第3話
“ペットのスパロー”となって数日後。
学んだ事が三つある。
まず一つ。お父さんは有名なテイマーらしく、よく猛獣を従わせて、高値で売りつけるという商売をしているらしい。
昨日の事だ。
会えば即死、と知られているサーベルタイガーに首輪をつけて持って帰ってきていた。
ルンルンルン、と鼻歌を歌い、スキップしていた。
その光景に家族は皆、何事も無かったかのように出迎えていた。
俺は怖すぎて鳥小屋から動けなかったというのに。
そして二つ目。
ラッキーは理論学校に通っているらしい。
この世界には、「理論学校」と「生活学校」と呼ばれる二通りの学校が存在する。
どちらも16歳から20歳までその学校に通う。もちろん通っていない人だって居るが、裕福な家庭の者は皆、学校に通っている。
理論学校は化学や物理学を利用してこの世の構造を知っていこうとする道を。
生活学校は人の心や現在の社会情勢などを知って、上手く生き延びていく方法を模索する道を。
海を超えれば、睨み合いを続けている冷戦状態の地域もあれば、毎日のように戦争が起きている地域もあるらしい。そう聞けば、ほとんどの人は生活学校に通うだろうが…ラッキーは恐らく捻くれ者だろうから理論学校がお似合いだろう。
そして三つ目。
俺は本当にペット扱いだった。
やっている仕事と言えばマレンちゃんの暇つぶしに付き合う程度のことである。
今まで仕事一筋の人生を歩んでいた俺は始めて”暇”という問題を目の当たりにしている。
いっそ仲間のカワセミでも見つけてきて、小さな村でも作ろうか…なんて考えたが、この辺りに水辺は無い。俺以外のカワセミなんているはずが無いのだ。
毎日毎日、小屋に籠って眠っているだけ。なんと暇な事か、もうちょっと俺を使ってくれノノさん、セトさん。
~~~
そんな昼下がり。
「スパロー、助けて!」
マレンちゃんが血相を変えて小屋に顔を近づけて来た。
「キキー?」
俺的にはどうしたの?と聞き返したつもりが、マレンちゃんには伝わっていない。
「実は、お父さんたちの大切なネックレスを森に落としてきちゃって…探すの手伝って!」
こーゆーのを待ってました!と俺は目を輝かせて、小屋から勢いよく体を出して、マレンちゃんが示した方向に向かって飛び立った。
初仕事、それだけでテンションが上がってくる。
俺はこのだだっ広い森から小さなネックレスを探すという大変さなど忘れて、心を躍らせながら森に入り込んだ。
木々を避けながら、葉っぱから透けてくる日光を浴びて、辺りを飛び交う。
どれだけ目を凝らしても、地面には落ち葉やアリの軍団しか映らない。
それでも、俺は「見つけてあげたい」という一心で捜索を続けた。
~~~
日が暮れた。
何時間探しても、見つかる気配すら感じない。
可愛い子どもの頼み一つも、こなせない自分に腹が立ち始めた。
落ち込みながら、枝の上に足を乗っける。
すると、俺から落ちる影にかかるように、一人の女の子が木の下に立っていた。
「こんなところにいたの」
…ラッキーである。
何か言いたげな顔をして、こちらを向く。
「早く帰るわよ、皆待ってる」
小言でも言われるかと覚悟していたが、ラッキーは思ったよりあっさりとそう告げて、手を広げてくれた。
手のひらに、華麗に着地を決める。
「やるわね」
「キキー…」
軽く褒められただけだが、手のひらの上は何だか心地よく、先程の怒りも完全に止んだ。
「…………」
ラッキーはパクパクと口を開いたと思えば、真っ赤に染まった顔を横に背けた。
「………あんた思ったより優しいのね」
ラッキーは小声でそうボヤき、この言葉は俺の耳には届かなかった。
何て言ったの?と首を傾げる俺に向かって、「さっさと帰るよ!」と誤魔化すように叫び家へと急いだ。
これは後々知った話なのだが、この時に彼女は初めて俺を家族として迎え入れた、との事である。
~~~
「ごめんねスパロー!ポッケに入ってたぁ〜…」
泣きながら謝っている姿を見て気が収まったが、一瞬「殺してやろうか…」というレベルの苛立ちが蘇った。
ラッキーの手の上に座っていた俺は、勢いよくその場を離れて小屋に戻った。
久しぶりに仕事をしたとはいえ、こんなに疲れるなんて。なんとも情けない。
そう思いながらスパローはそのまま眠りに落ちたのだった。
ペットとして生きていく。~しがないカワセミの物語~ @ayuomati
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