第9話 付き合った理由
「俺とお前はまだ付き合ってない! 断じてこれだけは言っておく!」
流石にキレた俺は、楓乃を引き剥がすと目を見開いて言う。
ここでガツンと言っておかないと、これから暴走されても困るからな。
妄想が酷くなると、結婚とか想像妊娠までしそうで恐怖を感じる。
「な、なんでいきなりマジな顔して言うのよ」
急に態度を変えた俺を見て、楓乃は引き気味になる。
「大マジだからだよ!」
「私をなんだと思ってるの?」
「このままと妄想女としか思えなくなる」
「なんで⁉ 私妄想なんてしてないよ⁉」
「まだな? これからどうなることやら……」
楓乃と幼馴染を長年やってきていたが、最大の危機感を持っている。
「理仁はやっぱ私と付き合うのが嫌なんだ」
しゅんと肩を竦め、唇を噛みしめる楓乃。
「嫌とは別に言ってないだろ?」
「なら――」
「ただし、順序が必要だと俺は言ってるんだ」
「順序?」
「そうだ」
カップルになった人たちは順序を踏んで成長するものだ。
最初は学校から一緒に帰ったり、放課後デートでカラオケやカフェに寄ったり、休日は遊園地や水族館に行ったり。
その過程を踏まえて手を繋いで、ハグをして、キスをする。
彼女の一人できたことない俺は、その手順を踏まないとパンクしてしまう。
幼馴染としては楓乃とキス以外は経験しているが、関係がそれ以上になった今、手順を飛び越えると俺は死んでしまう。
いきなり楓乃に全裸で襲われと思うと……まぁそれはそれでありか。
「俺もな、彼女がいたことないわけで準備が必要なんだよ」
「心の準備ってこと?」
「そうだよ。異性を恋人として見たことがないからな」
「私たちならそこら辺のカップルより仲良しだし、これまでの積み重ねもあるから心配しなくていいと思うんだだけど」
「幼馴染だからこそなんだって……」
楓乃はすぐに幼馴染という関係から恋人という関係にジョブチェンジができるみたいだ。
俺はそこにどうしても壁を感じてしまう。
理由は俺が慣れていないのと……始まり方だと思う。
なにせほぼ成り行きでなったようなものだ。
真剣な眼差しで言われたとはいえ、振られてすぐだからな。
寂しさを埋めたいとか、傷を癒してほしいとか、そうゆう自分を守るための檻を彼氏で代用しているのかもしれない。
楓乃に限ってそれはないが、深く考えてしまう。
「理仁、私があのクズと付き合った理由、今だから教えてあげるね」
「理由? そんなのイケメンでいい男アピールして楓乃を騙してたからじゃないのかよ」
「もちろんそれもある。言いくるめられて思わせぶりをされて……洗脳みたいだよね」
「自覚してるなら何よりだ」
「これから言うことは理仁は悪くない。私に原因があるし、自分を責めないでほしい」
楓乃は目を瞑り、深く深呼吸をすると、
「小さい頃からずっと私は理仁が好きだった。けど、理仁は私を幼馴染としか見てくれてないだろうし、付き合うだなんて思うだけ無駄だと思ったの。だから私は理仁から逃げた。自分の気持ちも、理仁のことも考えずに、あの男にね」
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