第24話 海辺

Aの住む最寄りの駅に着き、改札を出ると、AとCさんのふたりが待っていた。

紺の軽自動車にふたりでもたれながら立ち、Aが私に気付き手を振り、Cさんが軽く頭を下げた。

久し振りに会うAは、初見に少しだけ加齢を感じたけど、ほとんど変わらないと思った。

影の薄さは全く無くなり、相変わらず痩せてはいたが、とても健康的な雰囲気だった。

Cさんとは、初めてお会いした。

このひとが...、と感無量だった。

ふたりはよく似合っていた。

並んで立っているだけで、仲の良さが伺えるようだった。


Cさんとの挨拶は、なんだか気まずかった。

Aがニヤニヤしながら、「気まずいねえ」と私たちの顔を伺った。

三人で軽自動車に乗り込んだ。持ち主のCさんが運転し、Aが助手席から振り返ったまま、後部座席に荷物と一緒に乗り込んだ私と会話していた。

「疲れてる? 今日夜どうする? 温泉でも入りに行く?」

「あ~。今日はもう出たくないなあ」

「そしたら、家でお寿司でも取ろうか。海街だしね。お魚でも」

「ああ。いいねえ。お寿司久し振りだ」

Cさんが口を挟む「そしたら寄って注文して帰ろうか。Bさん、つみれ汁飲みます?」

「あ、いただきます。嬉しいな」

「Aは?」「私も飲みたいな」

Cさんは、美味しそうな佇まいのお店に車を停め、お店のなかに入っていった。

「どうですか?」Aがおどけて聞いてきた「どんな感じですか、生の芸能人は」

「いや、やっぱりオーラがあるというか、格好良いね」「あ、そう?」「でも、思ったよりアッサリしてる」「あ、そう? 顔が?」「全体的に。もっとギラギラ、テカテカしてるかと思った」「あはは」

久し振りとは思えない程、Aは気さくだった。

私も気楽でいられた。

再会がスムーズなのが嬉しかった。


AとCさんの暮らす家は、庭の広い平屋だった。

「こんなに必要?って位広いでしょう、庭。やりたければスイカ割りが出来るよ」とAが言った。

ドッグランの様に広い庭には、全面に芝生が敷かれ、奥の一画は、六畳程の家庭菜園になっていた。

平屋は木造で、夏に涼しそうな、海辺の家という感じだった。庭側には縁側が続き、畳のある和室が広く作られていた。「ここ客室」とAが言う。片隅に一組、お布団が畳まれていた。「え、広過ぎて怖いんだけど…」「だよねえ。私の部屋で一緒に寝よう」Aが声を掛けると、Cさんがお布団を運び出してくれた。

フローリングのダイニングキッチンとリビングも、広めだった。ダイニングテーブルと椅子も木製、リビングのテーブルセットも藤で、壁床ふくめ、視界に入るものは木だらけ。窓から見えるのは自然だらけ。良い天気。「なんか、夏休み、って感じ…」私の呟きにAが頷く。「分かる。田舎感、ナチュラル感が凄いよね」

「此処、たぶん前の持ち主さんが親戚多かったと思うんだよね。和室と庭の広さはさ、親戚の集まりのためだと思う。夏休みに皆が集まってた家なんだと思う」「なるほど」

リビングと引戸で繋がってる、小上がりタイプの和室が、Aの部屋だった。六畳位。奥にベッド。手前にデスク。物が少なく、こざっぱりしていた。ミシンが一台、すぐ使えるようにデスクに出してあった。「最近裁縫始めたんだよね」

まだ拙いから、と作品は見せて貰えなかった。「もう少し上手くなったら見せるね。本当始めたばっかりなんだ」


Aの和室の隣りには開かずのドア。

「そこはCさんの作業部屋。私たちが入ってもたぶん怒らないけど、トラブル防止のために開かずのドアにするから」


縁側から、Cさんが入ってきた。

タオルと麦わら帽子を被り、家庭菜園から取れたての、不恰好な野菜を並べたザルを手に持って。

「うわー、本当に夏休みだ…」

「何言ってるんですか。ふたり共まだ何も飲んでないの? 何か飲みますか?」

Cさんがキッチンへと向かう。

「働き者だね」

「うん。マメ。お客さんが来るのが好きなひとだから」

「何飲みますー?」キッチンから声がする。

「何がありますー?」「レモンティーが飲みたいな」私たちもキッチンへと向かう。


また濃い夏休みが始まった。

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