第9話 朝

「それから、よく泊まりで会うようになった。

Cさんは本当に不眠気味みたいで、いつ見ても起きてた。

私が居ても気にならないみたいで、よく仕事してた。

一緒に映画観たり、本読んだりしていても、突然スイッチが入って、仕事モードになったりしてた。

相変わらず、手は出されていなかった。

相変わらず、よく後ろから抱きしめられてた。

金曜日の夜に、よく会った。

仕事が終わったらお店で落ち合って、ご飯食べて、予約してある部屋に行った。

彼は眼鏡とかマスクはしていたけど、いつも堂々としてた。外で手を繋ぐこともあった。

Cさんより私の方がコソコソしてた。

会社の人に見られるのも怖かった。

ホテルの部屋では、私は、疲れていれば寝てしまったし、夜中まで話す日もよくあった。

いつもソファーで過ごして、ソファーで寝てた。

なんとなく後ろめたくて、シャワーとベッドは使わなかった。

次の日に、チェックアウトの時間に部屋を出て、駅で別れてお互いの家に帰った。

そうやって会うのが、ほぼ毎週当たり前になっていった」

「ある日、Cさんから仕事でしばらく会えない、って言われた。しばらく東京を離れるから、って。

そっか、じゃあ、セックスしようよ、今日、って言ったら、Cさんびっくりしてた。

ごめん、私、処女じゃない、って言ったら、

それは別に気にしないけど、ってモゴモゴしてた。

私はさっさとお風呂借りて、出てきても、まだモゴモゴしてた。

いいの?、なんで急に?、もう会わないとか?、って聞いてきた。

その頃、少し考えたことを、Cさんの手を繋いで話した」


「こうやって会えてることが、当たり前じゃない、って思った。すごく幸せなこと。ありがたいこと。

だから、あまり欲張らないでおこうと思ってた。ずっと。

でも、もし離れている間に、何か厭なことが起きて、二度と会えないとか、体に不具合とか、何かがもし起きたら、って最近ふと考えた。

だから、もう正直になって、出来るなら、しておきたいと思った」

「だから、これで、東京離れている間にもし事故ったりしても、Cさん、ちゃんと成仏してね。

私は今日、Cさんといやらしいことして、いつ事故っても、ちゃんと成仏するから」


「話したら、Cさん笑ってた。

私の繋いだ手に、ポンポンって触って、

分かった、しよう、って言って、シャワーを浴びに行った」


「シャワーから出てきて、黙ったままキスしてくれた。

黙ったまま寝室に手を引かれて連れて行かれた。

そのまま、黙ったまま最後までした。

なんか、黙ったまま、ふたりともせっせとしてたよ。一生懸命。

今思い出すと笑えるけど。ふたりとも真剣だった」

「何回かして、気が付いたら私は寝てた。

体を起こしたら、彼も私のすぐ後ろで寝てた。

私に全部布団掛けてて、彼は少し寒そうにしてた。腕で体を隠して。私は自分から布団を彼に掛けて、珍しく寝ている顔を見たり、寝息を聞いたり、しばらくしてから、そうっとベッドを出て、支度して、家に帰った。

電車がもう動いている時間だった。

人がいない朝のホームで、私はCさんの寝顔、なんか若い青年みたいな顔をして寝ている姿を思い出したら、

幸せな気持ちで一杯になって、電車を待ちながら隅の方へ行って、少し泣いた」

「私たちは、順調だったと思う」

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