第18話 マンションにて

その日は、久し振りにCさんの住む部屋で会うことになっていた。

私は約束の時間にマンションに着いていたけど、入る気になれなくて、マンションの周りをぐるぐる歩き続けていた。

Cさんからはメールも着信も来ていた。

無視して歩き続けた。


「バターになる気か」

自分で言って、少し笑ってしまった。

笑ったら少し力が抜けて、深呼吸することが出来た。

力みが抜けたら、涙が溢れた。

コンビニでトイレを借り、顔を確認した。

「ごめん、電車で寝てしまった。これからすぐ行く」とメールをCさんに送り、深呼吸しながらゆっくりマンションへ向かった。


部屋に向かうと、Cさんが不安そうな暗い顔で玄関を開けてくれた。

「ごめん、疲れてて電車で寝ちゃって。本当にごめん」言いながら抱きついた。

「不安な顔させて、ごめん」

Cさんはホッとした顔を見せて、

「来ないかと思った。連絡つかなかったから…」

「うん、ごめん。仕事で疲れてて…本当ごめんね」嘘がスラスラ出た。

「疲れてるの?大丈夫?」「うん、電車の揺れが気持ち良くて…。ちょっと寝たら回復した」

「そっか。すぐ寝室行ってもいい?」

「うん」


話してたら、玄関の戸が、コンコン、とノックされた。

「すみません、Dです」小声だけどハッキリ聞こえた。

私とCさんは顔を見合わせた。

私たちは玄関から近いままで話をしていた。

「なに?」Cさんが言うと、Dさんは答えた。

「すみません、おふたりで居るのは知っているんですが、少し開けて貰えませんか?」

「すぐ済むの?」

「すぐ終わらせます」

Cさんが私の方を見たので、私は頷いて見せた。

「奥に行って待ってて」「うん」


リビングに行くと、玄関を開け、Dさんを入れている様子が聞こえた。

ぼそぼそと話し始めたので、会話の内容は聞き取れなかった。

私はソファーにぼんやりと座っていた。

しばらくすると、大きい声でやりとりしながら、ふたりがリビングへと近付いてきた。

(ケンカ?)と思いながら入り口の方へ目を向けると、Cさんに制止されながら、Dさんがリビングへと入ってきた。

ふたりは押し問答をしていた。

Dさんが私を見て止まった。

そして、Cさんに振り向きながら、大きな声を出した。

「どうして、このAさんをみて何も思わないんですか?」


「こんなに痩せちゃって………、こんな顔させて………、何してるんですか、Cさん」


「僕はさっき、この部屋を出て帰る前、仕事の電話が掛かってきて、駐車場で出たんです。そのまま車の運転席で話してて、何気なく駐車場の出入口を見ていたら、Aさんを見掛けました。凄く痩せてて、暗い顔をして」

「一瞬だったので見間違いかと思いましたけど、しばらくしたらまた出入口を横切るのが見えました。僕は電話を終わらせて、車を降りて、確認しに行ったんです。確かにAさんでした」

「Aさんは暗い顔で、腕組みするみたいに身体を丸めて、マンションの周りをしばらく歩いていました。声が掛けられませんでした。しばらく見ていたら、急に立ち止まって、コンビニへ寄って、マンションに入って行きました。どう見ても、泣いた顔をしていました」

「すみません、悪いと思いながら、部屋まで後を追いました。Cさんと話してみて、安心出来るようなら、帰ろうと思いました。だけど、安心出来ませんでした」


「Aさん、帰りましょう。

Aさん、ここに居たら駄目です。

なんでCさん、こんなAさん見て平気なんですか」


Dさんは怒鳴っていた。









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