正しい失恋の忘れ方。

赤山仁

第1話

昔が良かったって言う人は、その時が一番楽しくて、

大人になってあの時は良かったって言う人は、今が嫌いで、

あの時は楽しかったって言える人は、今も昔も充実している人だ。


別れて思う、あの時に戻りたいって。

今付き合って、昔を思い出す。

勝手に比べてしまうこの頭が嫌いだ。


初めて吸ったタバコは、焦燥感を煙ごと吐くために吸った。今ではこれに縋るしかない。

弱い自分を隠す様に吸う。

それでも、昔好きだった人の事は忘れられない。


LINEに残った元カノとの写真。消えない様にアルバムに残した。今ではあの時の気持ちと一緒にこびり付いて消せなくなってしまった。

「絶対他の人に浮気しないでね。」

「冷めたら言ってね。」

「私だけ見ていてね。」

こんな約束を未だに守って居るのは馬鹿だろうか。

未だに夜中思い出す。泣きそうな彼女の目。震えた声。暗闇に佇むガラスに反射した僕の顔。


ぴぴぴぴぴぴぴぴ

朝だ。

酷い寝癖に髭面。

溜まりに溜まったゴミを掻き分けながら洗面台に向かい顔を洗う。

また「今日」が来た。


寝起きの体を無理やり起こし、学校の準備をする。

大学一年生。新生活で得たものは大きい。

しかし、高校3年生になっても僕はまだ元カノを忘れられない。


「おはよう!」

甲高い声で声をかけてきた女性。

この子は大学のゼミが一緒。

地元の県が一緒ってだけで意気投合して仲良くなった。

「お前相変わらず眠そうだな」

そう言いながら僕の髪をくしゃくしゃにするこいつは高校も一緒だった奴。

僕は毎朝駅を降りて彼らと学校に行くのが日課だ。

「昨日のレポートやった?」

彼女は、朝からコンビニのホットスナックを頬張りながら聞いた。

「あ、やべ、まだだ!」

やけにヘッドホンが似合うこいつは襟足が長い。

「碧はやった?」

碧(あおい)は僕の名前だ。

「昨日の夜やったよ」

マジか!と叫びながら慌てるこいつは悟(さとる)

それを見てケラケラと笑う彼女は美晴(みはる)

朝から騒がしい2人を見て僕も笑う。

この時間は楽しい。


「授業終わったらさ、ラーメン食いに行かね?」

こいつはいつもそう。高校の時からラーメン大好きだ。

「私、ちょっと用事あるからごめん!」

手を合わせて前屈みになり、ごめんってジェスチャーをする。

僕は目のやり場に困りながら早よ行ってこいと手をあおいだ。


「なら2人で中華行こうぜ」

なぜ中華。さっきはラーメンだったのに。

「ラーメンじゃ無かったのかよー」

こいつはいつも気まぐれだ。

「いや、部活終わりに行ってた中華がさ、もう店を畳んじまうらしいんだよ」

僕らは高校の時同じ部活だった。

「今日は早めに授業終わったしよ!行こうぜ!」

そう言いながら僕に肩を組む。僕はしょうがないな、とため息を付いてこいつに付いて行く。

「店長覚えてっかな!俺らの事」

「どうだろうね、大分歳取ってたから」

僕らは少し足早に地元の中華屋に向かった。


地元に着いたのは午後3時すぎだった。

途中高校生の軍団が下校して居るのが横目に入った。

「おっ!島高じゃん!懐かしいー」

「前見て運転しろよ危ないなー」

笑いながら話す。

「そういえばさ、お前新しく彼女作んないの?」

さっきまで笑って話していたのに、スッと僕の笑顔が消えた。

「んー、まぁそのうちね」

悟は色眼鏡をクイッと上げ言った。

「そのうちそのうちって、お前早く行かないと沙織ちゃん取られちゃうぞー」

沙織(さおり)とは同じ学年で、大学で5本指にはいるほどの美人だ。

入学当初、僕と悟は沙織ちゃんとSNSを交換する機会があった。

まぁ、機会というか悟が僕に無理やりナンパさせた事が始まりなのだが。

「いや、まだ別に好きって決まったわけじゃ無いだろ?」

クックックと嫌な笑いをする悟。

「いや、それはお前。ビビット来たんだろ?なら行けよ!」

はぁ、とため息を僕はつく。

「あのなぁー、可愛いとは確かに行ったけど、」

僕がその続きを言いかけた時、地元中華屋に着いた。

「ほら、いくぞ!」

僕の話はまるで聞くきもない。悟は早々に車に出る。

「なんだよ。」


地元中華屋が店を閉めると言う噂が広がっていたのだろう。懐かしい顔ぶれや、高校の後輩が来ていた。

「久しぶり!碧と悟やん!」

2人組ごこちらに近づく。

「ヒデに圭!久しぶりだなおい!」

悟はより一層テンションが上がった。

「皆んなも食いに?」

ヒデも圭も部活仲間だ。

「そうそう!圭が食べたいって聞かないからさ」

手を横にやれやれとヒデが言った。

すかさず圭が

「お前好きなメニュー全部注文した癖に」

と終始落ち着いた様子でいった。

「なんだお前ら食ったんかよ先に」

少し落ち込みながら悟がいった。

「「来るならいえよ!」」

ヒデと圭は声を被せて言った。

その声の被り具合に4人は一斉に笑った。

懐かしいな、昔を思い出す。多分皆んな同じことを考えていたのだろう。自然と喫煙所に向かい4人で話し始めた。 


それからしばらくして、この後飲みあるからとヒデが言い圭を連れて車に乗った。

「アイツら変わんねー」

楽しそうに悟が言う。

「でも髪色は変わったけどね」

僕は笑いながら言った。

昔話しに花を咲かせ2人でその後も盛り上がった。

昔、と言っても1年前だが。


1時間謎の昔話しトークが続いた。

もう2人は帰ったのに。

そのあと悟のお腹が鳴って中華屋の中へと向かった。


チリリン

「大将!やってる!?」

これが入店する時の悟のお決まりだった。

「いらっしゃい!あ、悟君!おひさ!」

髭面の店長が砕けた口調で僕らに挨拶した。

「いつもので」

僕も高校の時の流れでいった。

「蒼君は四川麻婆とライスのセットね!」

「悟君は?」

「俺もいつもの!とラーメン!」

結局ラーメンも食うのかよ、。

「はっは!相変わらずよく食うな!」

そして席は座る。お決まりの奥の4人席だ。


「これお冷ね、すぐ作るから待ってて!」

相変わらず美人で歳を取らないこの人は店長の奥さんだ。

「公子さん相変わらず美人ですね!」

悟がそう冷やかすかの様に言った。

「もう、今日は閉店だから餃子サービスしちゃう!」

「やった!」

僕も思わずはしゃいでしまった。


少しスマホをいじりながら待って居ると新しい客が来た。

「やっぱここ愛されてるな?碧」

なぜかこいつは嬉しそうに言う。

「まぁ、島高のみんなここにお世話になるからな」

なんて話していた時、僕らとは違う若々しさを持つ女子高生の集団がゾロゾロと入店してきた。

「うわ、生足JK」

「辞めろって」

そう言いつつ眺めるノリを僕もする。

すると1人の女子高生がこちらに気付きお辞儀をした。

「お、りかちゃんだ。ヤッホー!」

リカちゃん?あー、元カノの友達だ。

僕の元カノは二つ下の吹部の子だった。

「先輩も来てたんですね!」

愛想よくこちらに手を振りかえし席へと向かう。

悟は顔が広い。

みんなも気づいてこちらに一礼をする。

「待って、茜もいる。」

僕は思わず口に出した。

「あ。」

茜もこちらに気づいて気まずい空気が流れた。

流石の悟も固まった。

僕はこの空気に耐えきれそうにない。


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