第8話 巻き込まれてるだけなんだよ!

 俺の幼馴染というのは、適応能力が高いらしい。

 というか、完全に性格が180度変わっている。


「ねぇ~理仁~ぎゅーしてぇぇ」


 楓乃が振られて色々あった日から数日後、自室で俺は楓乃に抱きつかれていた。

 胸に頬を擦り付け、まるで猫のように懐いてきている。

 幼馴染以上、恋人未満として楓乃を見るとは言った。

 だけど、これじゃただのイチャイチャしてるカップルでしかない。


「あのー楓乃さん? 俺、付き合うとは一言も言ってないんだけど……」


 抱きつく楓乃に俺は体をのけぞらせる。


「私たちまだ付き合ってないでしょ? まだ」

「付き合ってなくてこの状況はどうなんだよ」

「別に普通じゃない? 恋人未満ならくっついても問題ないでしょ」

「俺の心に問題があるんだけど」


 最初からこんなにアクセル全開で来るとは思わなかった。

 いつもと変わらない日常に少しスパイスを加えたくらいに考えていたが、楓乃はどうやらブーストを掛けたい主義のようだ。


「それとも、理仁は私がこんなにグイグイ来るタイプだとは思わなかった?」


 甘い声で言いながら、俺の顔を見上げる。


「全然思わなかったよ全く」

「私、好きな人にはグイグイ行くタイプなんだよ?」

「それは、元カレにもそうだったのか?」

「何、ヤキモチ?」

「いや素朴な疑問だ」


 想像ができない。

 付き合った人にデレデレとしている楓乃の姿が。

 今となってはこうして目の前で起こっているから納得がいくが、この展開にならなければ考えることもなかった。


「好きな人に執着しちゃうし、全部自分のモノにしたいし、それこそ私は尽くしちゃうタイプだなぁ」

「お前振られた理由ってまさか……」


 元カレも悪いだろうが、楓乃が極度のメンヘラだったのかもしれない。

 俺の前だとそんな素振り一切見せたことがなかったのに。


 おい待てよ。それは俺が幼馴染であったからで今はそれ以上に見られている。

 ということは……いや考えたくもない。その時が来るまでは……


「幼馴染以上になった今は、どれだけ理仁にくっつこうと誰に何を言われようと合法だもんねー」


 可愛げのある彼女のように腕に抱きついてくる楓乃。


「恋人未満も含めて欲しいんだけど?」

「未満だとなんか悲しいからさぁ、幼馴染兼恋人的な感じでどう?」

「それじゃぁ幼馴染同士がただ付き合っただけになるんだよ!」


 俺達の間で一番兼ねてはいけないものを兼ねることになるんだよ!

 お前の独断に俺を巻き込むんじゃない! ただでさえ俺は最初から巻き込まれて今この場で抱きつかれてるんだ!


 感動的な感じに一回はなったものの、よくよく考えたら俺はただ楓乃の面倒事巻き込まれてるだけだからな⁉

 全く勘弁してくれよ!


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