第22話 消息
次の日は土曜日だった。
私はその頃、土曜日はいつも休日出勤だった。
朝は遅めに家を出て、昼頃出社し、終電か、時には朝まで働いたりした。
私たちは一緒に家を出て、ふたりのお気に入りの店で、朝食をのんびり食べた。
最寄り駅の改札で、互いに手を振って別れた。
それから何度かメールのやりとりをして、電話も2~3度したと思う。
気が付いたら、Aは音信不通だった。
最初からこの話を読んでいた人なら分かっていると思うが、
Aとはここから10年間、空白期間になる。
10年は長い。
26歳が36歳になる程、長い。
Aの10年間は後程振り返るとして、
まずは私の10年間から。
まず、Aの心配をした。当たり前だ。
最悪の場合、死んだか、殺されたか、と。
私は、Aの働いていた事務所のホームページを探し、Aの存在を探した。
同級生の数人に、Aと連絡が取れないことを相談した。
Cさんのメディア出演などに注目した。
Aの携帯電話に、時々電話し続けた。
たぶん、最初の一年位で連絡を取ることを諦めた。
そして、Cさんの動向に注目し続けた。
Aとの連絡が取れなくなった頃、Cさんは活動休業の時期に入っていた。
時々、楽曲の発表やCDの発売、エッセイの執筆、過去の脚本のリバイバル公演などがあったが、メディアへの露出は一切無かった。
私は、時々インターネット上でCさんの情報を検索した。
曲を聞き、歌詞を読み、エッセイを読み、ファンによる掲示板を読み、Aの存在を探した。
Aの無事を探していた。
飲み会の帰り、休日出勤の休憩中、夜中のネットサーフィン中、私はCさんの動向を、時々思い出しては検索していた。
Aと連絡が取れなくなって数年が経った頃、CさんのシングルでCDを発売したことを知った。
何度か楽曲の発売はあったが、この時は珍しくCMソングに使われたり、ファンが掲示板で騒いだりしていた。
ファンが騒いだ理由は、歌詞カードのなかで、Cさんが女性らしい人物と、手を繋いでいたから。
画像を検索すると、確かにCさんは、誰かと手を繋いでいた。
その薄い手首。目立つ骨。
見覚えのある形だった。
電車のなか、公衆であったが、私は座り込んでしまいそうに脱力した。
大きなため息を吐き、滲んでいく視界のなか何度か深呼吸を繰り返した。
隣りで吊り革に掴まっていた、同年代らしい女性が、心配そうに私の方を見ていた。
私は次の駅で降り、ベンチに座って、もう一度携帯電話の画像を見た。
それはAの手だった。
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