第3話 はじまり

友人の就職先は、弁護士の個人事務所でした。

個人事務所と書きましたが、確実なことはよく知りません。

所長と呼ばれる方が居て、事務所名にその方の名前が使われていました。所長の他に数人の弁護士がいて、弁護士見習いや事務員、総勢3~40名で構成されていたと思います。

友人はそこに短期派遣として採用され、長期派遣になり、直接雇用へとレベルアップしていきました。


友人の仕事は、何でもありの総務で、お茶汲みや備品の補充から、経理処理まで、何でもこなしていました。

友人はアダルトチルドレンであり、発達障害でもあるのかもしれません。不器用なところや、幼いところがあり、精神や技能が不安定でした。

仕事内容や人間関係に苦労しながら、とにかく地道に実直に、一所懸命働いていました。

職員のスケジュール管理、会議や出張の用意などのサポート業務をしていて、所長や弁護士の方たちとの直接のやりとりも多く、友人の努力は少しずつ理解され、実っていきました。

また、繊細な友人は細かい気配りが出来る人でした。

そんな友人のことを、所長は気に入ったのか、時に温かく見守り、まるで保護しているかのように雇用し続けてくれていました。


友人の仕事は、当たり前ですが守秘義務が多くありました。就職にあたり守秘義務に関するルール説明、書類への記名捺印が多かったらしく、罰則や罰金を恐れた彼女は、本当に口を固く閉ざしました。事務所の信用に関わることだと、とても気にしていました。

友人の働く事務所は、土地柄か経営方針なのか、芸能関係の案件が多いようでした。

芸能人の不倫や離婚など、スキャンダルな案件が多かったらしいのですが、友人は特に興奮も無いらしく、私には何でも話す彼女には珍しく、仕事の案件については固く口を閉ざし、淡々と働いていていました。


友人の仕事は、順調に思えました。

時には愚痴り、悩みながらも、とにかく職場のために、所長のためにと、よく働いていました。

そして、友人が事務所で働き出して四年目のこと。

友人が目に見えて痩せ、弱り出しました。

会う度に痩せ、理由を言わず、涙をこぼすようになりました。

人間がみるみる痩せていくというものを、私は初めて経験しました。

人相も人柄も変わっていく友人に、私は心配しながらも困っていきました。

私にも仕事があり、生活がある。

支えられない。

付き合い切れないかもしれない。

心配より不安が大きくなり、付き合い方を考え始めた頃、友人からの告白を聞きました。

友人に告白を勧めたのは、事務所の所長でした。


「守秘義務も何も気にしなくていいから、一度信用出来る誰かひとりに相談してみなさい」


そう言われて、友人は私に告白をしました。

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