第8話 夜

「Cさんが私の腕を引いて、すぐに後ろから抱きしめてきた。

なんで駄目なんだ、とか、ここまで来て、とか、私の髪にうずまって文句言ってた。

処女だからです、と言ったら、ぎょっとしてた。

嘘ですよ、って言ったら、

嘘なの、ってまた驚いてた。

嘘じゃないです、って言ったら、

え?、え?、どっち?、何が嘘?、って混乱してた。

どっちが本当だと思いますか?、って聞いたら、しばらく悩んで、いや、しないから、って言った。

Cさんはまた私の頭に顔を埋めて、

どっちでもいい、しない、って言った。

それから、仕事で見る必要があるからって、テレビの画面に映像を映して、Cさんは見始めた。

大きな画面に映像を流しながら、向かいのソファーでふたりとも横になって、後ろからずっと抱きしめられてた。

リモコンで映像の操作したりしながら、

髪や首筋の匂いを嗅がれたり、強く抱きしめたり、Cさんは好き勝手に過ごしてた。

私の方は、実は、かなり緊張してた。

Cさんは私に、どの映像が好きかとか、どんな感じなら好みかとか、いつもみたいに話し掛けてきた。

その度に首筋あたりに掛かる息や、匂いを嗅ぐときの鼻や唇の感触に、私はずっとゾクゾクしていた。

ずっと鼓動が高鳴っていた。

その度に、Cさんは私を力強くぎゅうぎゅう抱きしめてきた。

途中、トイレに立つと、下着のなかが凄いことになってた。

染み出さないように、何度も拭った。

何度もトイレに立ち、何度も拭った。

セックスしたら、気持ち良いんだろうなあ、と心底思った。

しない、と決めて来たけど、意志は何度もぐらついてた。

Cさんは、僕は最近不眠だから、眠かったら寝ていいよ、って言った。

私は何度か寝落ちして、その度にすぐに目が覚めた。

目を覚ましてCさんを見ると、Cさんは毎回起きてた。相変わらず映像を見てた。

何度目かの寝落ちの後、Cさんを見たら、目を閉じてた。

私は静かにCさんから体を離して、Cさんの方に向いた。

自ら腕枕をしながら横向きのままの体勢のCさんの、腰のあたりに腕を回して、胸元に顔を寄せて、正面から抱きついていった。

やめて、と、目を閉じたままCさんが言ってきた。

襲いたくなるから、やめて。

静かな声でそう言われた。

私は無言で、そうっと元の体勢に戻った。

戻った途端、Cさんはぎゅうぎゅうと強く抱きしめながら、

なんで処女なんだよ、って言ってきた。

処女じゃなかったら、襲ってた?、って聞いてみた。

いや、我慢したと思う、って呟いてた」


「Cさんが私の後ろでどんな顔をしているのか、ずっと、見たかったかった。キスもしたかった。正直、私が襲いたかった。一晩中我慢してた。

私はずっと頬が紅潮してて、ずっと身体中の血の巡りが良くなってて、指の先までずっとジンジンしてた。

セックスより気持ち良かった。

あんな気持ち良い経験は、人生で初めてだった」


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