第5話 泣いてる顔は似合わない


「やめて離して! 私は天国でイケメンと結婚するの! もうこの世に用はないの!」


茶番を貫く楓乃は、俺の手を振りほどいて窓枠に手をかける。


「どっちかというとお前は地獄行きだよ!」


「可愛いは天国に行くに決まってるの! 美少女は天国のお花畑でワンピースを着て走りまわるの!」


「針山に登って釜茹でされるの間違いだろうが!」


「ヤダヤダヤダヤダぁぁぁぁ! 私をほっといてよぉぉぉぉぉ!」


天国地獄の前に、肩を掴んでいる俺の手を振りほどくと、


「あ……いったぁぁ」


ただケガをするだけだ。


「ほら言わんこっちゃない」


庭の芝生に倒れ込む楓乃の姿に、細い目を向ける俺。

これで茶番はおしまいだな。


次は本格的に慰めてあげなといけないな。でないと一か月はこの状況が続きそうだし、ここは幼馴染として慎重に扱わないと。


「なんで人生ってこんな上手くいかないのよぉぉ……」


芝生にちょこんと座り、すすり泣く楓乃。

俺は庭に置いてあるサンダルを履くと、楓乃の横に座り、


「人生さ、上手く行き過ぎも怖いぞ」


と、楓乃の頭を撫でながら言う。

何事も上手くいく人生は楽でいいかもしれない。けれど、味気ない人生なのかもしれない。


山あり谷ありの方が、変化があって楽しいものだ。


「辛いこともあるだろうけどさ、いつかそれが糧になるだろうし、どうせだったら笑ってやろうぜ「あのクズ彼氏がっ!」って」

「理仁……」


微笑みながら言う俺に、涙をポロリと流す。

一緒に泣いてあげるよりも、一緒に笑い飛ばしてあげる方が楓乃も嬉しいだろう。


泣いて忘れるキャラじゃなくて、相手を貶して過去を面白可笑しく笑うのが楓乃には似合っている。


「しかも、お前に泣いてる顔なんて似合わないからな。いつもみたいにバカみたいに笑ってる方が可愛いげがあるぞ」


「かわっ……まぁそうかもね。私のキャラ的に泣いてる姿はなんか違うもんね」


目頭をこすり、頷きながら俺の肩にそっと手を添える。


「よしよし、調子が戻ってきたぞ」


「考えてみれば、あんなゴミ男に振られたところで痛くも痒くもないわ! こんなに可愛い私ならもっといい人がすぐに現れるもんね!」


「自意識過剰なのはウザいけど……まぁいつもの調子に戻ったな」


生まれてから今まで、どんな時もずっと楓乃と一緒だった。


だから、笑っている顔も泣いている顔も数えきれないくらい見て来た。


靄が晴れて、太陽のようにキラキラとした笑顔を浮かべる楓乃を見ると、やっぱりこいつには笑顔はよく似合うとつくづく思う。


言動は置いておいて、可愛いのは事実だし。


この笑顔を向けられる度に、何度も惚れかけていたというのは、こいつには内緒にしておこう。

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