第9話 悟った命

 あ……死んだ……


「……!?」


「こんにゃろーー!!」


「アイラ……!」


 モンスターが前足を振り下ろしきるギリギリ。その瞬間アイラは動かないからだを魔力で無理やり動かし、俺に向かって体当たりをした。


 間一髪俺とアイラはモンスターの攻撃を交わすことに成功する……だが。


「おい……アイラ! もう俺は立てるよ……! だから逃げよう……! な? アイラ!」


「ほんっとに……最悪……魔力使いすぎてもう動けないわ……」


 グルル……


「ダメだ一緒に逃げよう!! アイラ!!」


「ソラ……私の双魔眼この目を……褒めてくれて……ありがとね……」


「アイラ!!」


 俺の叫びも虚しく、彼女は一瞬ニコッ、と笑い意識を失ってしまった。その間もモンスターはこちらにゆっくりと唸りながら近付いて来る。


 俺は急いでアイラを担ぎ、逃げ始めた。


「逃げなきゃ……早く……」


 冒険者なんてもうやめだ。こんなに危険だなんて思ってもいなかった。もっと他に暮らす方法も考えよう……いや、今死ぬのか、俺ら。


 さっき腰が抜けたダメージがまだ残っており、俺は膝からアイラを抱えたまま倒れてしまった。


 ガルルルル!!


「だれか……たすけ……て……!」


 真後ろに迫ったモンスターを見る余裕もなく、俺は死を悟った────





 ズバンっ!!!!!


「……!?」


 耳が痛くなるほどに鳴り響いたこの空を斬る音。


「Bランク区域にAランク……いや、Sランクモンスター」


 アイラをゆっくりと地面に寝かせ、音の方向を見る。そこには大きな剣を持った一人の男が立っていた。


「あ、ありがとうございます! あ、あなたは……」


「私は王下騎士団1番隊隊長、イコムだ。君たちは……冒険者か?」


「い、一応……」


 王下騎士団。レカのお父さん、ヒース王国の国王が組織した9つの隊。


 その強さは目を疑うものだった。あの大きなモンスターの首を一太刀で切り落としたその剣には、血の一滴も付いていなかった。


「彼女の様態は」


「ま、魔力の使いすぎで意識を失ってます」


「君は? 怪我は」


「自分は無いですけど……アイラが」


 俺がアイラの方を向いて心配したその時だった。


「ぐはっ!!!」


 何が起きたか分からなかった。ただただ吹き飛ばされ、顔全体が痛かった。


「な、なにするんですか……」


「お前には何が出来る」


 顔を押えながら質問をした俺の言葉を遮るように発した言葉。言葉が詰まる。


「何も……出来ない……出来なかった……」


「お前は戦ったのか?」


「……逃げた」


「なんだその情けない姿は」


「俺には……俺には! 魔法スキルが無い……! アイラみたいに凄い力も……ない……!!」


 気が付いたら泣き崩れていた。自分の無力さに。こっちに来てから、いや、以前の俺に対しても。


「ならば直ぐに冒険者をやめろ。彼女と共に」


 そう言ってイコムと名乗った男は俺とアイラを置いて歩き始めた。


 あぁ……やめてやる。こんな危険な仕事……やめて……やめて……


 その時、思い出した。レカに助けてもらったあの日を。ついさっき、アイラに助けてもらったこの命を。


「……無魔法ノースキルでも……!! 誰かを助けることは……出来ますかっ!!!!」


 後ろを歩み続ける騎士に俺は涙でぐちゃぐちゃな顔を見せずに叫び聞いた。

 足音が止まる。


「……誰かを助けるために必要なものは強い武器でも、強い魔法スキルでもない」


「……!」


 その瞬間、背後から俺の頭にポンッ、と手を置かれた。優しく、でも大きく強いその手。


「その意思と命があるだけで十分だ」


「俺でも……強く……なれますか……」


「あぁ。なれる。俺みたいに」


 そう言い放ち、隊長は去っていった。


 少し時間が経つと救護隊が助けに来てくれ、アイラを病院へと運んでくれた。そして、俺はまたひとりで冒険者ギルドへと向かった。


 クエスト完了の報告をし、ギルド内のベンチに座る。


 気楽に過ごしたい。そのはずなのに俺はあの時、死ぬほど

 力も努力も足りないくせに、何も出来ない自分が惨めで仕方なかった。


 あの隊長の言葉。俺は決めた。


 誰かを助けるために強くなろうと。この世界に適応するために。

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国王の娘に助けられた俺は気楽に過ごしたい 〜最強がありふれた世界に転生した俺は無魔法《ノースキル》の無限魔力持ちでした〜 @hashi__yuu

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