異世界転生して世界を豊かにしようと思ったのに
1話打ち切りの人
第1話
どうしてこうなった……。
俺は人々を豊かにしたかっただけなのに。
みんなの笑顔を守りたかった。
「さあ、魔王!きさまを倒して世界に平和を取り戻す!!」
勇者が俺の首を取りに来た。
もう勝てはしないだろう。
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気がついたら俺は血だらけだった。
膝から、手から、顔から。
とても痛い。
痛くて泣き叫んでしまう。
……。あれ?こんな子供じみたこと?
道の出っ張りにつまずいて派手にころんだだけなのに。
いや、たしかに今の俺は子供だ。
記憶が混濁している……。
「おい、落ち着いたか?そんなに声を出してるとまたあいつに蹴飛ばされるぞ」
俺より3つか4つか年上の男の子が励ましてくれる。
うん。と短く答え、込み上げてくる涙をどうにか抑え込んで歩きだす。
ぼんやりとだが意識が戻ってきた。
俺は小さいときにこの貧民街に捨てられていたらしい。
物心付く前だったから自分の名前も歳も、両親もなにもわからない。
日々、ゴミを漁ったり日雇いの仕事に混じって小銭を手に入れたりして過ごしている。
この貧民街ではスリやカツアゲなんか日常茶飯だ。
さっきも必死で稼いだお金を奪い取られそうになって逃げている途中で転んだのだ。
そして、前世の記憶が突然蘇った。
頭も強く打ったので完全ではないが、朧気に俺はそこに返り咲いた。
まず、色々整理しよう。
俺の名前は……。
俺は貧民街によくいるボロを着た子供。名前はまだない。
いつ死ぬかわからない連中だ。
周りの人間も名前がないやつがたくさんいる。
気をかけてもしかないというなんの希望もないオーラーがあたりを支配している。
どうしたものかな。
前世、西暦2024年の男子高校生の知識を使ってこのクソみたいな空気をなんとかしたい。
記憶が戻ってはじめに強く思ったことがこれだ。
その日の晩から7日間の長雨が続いた。
家……というか、簡単な木の柱を組んでそのあたりのものを乗せた屋根があるだけの小屋に住んでいるみたいなのだが、
普通に雨風が入ってくるし、なんなら排水というものが存在しないので、布団代わりの藁もびちゃびちゃだ。
非常に気持ちが悪いだけならまだ良かったのだろうが、こんな衛生環境などないような場所なので、そこら中から咳やうめき声が聞こえてくる。
同じ小屋で寝ているアニキ、記憶が戻ったときに助けてくれた男も少し具合が悪そうだ。
次の日にようやく晴れたわけだが、あたり水浸しで水没している小屋も多数ある。
その水も淀んで絶対やばい菌とかいそうな匂いがしている。
しかし、だれもなにもしない。
他人への無関心、自らをなんとかするのも困難な状況、希望というものを知らない。
だめだ。
俺はそのあたりに転がっていた小さな桶で大きな水たまりを貧民街の外の池に捨てに往復した。
桶の横には穴が空いていて全然水が入らないが少しずつでも運んだ。
周りは手伝うことはない。あざ笑うものが少しいたがたいていは無関心だ。
朝から夕方近くなってようやく一部の水たまりがなくなった。
3日目の昼過ぎに体調が良くなったアニキが見かねて手伝ってくれた。
太陽の力は偉大でそれだけでも水たまりは小さくなっていき、4日目が終わる頃にはほとんどなくなった。
また、雨が降ったらはじめに戻るな……。
水はけが非常に悪いこの土地は少しの雨でも同じことが起こる。
そもそも水がたまらないように溝を掘って流してやればマシになるのでは。
そこで壊れた桶から木片を引っぺはがして道の端を掘ることにした。
めっちゃ怒られたり殴られたりしたが、20日程度で一部貧民街の外まで水を流す水路ができた。
更に延長しようと下見をしていたとき、空が急に黒くなって……雨だ。
見事、俺が排水溝を掘ったところは水が全くたまらず、これはいいと言うことで手伝ってくれる人がチラホラでてきた。
アニキが死んだ。
なんやかんやあって貧民街でギルドを作り、街の整備や仕事の分担など手掛けるようになって、組織が大きくなり、人々に笑顔が見え始めた。
それを聞きつけた国の偉い騎士さんが街の管理者に俺を抜擢したり、みんなが豊かになったり。
次第に世界中の人々を俺の力で幸せにしたいと思うようになったが、大きな組織をうまく運営できなかったり、裏切りなどにより歯車が狂っていつしか俺は世界の敵になった。
そして討ち取られて死んだのだ。
一話打ち切りにて終わり
異世界転生して世界を豊かにしようと思ったのに 1話打ち切りの人 @ako_1st
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