第13話 きっかけ
今週末会って話がしたい、とCさんへメールした。
Cさんからはすぐ、場所の指定が来て、事務所から近いお店で会うことになった。
久し振りで、とても緊張した。初めて誘われたご飯より緊張していた。
お店に着くと、Cさんは個室で先に飲んでいた。
私を見るととても驚いた顔をして、なんか別人みたいになったね、と言った。
そんなに会っていなかったのか、と思った。
眼鏡もパーマも、とても気に入ってる、と話した。
Cさんはいつもと違い、少し落ち着きがなかった。
痩せたね、と言うと、どっちが、と強めに言われた。
元気だった、と聞くと、そっちはどう?、と目も合わせずに言ってきた。
あんまり元気じゃなかった、と少し笑って言うと、そっか、と言い、僕もあんまりかな、と答えた。
「活動停止の話を聞いたよ」
「うん、しばらく休もうと思って」
「何処か悪いの?」
私の目を見て、彼は静かに言った。「今、病院に通ってる」
「ごめん、ずっとそんな話しは出てて。
ずっと治療しよう、ってDに言われてた」
「ごめん、僕はきみに暴力を振るった」
「きみに酷いことをした。本当にごめん」
Cさんは真っ直ぐ私の目を見て、落ち着いて静かに言った。
私は、うん、とだけ答えた。
「僕は、もう、無理だと思った。もう、ちゃんと問題に向き合わないと、前に進めない。
きみのことは傷つけないと思ってた。
絶対、何があっても会話が出来る相手だと思ってた」
「Aと出会う前、僕は付き合っていた恋人に暴力を振るっていた。
今回慰謝料の話が出たとき、Dから一度専門家に診て貰おう、とはっきり言われた。
なんなら、しばらく仕事を休もう、と言われていた。
僕は絶対厭だった。
だけど、僕は恋人に手を上げていて、ずっと眠れていなくて、イライラしていた。お酒で記憶を無くすこともしょっちゅうだったし、体調もずっと良くなかった。
だけど、僕は自分のことをそんなに変とは考えていなくて、恋人にも悪いところがあるからだって考えていた」
「ずっとDに説得されていたけど、ずっと拒んでた。
事務所でAに会った後、
ふざけてDに言ったんだ。
あの子とご飯に行けたら、病院に行ってもいいよ、って。
Dが何か言ってくる度、Aさんから個人的に連絡くるなら良いよ、とか、デート出来るなら良いよ、って、説得から逃げてた。
そしたら、ある日、本当に連絡が来た」
「それで一度だけ、精神科に行った。
僕は適当な気持ちで、約束だから、とDに付いて行った。
年上の、飄々とした医者と話して、薬を処方された。
診察を続けながら、まず僕に合う薬を探そう、ということだった。
睡眠導入薬も出た。
だけど、僕は飲まなかった。
約束通り病院には行った、と思っていた。
もう二度と行くつもりは無かった」
「きみと仲良くなっていって、
少しずつ安定していって、眠れるようになった。
Dは薬が効いてきたのかと喜んでいた。
それで、Aのお陰だと言った。最近Aと一緒に過ごしていることを話した。
追加公演の話が出て、正直僕はやりたくなかった。
今回の公演の映像を残すことになっていて、それも厭だった。
時々、観客に中傷されているような気がしていた。笑われている気がした。
イライラして、これ以上やりたくないし、イライラしている自分を残したく無かった。
Dはそんなことはないと言って、僕と意見が対立した。
Aさんと上手くいってないのか、薬は飲んでいるのかと言われて、それにもイライラした。
イライラする僕を見て、Dから、やっぱりしばらく休んで、静養することを考えないか、と言われた。
怒鳴りたい、暴れたい気持ちになったけど、もうすぐAに会えると分かっていたから我慢した。
話が全然まとまらなくて、一端Dは帰ることにした。
Dが部屋から出るとき、僕が鍵を閉めるよ、と玄関まで付いて行った。
Dが玄関から出てすぐ、きみと話す声が聞こえた。
凄く嬉しそうに、きみもDも話していた。
途中から声が聞こえなくなった。
ドアを開けて見たら、きみとDは居なくなっていた。
頭に血が上っていくのが、自分でも分かった」
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