第6話 架電

「それから2ヶ月位経った位。ある日、所長が海外旅行から帰ってきて、事務所に木箱が届いた。どん、どん、って。中身は全部お酒だった。飲んべえが多い職場だから。

お酒をお土産に買ってきたから、飲み会しよう、って話になって、見習いの男の子たちが所長に言われて、大量のピザを買ってきた。釜焼きの、凄く美味しそうな。

お酒飲めないけど、ピザ目当てに私も参加することにした」

「所長が、初心者にもオススメのワインもあるよ、って奨めてくれたやつとか、皆が美味しいって言ってるやつとか、少しずつ、テイスティング程度に貰って飲んだ。でもやっぱりすぐ酔っ払って、私は早めに帰ることにした」

「最寄り駅まで歩いてたら、結構酔っ払ってて、気分良かったから、一駅歩くことにした。

結構楽しくて、このまま帰りたくない気持ちになってきて、Bとか友達に電話してみた。話したい、なんなら遊びたい、って思って。その日に限って誰も出なかった。

ふと思い付いて、街灯探して明るいところまで行って、お財布にずっと入れたままのメモを出して、ちょっと緊張しながら、Cさんに電話した」

「Cさんは出なかった」

「もう一度続けて電話したけど、やっぱり出なかった。

凄く残念なような、ほっとしたような、がっかりしたような、変な気持ちになって、

でも、凄く肩から力が抜けた。

なんか、一区切りついたー、って気がした。

メモをビリビリ、細かく千切って、細かく細かくして、コンビニに寄ってゴミ箱に捨てた。ついでにコンビニで、ちょっと良いカフェオレを買って、川沿いのベンチで飲んでから帰ろうって思いながらお店出たら、携帯が震え出した」

「私、馬鹿過ぎるんだけど、折り返しなんて考えてなかった。しばらくどう電話に出て良いのか分からなくて、コーヒーと電話持ってオロオロしてた。気を持ち直してから電話に出た。何を話すかなんてノープランだった。何言っていいのか分からなくて、もしもし、だけ言って黙ってた。Aさんですか?、って聞かれて、はい、って答えたら、Cです、って」

「突然電話してすみません、って私から謝った。

Cさんは、全然大丈夫です、電話ありがとう、仕事帰りですか?、って普通に話してくれた。はい、仕事が終わって職場で飲み会でした、酔っ払って電話しました、すみません、とか話して、Cさん笑ってた。

そのまま正直に、これから帰りの電車に乗ります、酔った勢いで、何も考えずノープランで電話しました、本当にすみません、って話した。Cさんは、分かりました、またいつでも電話ください、って笑ってくれて、それですぐに切った」

「電話切ってから、川沿いのベンチに行って、しばらくぼーっとして、夢心地でカフェオレ飲んでた。酔いが醒めてきて、ちょっと寒くなってきて、でもずっと夢心地のまま、電車に乗って帰った。

帰りの電車の中で、ショートメールが来てるのに気付いた。

気を付けて帰ってください、って、メールのアドレスが書いてあった。マメだなあ、上手いなあ、って思った。DVのことなんて、完全に頭から抜け落ちてた」

「メールを返して、その日から連絡取るようになって、少しずつ仲良くなった。

本当は私、ずっと沢山言い訳して誤魔化してたけど、最初からCさんに惹かれてた。だから、繋がれば何かしら巻き込まれるのは分かってた。

こんな小娘に何かしてくるひとは、危険だろうって、分かってた」

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