第24話 第二王子終了のお知らせ
エスメラルダの身の安全性に配慮して、アダマス邸での昼食はライブキッチン形式で行われた。
歴史ある公爵邸では考えられない、最新形式の調理法である。
オパールとシトリンは、初めて見る特大BBQコンロに目を奪われていたが、エスメラルダは今から行われる親子の会話に興味津々だった。
「お父様。シルバー様の身辺調査をお願いします」
「……わかった」
「調査にかかる期間は如何程でしょうか?」
「調査範囲によるな」
「全部です!」
「……シルバー君の場合は身元が確かだし、学生だからな。何事もなければ二ヶ月。追加調査が必要な項目があればそれ以上かかるが、その場合は中間報告が上がるだろう」
クレイの言葉にダイアナは満足そうに頷くと、エスメラルダに話を振った。
「エスメラルダ様。お約束通り、報告書が届いたらお見せしますね」
「ええ、楽しみだわ」
まるで素人劇のような淡白なやり取りを終えると、ダイアナは笑顔で食事を始めた。
ダイアナに後追いする形でエスメラルダも行儀良く食事を開始した。
突拍子もないおねだりをされたクレイも、何故調査をするのかなど娘を問いただす事なく黙々と食事をする。
シェフによるパフォーマンスたっぷりのクッキングに目を奪われていたオパールとシトリンは、謎のやり取りに宇宙猫状態になった。
ナニコレ。
*
食事を終えたダイアナとエスメラルダは外に移動した。
エスメラルダが話したくてうずうずしているのに気付いたダイアナが、食後のデザートをテラスで食べることを提案したからだ。
「凄いわダイアナ!」
移動中は我慢していたエスメラルダだが、席につくなり興奮状態で話し始めた。
「その場限りの口約束で済ませない為に、期限を聞いた上で、わたくしが報告書を確認する流れで念押ししたのよね?」
「正解です」
昼食にクレイを誘う際、ダイアナは一枚のカードをメイジーを介して父に渡した。
カードに書かれていた文章は<公爵令嬢の信頼を得るため、私の提案に了承してください>だ。
まさかこのメッセージを、当の公爵令嬢の目の前で書いたとは露知らないクレイ。
ダイアナは、まんまと最小の労力で欲しいものを手に入れたのである。
うちのお嬢様は、デスゲームもいけるクチだったらしい。
但しダイアナお嬢様は、デスゲームの主人公タイプではない。最もダメージが少ない形でさっさと離脱し、以降は解説役として主人公達の戦いを見守るタイプだ。
一般人のはずなのに、気が付いたら運営側みたいになってるキャラ。それ一番美味しいポジション!
「わたくしも、やってみたいわ!」
目の前で鮮やかなデモンストレーションをされて、すっかりやる気になったエスメラルダ。
最早その頭には、他人のプライベートを暴くことへの罪悪感も、伯母への遠慮も何もない。
お手紙も愚痴も長文派の彼女にとって、最短を突き進むダイアナの超合理主義はとてつもなく衝撃的だったのだ。
「考えたんだけど、我が家だけで行おうとするから、王家に対して面倒なことになると思うの。いっそ王家も巻き込んで堂々と行ってしまうのはどうかしら?」
「賛成です! そもそも両家による取り決めなのですから、問題があれば一丸となって取り組むべきです!」
「そうよね! 陛下の協力を得られるなら、外部の人間を雇わなくても、王家の影に調べてもらうことが可能だわ!」
デモデモダッテで一向に成長しないヒロインは論外だが、それにしてもエスメラルダお嬢様は覚醒が早すぎである。
彼女がアダマス邸を訪れたのが昼前で、今は昼食後だ。まだ半日も経っていないぞ。
ダイアナの感染力が凄まじいのか、エスメラルダがポテンシャル高過ぎなのか判断に困る所だ。多分どっちもだな。
「何を餌にしたら、陛下達が食いついてくれるか考えているのだけど。コレと言ったものが出てこないの……」
悩ましげな姿が絵になるエスメラルダ。
サラリと「餌」とか言っちゃう辺り、もう清廉潔白だったドアマットヒロインは何処にもいない。丸めたドアマットをバットにして、ブンブンスイングしている。いい球を頼む!
「……王家と公爵家であれば、先程の逆の方が効果がありそうですね」
「逆?」
「マイナスを刺激する方向です。コレをしないと、こんなに損をすると思わせるんです。一般的にはそちらの方が食いつきが良いんですよ」
うーん、と可愛らしく小首を傾げるダイアナ。
「そうだ! アレキサンダー殿下が性病持ちって事にしましょう!!」
ガシャーンッ!
大人しそうな少女から飛び出した、とんでもねぇ発言にオパールの手が滑った。
カランカラン……と銀のトレイが床を回るが、誰も動かない。
すげぇ。やっぱり本物は違うな。
本家の威力の凄まじさに、エスメラルダも完全硬直状態だ。
まだ彼女はダイアナお嬢様の高みには到達していないようだ。まあ、まだ初日だしな。ここまで付いてこれただけ大したものだ。
「もし殿下がエスメラルダ様に性病を移すことがあれば、それは王家による公爵家への攻撃です! 国を二分する争いの原因になりかねません!」
ドアマットヒロインモードだったエスメラルダが「殿下には懇意にしている女性が居る」と言っていたので、ダイアナはそこを利用しようと考えたのだ。
「万が一、エスメラルダ様が不妊にでもなろうものなら、立派なバイオテロです!!」
そんなテロあってたまるか。
「本人は隠そうとするので、両家の亀裂を回避するため秘密裏に殿下の行動を調べるという流れにしましょう! 感染経路を明らかにする為に、徹底的に調べ上げる感じで!」
実際感染していないのだから、直接問われたところでアレキサンダーは否定するだろう。
男性の性病は尿検査で確認するので、こっそり確かめるのは難しい。
「殿下が口を滑らせて、エスメラルダ様が気付いた事にするのです!」
周囲との温度差を気にせず、ダイアナは力説した。
「王家は公爵家に対して、敵意がないことを示す義務があります! 公爵家は、殿下に問題がないか確認する権利があります!」
ダイアナお嬢様ストップ、ストップ!
シトリンとオパールが、完全に恐ろしい生き物を見る目になってる!
折角できた政略結婚友達も引いてるぞ!
「陰性だと証明されても、異性に対してだらしなければ感染は時間の問題です。調査結果は、両家合同で協議しましょう! 親だけじゃなく関係者全員で! 家族会議です!!」
アレキサンダーは魔女裁判にかけられる事になった。
自分の下半身が議題の家族会議とか、拷問じゃねぇか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます