第10話 今更だけど、遅くない

 楓乃は俺のことをずっと好きで居てくれていた。

 けど、そんな気持ちを露知らず幼馴染としてずっと接していた。


 仲が良く、相手も自分を好きだと思ってもおかしくない関係なのに、相手は自分のことを何も思ってない。

 想像するだけで心が痛くなる。


 俺のせいじゃないと楓乃は言ってくれているが、どう考えても俺のせいでしかない。

 遠くない昔、俺も楓乃を好きだった時期がある以上、楓乃の気持ちに気づけなかった俺が悪い。


「楓乃ごめん、俺……」

「何も言わなくていいよ、もう全部分かってるから」


 咄嗟に謝ろうとする俺の唇に人差し指を当ててくる。


「知ってたんだよ私も、理仁が私のことを好きだったってこと」

「ならなんで……」

「私も臆病だよね。理仁と同じで今の関係性を壊したくないから告白できなかった」

「そうだったのか……」


 どっちも同じ考えだったのか。


 幼馴染という深い関係だからこそ、恋愛関係に移行するのが難しい。

 よく考えれば簡単な理由だ。

 現状を壊したくない、理想の2人の姿を保っていたいから。


「ホント、今さらだよね。振られたから告白して……理仁を困らせて……もっと私が勇気を出して最初から告白してればよかったのに」


 徐々に声が震え、頬には雫が数的流れる。

 ……なんで俺はこんな簡単なことに気づけなかったんだ。


 一番近くに居たのは俺だろうが。なのにも関わらず気づけなかった……

 本当に臆病なのは俺の方だ……


「なぁ、楓乃」


 決めた。もう楓乃を泣かせない。笑っている顔だけ見ていたい。

 俺もようやく気付けた。当たり前のように隣に居た人の存在が、どれだけ儚く大切なものかを。


「一回全部忘れてさ、ちゃんと付き合おうよ。俺達」


 もう誰にも渡さない、楓乃を泣かせたりなんかしない。

 幼馴染なんて関係はいっそ捨ててしまえばいい。なにせ、もうそれ以上のものを持っているからな。


「もう泣くのやめよ! 前もそれでブルーな気持ちになったから、これからは一緒に笑顔で仲よくやろうよ!」


 すすり泣く楓乃の手を取る。


「前みたいに焼肉……とまではいかないけどコンビニスイーツくらいは買ってやるからさ」

「理仁は本当にそれで――」


 俯いていた顔を上げると、楓乃はそれ以上何も言わなかった。

 多分、俺の表情を見てすべてが伝わったからだろう。

 言葉なんていらない、もう俺たちはそうゆう関係だ。


「……いや、次は私が奢るよ! 肉でも魚でも高級な物なんでも言って!」


 服の袖で涙を拭うと、自分の胸に手を当てながら宣言する。


「女子に高いものを奢られるとなんか男としてのプライドが……」

「今日は無礼講ってことで」

「使い方絶対間違ってるぞ……それ」


 胸を張る楓乃に俺は顰めるが、どこからか笑いがこみ上げてくる。

 やっぱり、楓乃はこうでなくっちゃな。


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