第6話 魔眼女
「おいって……何見てるのよ!」
「あ、ちょ、その、ごめんなさい」
ものすごい形相でこちらに近付き、さらに顔を寄せてくる双魔眼と言っていた女性。雑魚と言われ咄嗟に声が出てしまったが、それが失敗だったようだ。
「ごめんなさいじゃないわよ! てか、アンタはランクなんなのよ!」
今にも殴りかかってきそうな女性。Dランクなんて言ったら絶対殴られる。殴られる、殴られる……
「でぃ、Dランク……ですぐはぁ!」
かなり食い気味に腹にパンチを繰り出された。俺は床に腹を押えながら倒れ込み、プルプルと震えていた。
こっちに来てまだ4日だぞ……何回殴られればいいんだよ……くはっ……
「情けないわね……アンタみたいなのがいるからDランクがバカにされるんでしょ?」
「それは俺に言わないでくれよ……こっちだって色々大変なんだ……から……」
あれ……? 視界が……急に……
殴られてから数秒後、俺は意識を失ってしまい、床に完全に倒れ込んでしまった。
☆☆☆
「……見知らぬ天井……?」
「やっと起きたの?」
「!? ちょ、驚かせんなよ!!」
「な、なによ! 一応付き添ってあげてたんじゃない!」
意識を失ってしまった俺は冒険者ギルドの二階にある救護用のベッドに横になっていた。見知らぬ天井がいきなり魔眼女に視界が切り替わり、驚いてしまう。
「そ、そうなのか……すまん。ありがと」
起き上がりながら軽くお礼を言う。
「お、お礼とかはいらないし……ちょっと私もムキになっちゃってたなーって……強く殴りすぎちゃったかなーって……」
髪の毛をクルクルしながら斜め下を見て話す魔眼女。意外と素直で可愛いのかもしれない。
「いやいや、多分君のせいじゃないよ。ここ数日ちゃんと寝れてなかったからそのせいだと思う。申し訳ないからなんか下の食堂で奢るよ」
「ほんと!? 早く行きましょ! 何にしよっかなー!」
やっぱり可愛くない。さっきのは無しだ無し。
しかし、男に二言は無い。言ってしまったものは仕方がない。とりあえず……行こうか。
既に下へと降りてしまった魔眼女を追いかけるようにベッドから抜け出し、俺は階段をおりた。
「おーい! Dランクー! ここの席空いてるぞー!」
「おい! ……静かにしろ!」
急いで手招きされた席へと向かい、小さい声で注意する。「お前もDランクだろ!」と言いたいところだが、地雷を踏みそうだったのでグッとこらえた。偉いぞ俺。
「ね、なんでもいいの?」
「……1つまでな」
ここでひとつ思っただろう。お金はあるのか、と。結論、ない。一文無しだ。
でも、この世界は少し特殊で、職業やランクの判定をするとライセンスが貰える。俺はDランクの冒険者だ。
そのライセンスが所謂クレジットカードのような使い方が可能なのだ。翌月の期日までに支払えばOK。と、まぁこんな感じだ。
「じゃあ……これにするわ!」
「……ドバガ? ドバガってなんだ?」
「分かんない!」
「分かんないんかい!」
「あはは! だめー?」
「はいはい。すいませーん。ドバガ1つとホワイトコーヒー1つお願いします」
「あ、ドバガはセットで!」
無事注文を終えたところで軽く自己紹介タイムが始まった。
「私の名前はアイラ。今日で18歳! 見ての通り双魔眼の持ち主だわ!」
「俺は……ソラ。魔力は無限らしいけど
「え、あんた無限魔力なの?」
「え、うん。そうだけど……」
「やっぱおかしいよ」
「なにが?」
アイラは少し険しい表情になる。
「
「ま、そうだよな。双魔眼とか聞いたことないけど凄そうなのにDランクって言われてたもんな」
と、まぁここで分かったことは無限魔力はこっちの世界では珍しいということだ。アイラの発言から考えるにDランクレベルのスペックではないということだろう。
「ほんっとに訳が分からないわ」
「てか、その双魔眼ってのは凄いのか?」
「よくぞ聞いてくれたわね!」
軽く質問をした瞬間。アイラは目をキラキラさせ、待ってましたと言わんばかりに説明を始めた。
「まず魔眼をひとつでも持ってること自体珍しいの! さらにさらにそこから私は両目魔眼! 私みたいな人のことを双魔眼と呼ぶわ!」
「ほう……」
「そんでもってまずは右目! こっちは
「ほう……」
「私自身の魔力量は人並みだけど、この赤眼のおかげでほぼ無限、ソラみたいな感じに魔力を使えるわ! ……まぁさすがに無限では無いけど」
「なるほど……」
「で、次はこっち! 左目は
「……ただの黒目じゃないのか?」
「よく見なさい! 白のバツが付いてるでしょ!? これが黒眼の証拠よ!!!」
「ご、ごめんなさい……」
「そ! し! て! 最後は魔眼全部に共通して言えることなんだけど、目が良いの。相手の動きとか次に起こる動作とかわかるようになるわ! どう!? 凄いでしょ!?」
「え、えっと……」
一通り話を聞いた感じ、魔眼と言うものが凄いということはわかった。特に黒眼。伸び代無限というところに俺は惹かれてしまった。
努力次第でなんとかなる、そういうことだろうからな。でもやっぱり……
「赤眼は……スキルないとあんまり意味ないんじゃないのか? 無限に魔力あっても……」
「何言ってるのよ! 魔力の使い道は
そう言ってアイラは手の周りに魔力を纏わせ始めた。そして、
「痛っ!!!」
「どう? 全く力は入れてないわよ?」
とんでもない火力のデコピンをされた。おでこを擦りながら俺は思った。
「これだ! これだよアイラ、すげぇよこれ! その魔眼も! 今の力も!!!」
「あ、え、そ、そうでしょ! やっとわかったのね双魔眼の凄さ!!!」
かなり嬉しそうなアイラを見つめながら俺は考えていた。これなら俺も生きていけると。気楽に生きていけるかもしれないと。
彼女が行ったのはただの魔力を手に纏わせただけだ。無限魔力の俺にできないはずがない。よし……特訓だ特訓! やっと面白くなってきた!
「ドバガのセットとホワイトコーヒーになります」
「あ、ありがとうございます」
ドバガって……なるほど、ドーナッツを3個積み重ねて……砂糖で固めてるのか。甘そう……
「な、ソラ。食べていい?」
「え、あ、うん。食べな」
「いただきます!」
アイラはドバガにかぶりつき「うまぁ!」と言いながらセットでついてきたポテトとジュースを交互に口の中に放り込んだ。
「ごちそうさまでした! ……これ私好きよ!」
ものの数分でドバガのセットを食べ尽くしたアイラは幸せそうな顔で俺にそう伝えた。
「良かったな。ま、次は自分で買えよー」
残りのホワイトコーヒーを飲み切り、お開きしようとしたその時だ。
「ねぇ、ソラ」
「ん?」
「私とパーティーを組むわよ!」
いきなりの申し出だった。双魔眼持ちの彼女からの。パーティーを組もうと言う。
きっと彼女は俺より強い。この世界で生きていくには最低限の強さが必要だ。そんなの分かってる。
目の前の彼女とパーティーを組まない理由は全く持ってないだろう。
「すまん、無理だ。他を当たってくれたまえ」
「かっ!?!?」
でも違うのだ。俺は気楽に生きたいのだ。
きっと彼女は気楽とは程遠い存在。それに気がついてしまった俺はもう……
「なるのよーーー!!」
アイラは両手にナイフとフォークを持って駄々をこね始めた。
はぁ……どうしよう。
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