第2話 小学校に入学したわたしに起きた災難

 「学校に行きたくない」という思いを抱えて小学校に入学したわたしは、決意どおり、クラスメイトと積極的に関わらなかった。ただ、勉強だけして、自分を高めていこうとしていた。クラスにいる友達は一人、幼馴染のあおだ。あおは家が近所で、幼稚園も一緒。ただ、あまり仲が良いとは言えなかった。わたしは、友達と思っていたが、あちらはこちらのことをあまり好いていないのが、いつも伝わってきていた。


 事件が起きたのは、小学校一年生の時の水泳の授業の後だった。水泳おわりの髪を濡らした生徒たちが戻ってきつつある教室で、数人のクラスメイト達がわたしのことを囲んだ。そのなかで、わたしの正面に立った生徒が、ものすごい形相で、「きもいねぇん!」とわたしに大声を張り上げた。もちろんその声は教室中に響きわたった。わたしは恐怖に身がすくみながらも、横目で教室を見渡した。だれも助けに来てくれる気配はなかった。

ただ茫然と立ち尽くしていると、声を張り上げた生徒の取り巻きが、わたしのほうを何かを期待する眼差しで見てきた。一緒に企んでわたしのことを恫喝しようとしてきた彼らがなぜ、わたしにそのような眼差しを向けてきたのかというと、声を張り上げた瞬間の生徒の形相がとても醜いものだったからである。女子だったが、まさに野獣といったような顔だった。取り巻きの生徒たちは、その事実を指摘する役目をあろうことか、被害者である私に期待したのである。しかし、わたしは、ここは取り巻きたちの期待に応えなければと思った。ただ、恐怖に身がすくんでいたので、声を振り絞るための勇気が必要だった。父の「英単語をすぐ覚えてくるね」と言った他愛のない誉め言葉を思い出した。それを一瞬で脳内変換して、わたしは頭が良いということにした。そしてそれを勇気を振り絞る材料にした。

何を言ったかは覚えていない。

 その日帰宅しても、わたしは落ち込んだ気持ちを引きずったままだった。こういう時、誰かに相談したかった。だが、相談できるような相手はいなかった。

母はいつも姉の味方だった。姉妹げんかで怒られるのはいつもわたしだった。そんな「悪者」の私が、「裁判官」である母に、いじめられたことを相談するなど、なにかおかしい気がしていた。家庭内では「悪者」の役割を与えられたわたしが、外に出ると「被害者」の役回りを与えられたのである。わたしはどこにも居場所がないように感じた。

 わたしに恫喝してきた女子生徒は、とあるスポーツで期待されている選手だということだった。私のことを取り囲んできた取り巻きの一人に、説明された。まるで、あの子はお前よりも上の立場だから、今からすることは正当なことだと言わんばかりの口調だった。わたしもなにかスポーツを始めようかと思った。だが、スポーツクラブに通って、周囲に馴染めず、いじめられるイメージが脳内によぎった。先ほどの件で、わたしはスポーツ選手全体に嫌悪感を覚えていたのかもしれない。わたしは、父のパソコンでyoutubeを開いた。そこにはあらゆる動画が乗っていたが、わたしが再生した動画はあるMVだった。聞いてみると、ガチャガチャと音が鳴っていた。うるさいなと思った。わたしには音楽は理解できないと思った。それからわたしはゲームをしてみた。みんなが楽しいというゲーム。人を楽しませるために作られたゲーム。なのに、わたしは全く楽しいと思えなかった。落ち込んでいたからではない。わたしはゲームを楽しいと思ったことがなかった。わたしはなにか落ち込んだ心を回復させることができるものはないかと探した。自分の学習机の上に、一冊の本が置かれていた。それは、見覚えがなく、姉が図書館で借りてきたものだった。

開いてみると、それはエロ本だった。エッチなお姉さんが乗っている雑誌ではなく、エロ漫画だ。わたしはそれを読んだ瞬間、衝撃が走った。今までどんな漫画でも見たことがない描写に、私の心は高鳴った。そのエロ本に夢中になることで、心の痛みを一時忘れることができた。

 


 

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