第14話 原因

「玄関から入ってきたきみは嬉しそうに、幸せそうに見えた。

Dと仲良く出来て、そんなに嬉しいのかと思った。

気付いたら、きみに酷いことをしていた。

リビングに戻ってソファーに座っていたら、少しずつ落ち着いてきた。

何をしたのか、分かってきた。

洗面所から、きみの泣く声が小さく聞こえてきた。

居ても立ってもいられなくて、洗面所に向かったら、きみが悲鳴みたいな声を出して逃げようとした。

その怯えた表情を見て、自分のしたことを実感した」

「正直、前の恋人の時と同じような感覚があったんだと思う。

痴話喧嘩の延長で、きみは許してくれる、って。

でも、あのときの、きみの怯えた目を見たら、

本当に自分がしていることが分かった。

初めてはっきり、分かった。

本当に、僕が、酷いことをしたんだ、って」


「きみを傷付ける日がくるなんて、考えたことなかった。

ずっと大切に思っていたし、ずっと大切にしていくんだと思ってた」


「おかしいのは自分だと分かった」


「手を出させる相手も悪いんだと、ずっと思ってた」


「もう、Aには会えないんだと思った。

自分で壊したから、もう自分から近付けない」


「Dに休業して治療したいと言った。

Dはすぐ手配してくれたけど、会社が納得してくれなくて、追加公演と映像化が一時休業のための条件になった」

「Dはすぐ休業しようと言ってくれたけど、そうするとDが会社との板挟みになる。気にしなくていい、ってDは言ってくれたけど、これ以上近くに居る人間に迷惑掛けるやつになりたくなかった」

「Aにはもう会えない。それならしばらくがむしゃらに働ける方が良いのかもしれない、と思った。

全部正直にDに話して、会社の条件を飲むことにした」


「今はまだ働きながら、通院もして、毎日薬も飲んでる。

前よりDともきちんと話し合いが出来てる。

毎日、穏やかに過ごしてる。

凄く穏やかだよ、凄く寂しいけど。自業自得だからね。

少しずつ慣れるしかないね」


Cさんの話を、泣きながら聞いた。

Cさんが泣くのを堪えながら話すことを、何も発言せずに最後まで聞いた。


この人が愛おしい。

いまだに大好きだと感じる。

今すぐに手を取りたい。

今すぐに抱き締めたい。


でも、物のように扱われた時間を忘れられない、足がすくむ自分がいた。


私に何が出来る?

私は何がしたい?


何が一番ふたりのためになるんだろう。


頭は冷静に、冷静に、正解を求め続けるのに、

腕が、胸が、体が、Cさんを求めて走り出しそうだった。


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