第1章

第1話 転生と無魔法《ノースキル》

 一旦落ち着こう。これはどういう状況だ?

 転生してきて一発目、多分相当バカにされたこと言われたよな? 無魔法ノースキルって言われよな? ん?


 とりあえずこのカウンターにいる女性に質問して見よう。


「あ、あの……ぐふぁ!」


 話し始めた途端、何かが脇腹に飛んできた。

 痛ってぇ……! バイクに引かれたあの時の次くらいには痛てぇ……!


無魔法ノースキル伝染うつる。さっさと出ていけ雑魚」


 うずくまる俺に対してそう告げたのはさっき俺のことをバカにしてきた1人の大男だ。きっとさっきの衝撃はこいつのグーパンだろう。にしてもまだ立てない。てか声も出せない。


「さっさと立て! 出ていけって言ってんだろ!」


 そう叫びながら次は俺の顔面を蹴りあげた。為す術なく、俺は後ろに吹き飛ばされる。

 痛い痛い痛い。殺される。誰か……


「た……すけ……て……」


 テーブル席が並び、人が多く居る方を見てそう懇願した。だが、目の前に広がる光景は地獄だった。誰もこっちを見ていない。いや、興味が無いみたいだった。


 少ない情報で俺は考えた。答えはひとつしかない。無魔法ノースキル。これが原因だろう。


 ダメだ。このままじゃ死ぬ。早く……早くここから出なきゃ……


 まだ痛む横腹をおさえながらフラフラと立ち上がり、出ている鼻血にも気付かずに出口らしき扉へとゆっくりと進んで歩いていく。


 普段なら20歩。いや、10歩で着くであろう距離が終わりの見えない持久走のように長く感じた。


 やっとの思いでドアノブを掴み、回して扉を開けた。その時だ。


「おっせぇよ!」


 追い打ちをかけるように背中を蹴られ、その勢いで道のど真ん中まで吹き飛ばされた。もはやもう痛みも感じない。


 早くこの場を去ろう。もっと優しい人がいるところに。


「そいつ無魔法ノースキルらしいぞー」


 そう言って大男は冒険者ギルドの扉をバタンっ、と閉めた。


 あいつ……覚えとけよ! いつか……いつか……! いや……やめよう。俺は多分強くない。静かに気楽に過ごそう。


 フラフラと立ち上がり、右も左も分からぬまま歩み始めた、がしかし。異変に気が付く。


 それは周りからの視線だ。コソコソとこちらを見て話す声も聞こえる。恐らくあの大男が放った言葉を聞いたからだ。


 無魔法ノースキル。これがどれほど酷いものかよく分かった。逆にありがとう大男。これからはちゃんとこの事実を隠して生きていこう。それだけでかなりの進展だ。ポジティブに行こう。


「おうおう。今、無魔法ノースキルとか聞こえたんだけど……てめぇか?」


 下を向きながら歩いていたせいで目の前に現れた、剣を腰に差した3人の男たちに気が付かなかった。


「お、おい! 王下騎士団2番隊のブレクさんだぞ! み、道開けろ!!」


 後ろからそんな声が聞こえる。何も考えることのできていなかった俺はゆっくりと後ろを振り向いた。


 振り向いた先に広がっていた光景。道の真ん中には誰もいなく、いるのは俺とそのブレクと言われた人物とその隊のメンバーだけだった。


 やっと気が付く。この状況のやばさに。でも、もう遅かった。


「ぐへぁ!!」


 俺は一瞬にしてレンガ造りの壁に激突していた。さっきの大男とは比べ物にならない力で吹き飛ばされた俺は気を失ってしまった。


 ☆☆☆


「……! 痛っ……」


 気が付くともう夜だった。身体中が痛む。もう散々だ。転生前から来ていた白Tが血で滲んでいた。


 なにか俺が悪いことでもしたって言うのか? しかもこの街の人達はなんだ? 誰も優しくないのか? ……いや、世間の考え方だ。悪いのは全部きっとそれだ。


 浮気されて振られた挙句、無魔法ノースキルとか言うかせを背負って転生。人生ハードモードすぎるって……もっと気楽に行かせてよ……


 はぁ……何が新しい世界への適応だよ。全く期待させやがって。


 それからと言うもの、ご都合主義と言う言葉など俺には微塵もなく、3日間飲まず食わずで街を歩き続けた。


 あぁ……もう限界だ。マジで……死ぬ。

 初めてこっちの世界に来た場所からは相当離れた場所に来た。街の外観はそこまで変わらないがなんとなく雰囲気が違った。

 そろそろやっと転生したんだな、と感じ始めてきた頃だ。


 まぁ、そんな事は俺には関係ない。


 小さな路地に置かれた木の箱に腰をかける。そして身体は勝手に横になった。


 はぁ……もう……動けねぇ……誰か……


 意識が飛びそうになった、その時だった。


「ふぅ〜せーふ。捕まるところだったー」


 目の前に現れたのは、俺よりいくつか下に見える少女だった。肩につくくらいの綺麗な銀髪をハーフアップに括るこの少女はどことなく元カノに似ていた。


「あ、やべ」


 目が合った瞬間、彼女はそう呟いた。一瞬、時が止まる。


「ささささ……」


 時が動きだし、逃げていく彼女に向かって最後の力を振り絞り声を出した。言葉ではなく声だ。もはや話す気力もなかった。


 その声を聞いた彼女はピタッ、と1度足を止めた。が、しかし、振り向かずそのまま走り出してしまった。


 その瞬間、俺は目を閉じた。あぁ……もうダメなのか……俺……

 死を悟った。異世界生活、終幕……



「君、大丈夫?」


「ぐあ!」


 いきなり聞こえてきたその言葉に驚き、変な声を出しながら目を開けた。


「あ、生きてた。でも酷い傷……ちょっと待ってね」


 そう言って彼女は俺の胸元に手を当てた。すると、みるみるうちに身体中の痛みは無くなり、傷跡は塞がった。


「うん。とりあえず傷はある程度大丈夫だよ。起き上がれる?」


 恐る恐る身体を起こす。びっくりするくらいに元気だ。


「あ、ありがとう……」


「いやいや、簡単な回復魔法使っただけだよ。お礼なんていらないさっ」


 気さくにニコっ、と笑う彼女を見てすぐには言葉が出なかった。


「な、名前は……なんて言うんですか?」


 振り絞って放った質問を聞き、彼女は「ぬぇ?」と変な声を出し、驚いた顔をして静止した。


「へ、変な事聞いた?」


 こっちの世界では名を聞くことはおかしなことなのだろうか。これも経験。この子は多分優しい子だから……殴られないよね?


「私の名前知らないの?」


「ぬぇ?」


 予想だにしない返事に俺も変な声を出してしまう。


「いや……だって初対面だし……」


「いや……そうだけどさっ? 私の名前はレカ。この国の王の娘だよ。ここまで言ったらさすがに……ね?」


「お……王の娘っ!?!?」


 俺はとんでもないご身分の少女に出会って助けられてしまったらしい。



──────


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