第3話 ヒース王国
「えー!? この国の名前も知らないのっ!?」
「あはは……ごめんね……」
おっちゃん特製の料理を食べた後、俺はレカにこの世界のことを色々聞いてみることにした。と言っても基本的なことを聞きすぎるのも逆に怪しまれると思ったので、とりあえずこの転生してきた国について教えてもらうことにした。
まず、転生してきたこの国はレット大陸に属するヒース王国という国らしい。
そして、ヒース王国も大きく2つに分けることが出来る。
俺が初めに殴り蹴り飛ばされたあの場所は、治安の悪いアンカ地区と呼ばれ、今いるこの場所はイスナ地区と呼ぶらしい。
あの大男も言っていたようにアンカ地区にはBランク以上の冒険者が集まるギルドがあり、イスナ地区にはそれ以下の冒険者が集まるギルドが存在するってことも教えてくれた。
まぁ、冒険者ってのはあれだろう。よくアニメとかで見るあれだな。でも俺……Dランクって言われてたよな確か……もしかして剣と魔法っぽい仕事出来ない?
「あ、あと聞きたいんだけど」
「どうしたっ?」
「王下騎士団? ってのは何かわかる?」
「え、もしかして騎士さんの誰かとあった?」
「え、あ、まぁ……うん。ブレクとか言ってたかな。そいつに吹っ飛ばされたよ……」
そう伝えるとレカは「またブレクね!」と、プンプン怒り始めた。
「いつもあんな感じなのか?」
「まぁ……2番隊が1番実力至上主義って言うかなんて言うか……」
「2番隊って事は何個も隊があるってことか」
「そうっ。一応今は9番隊まであるよっ。出来たのは最近なんだけどね」
「作る理由とかあったのか?」
軽くそう聞く。しかし、その瞬間レカの表情は曇り始めた。なんか地雷踏んじゃったかな、と思いつつ彼女の返事を待つ。
「戦争っ。10年前、私が4歳の時。母様が死んじゃった時の」
レカはさらに暗い表情になる。俺は慌てて「ごめんごめん!」と、頭を下げて謝った。
「ううんっ。大丈夫だよっ! ソラ君もヒースで生活するなら知っとくべきだと思うしっ」
そう言ってレカは10年前にヒース王国で起きた戦争について話してくれた。
対戦国は海を挟んだ先にあるグルフト王国。戦いが始まった理由は単純。領土争いだ。
グルフト王国がヒース王国を占領しようと戦いを挑んで来たらしい。
ヒース王国はレット大陸で唯一海に面している国であり、所有している航路がいくつもあった。大陸としては海に面している土地はいくつもあるが、それはどれも魔界と呼ばれる人の住まない
そのおかげで貿易は安定し、他の国がこの航路を使う為には税金を払わせ、それが国の収入源にもなっていた。
その航路の所有権を奪うためにグルフト王国が攻め入ったって訳だ。
ヒース王国が航路を占領していたと言う背景はあるが、悪条件で航路を使わせていたわけでは無いとレカは言っている。
その為国王、レカの父親は戦いの準備などしておらず、戦力は国の冒険者のみであった。
僅かひと月足らずで海の近いイスナ地区は崩壊。その時、国王は降服では無く、所有している航路の半分の所有権をグルフト王国に献上することによって表向きは和解と言った形ですぐに幕を閉じた。
しかし、被害は大きく、イスナ地区の建物の半数が焼かれ壊され、死者も多くでたらしい。その中の1人がレカの母親だったという訳だ。
「それで、このままじゃダメだって父様が作ったのが王下騎士団なんだよっ」
「なるほど……」
全てが繋がった。聞くに王下騎士団のメンバーは基本元々冒険者であった者たちの集まりらしい。国の戦力として配置することによって戦争への意識を常にすることが目的だとか。
戦力は別に増えてなさそうだけど……意識するだけでも違うのかなやっぱり。
「え、でもその戦争があったのは10年前って言ってたよね?」
「うんっ。そうだよっ」
「そうとは思えないくらいイスナ地区は綺麗な街並みだったけど……」
「まぁ最近、ヒースでは凄い魔法を使う人が増えたからねっ。お家とかも数日で建てれちゃうくらい。ここ数十年で生まれてきた人達は絶対にどこかひとつは秀でている部分があるって言われてるんだよっ!」
「どこかひとつは秀でている……か……」
「そうっ! みんな最強を持ってるのっ!」
その時頭に浮かぶあの言葉。無限魔力に
俺の秀でている部分は恐らく、無限魔力。魔力の量だろう。正直、魔力が何かとかも全く分からないし、使い方も分からない。でも、ひとつ分かるとするならば、
「レカは……
「一応持ってるけど……大したことできないよっ。なにかひとつは秀でてるって言ったけど……私は例外みたいっ」
「レカ! 俺は
悲しそうなレカを見るのはもう嫌だ。地雷を踏んでしまったならすぐ地雷のない場所に逃げればいい。
「えーっと……私は私の知識を与えることが出来るよっ」
「え、それって凄くないか?」
「って思うじゃん? 私は魔力量そんなに多くないし、与える事の出来る内容は限られてるんだよねっ」
「じゃあ……レカのできる最大はどこら辺?」
「まぁ文字の読み書きくらいかなぁ。みんな知ってるような事なら魔力はあんまり使わなくて大丈夫だからっ」
「それ! 俺にやってよ!!」
文字の読み書きなんて俺に今1番欲しすぎる能力だ。文字が読めれば買い物もできるし本だって読める。この世界についてより知ることが出来るっ!
「い、いいけど……ちょっと近いよっ……ソラ君……」
「あ、ご、ごめん!」
興奮しすぎてレカに前のめりになっていた俺は焦って姿勢を戻す。
「じゃ、じゃあ……今からするねっ。あ、ちゃんと聞く耳持ってないと使えないからっ」
「聞く耳持たないやつなんて居ないよ!」
「では、やりますっ」
そう言った瞬間、レカは何かを話し始めた。それを真剣に聞く俺。そして、数分後……
「はいっ、出来たよっ! 多分これで色々読めたりかけたりすると思うっ!」
「あ、ありがとう……?」
全く実感がなかった。本当にこんなので読み書きができるようになっているの……か!?!?
とか思っていたらすぐ来た! ほんとに今来た!
日本で言う五十音が全て頭の中に入っている感覚。言葉の意味も書き順も全部だ!
「ありがとう! レカ! 大好きだ!」
「あわあわあわあわ……」
レカを上下左右に振り回す。これは大きな一歩だ。デカすぎる1歩だ。
「わ、私そろそろ城に戻らなきゃ」
「あ、そうなのか。……今日はありがとね」
「いいのいいの。私も初めてちゃんと話してくれる人見つけられたしっ」
2人で帰りの身支度をしながら質問をする。
「そう言えば……なんで逃げてきたんだ?」
ふと出会った時の話を思い出す。
「私……王になりたくないのっ」
「ほう……でも、血筋的に仕方ないんじゃないのかな」
「嫌だよっ! 父様嫌われてるもんっ」
「あはは……そうなんだ……」
「あ、いいこと思いついたっ!」
「ん?」
立ち上がったレカを下から見上げる。
「ソラ君がこの国の王になってよっ!!」
「はぁ!?!?」
14歳の少女から放たれた言葉を受けた俺は、紛れもない異世界転生系の主人公であった。
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