消えていく。


 銃穴の開いた残骸は────「「「ドドドンッ!」」」


 内部の機器ににでも、引火したのだろうか。

 燃える炎は、鮮やかな金色。

 見たことのない色だが、良く知っている温かさだ。

 残骸は、尚も燃え続ける。


 「奴らは、魔力を捉え、得物を狙う」


 爆発、爆発、爆発。

 爆発、爆発、爆発。

 周囲が、紅蓮に包まれる。


 「だが、瞬時に膨大な魔力を捉えると────」


 周囲にサンドワームが吹き出る。

 だが、どの個体も様子がおかしい。


 「────処理ができず意識が飛ぶ」


 右手が動き、モニターを操作する。


 『大漁ですね』

 「よく使われる手法だ」


 機体の銃器が火を噴き、サンドワームには穴が開く。

 弾丸は吸い込まれるように一点を貫く。

 必殺必中。


 出来あがるのは、サンドワームの山。

 地面は、もう揺れてはいない。


 これにて殲滅は終了。


 『体の返却を────』

 「ちっ、馬鹿の一つ覚えめ」


 ────風景が飛ぶ。


 機体が一瞬で後ろに跳んだのか。 

 先居た地面は、サンドワームが突き出していた。

 体は短小、だが、歯は鋭利、視線も狂暴に見える。


 「群体ではなく、統率体か」


 トリガーを弾き、銃弾が飛ぶ。

 銃弾は、一点を目指し突き進む────


 が、鈍い音を立てて砂に沈む、結果に終わる。


 「安物めッ」

 『残弾はゼロです』

 「知っているッ」


 右手は、銃を放棄。

 左手は、機体を前に滑らす。


 刹那、距離が詰まる。

 目と鼻の先に、サンドワームが迫る。


 「シャアアッ!!」


 サンドワームは口を開き、こちらを捉える。

 迎撃にはお粗末だ。


 だが、鋭利な歯は機体をかみ砕くには十分。

 そして、機体は奴に突っ込んでいる状況。


 『ナビィ、武器が────』「────いいか、鎧はこう使うッ」


 刹/せつな


 機械の腕は、化け物の口を貫き、皮膚を抜く────戦鋼による貫手

 

 抜けた手の中には、赤の石。

 輝きは灯に感じる石を、


 「砂虫め、二度と面を見せるな」


 ────無機質な手は握りつぶす。


 「金にならん奴らだ。主導権返すぞ」

 『へっ』


 急に、感覚が戻る。

 

 体に、肺や心臓が垂れさがる。

 体が重い。

 人の活動を、思い出す。

 呼吸が重い。


 「ごっほ、ごほ、次は、意思疎通を頼み、ます」

 『同居中だ。必要は無いだろ?』


 息苦しさを紛らわすため、ヘルメットを脱ぐ。

 モニターに映る顔は、少女の顔。


 眉も、髪もない顔は、機械のようにも思える。

 彼女は、表情一つ動かず口を動かす。


 「連絡のため、機体を警戒態勢で待機」

 

 通信機のボタンを押す。

 気持ちは落ち着いている、だが、指は震えている?

 少し遅れた後、通信が繋がる。


 [こちらHエイチ、交戦終了]

 [そうか......他の連中はどうなっている?応答をさせろッ]


 モニターを通して、周囲を見る。

 残ったのは残骸とのみ。

 レーダーにも友軍を示す点は、無い。


 [自軍は、私一人のみ]

 [っ......通信を終了。指示を待て]


 座席の硬さが、体を慰める。

 私は、生き残ったのか。

 私だけ、生き残ったのか──── 


 意識は、闇にまどろむ。


 ◇◆◇


 天井のライトが、部屋を照らす。

 黒服の男は、椅子に座り、こちらを見る。


 机の調度品といい、椅子といい。

 研究室の部屋にしては、少し豪華だ。


 「上は討伐戦の結果にご不満でな。実験は凍結、予算は停止となった」


 足は、まだ痛む。


 戦闘によるものか、

 時間によるものかは分からない。

 簡素で穴の開いた野戦服は、少し湿っている。


 数秒、間を開けて男は言葉を続ける。


 「まあ、つまり────君は廃棄処分だ」


 分かっていた言葉が刺さる。

 今回の戦闘で、私以外の実験体は死亡。実験を続けるのは不可能。

 私たちは、使い物にはならなかった。そういうこと、なのだ。


 覚悟は、出来ている......ハズだ。


 言葉の余韻が、長く感じる。

 私は世界に────


 「────だが、金は少しでも回収する必要がある」


 男は、封筒を取り出し、開く。

 中には、書類と写真。


 写真は、机に投げられる。


 「という訳で貴様には、ある物を奪還してもらう」

 

 写真に映るは、蒼穹の球。

 蒼穹は、光の加減か?神秘的な輝きにも見える。


 「これは?」

 「遺物だよ。魔力を持ったド級のな」


 遺物を回収するのが、命令か。

 命令なら従う必要がある。

 ────命令は必要だ、世界で生きる為に。


 「だが、保管場所が場所でな────」


 見せられた紙には────


2000年 4月 4日

辞令書

 犯罪者部隊スカベンジャー 特殊兵

 H02 2士 殿


 2000年4月4日をもって、犯罪者部隊スカベンジャー特殊兵の任を解き、同日付けを持って、

 異世界スーア第13番基地、予備パイロットに任命する.

 職務に励み、海軍の戦果に貢献することを期待する.


日本海軍海将

薩摩 三郎


「────なに、ただ異世界に行ってもらうだけさ」


私は、もう少しだけ生きれそうだ。


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