第15話 王宮マウントガールズ(2)

 話が逸れたが、事務的な用事で話しかけられない限り、学校でダイアナが口を開くことはない。

 クラスメイトの中には、彼女の声を聞いた覚えの無い者もいるだろう。


 無断欠席しようが、授業中に居眠りしようが誰にも気付かれない少女、それが覚醒前のダイアナお嬢様である。ある意味羨ましい。


 恋愛結婚大正義の風潮に関しても、実感が薄いので「今は政略結婚は珍しいのね」くらいの認識で、一般人の反応とはだいぶ温度差がある。

 旧ダイアナは恋愛に対し夢見ることもなければ、政略に対する嫌悪感もないのである。

 前世の記憶を取り戻した今では「まだ政略結婚が残っていて良かった!!」くらいに思っている。


「貴女だって学園で見たはずよ。シルバー様と並んでも遜色ない位、スフィア様は華やかで人目を引く美人なんだから!」


 反応の薄いダイアナに焦れたのか、名も知らぬ令嬢Aが声を張り上げる。

 ハッキリ言ってケバいのだが、物は言いようである。


「銀髪のシルバー様と、金髪のスフィア様は対のようにお似合いのカップルなの!」


 すかさず令嬢Bがスフィアを持ち上げる。

 しかしダイアナも金髪なので、与えるダメージはゼロだ! レスバ力鍛えて出直しな!


「スフィア様は才媛で、入学から常に十位以内の成績をキープされているのよ」


 令嬢Cが別角度で援護した。

 これは本当。

 スフィアはお勉強できる系のギャルである。

 愛人なんて止めて、そのまま国立王都大学・通称KO大に進学しろよ。


「他には?」


 言いたいことを言い切ったのか、三人はドヤ顔でダイアナの反応を伺ってきたので彼女は続きを促した。


 追求されるとは思っていなかった少女達は、わかりやすく狼狽えた。


「他? ええと、ええと。〜〜ッ大人っぽい!」


 老けているとも言える。


「それだけですか?」


 ネタ切れ早いな。


「それだけ!? 違うわよ、そのっ……無遅刻無欠席!」

「う、生まれて一度も虫歯になったことがない!」


 彼女達はスフィアの友人なのだが、異性と付き合っている十代の若者なんて同性との友情よりも、恋人優先。


 幼馴染であれば付き合いが長い分、褒める手札も多かったのだろうが、残念ながらスフィアと彼女達が友達になったのは、入学後なのでそんなに深い仲でもない。


 スフィア上げに失敗した彼女達は、方向性を変えた。


「シルバー様は、女性に凄く人気のある方なのよ!」

「そうよ。特にデビュタントが多く参加する夜会なんて、ダンス待ちの令嬢で鈴なりなんだから!」

「列を整理しやすくするため、出席時は毎回壁際に配置されるの! 最後尾はプラカード掲げるくらいよ!」

「一時間待ちは当たり前。高位貴族であればファストパス発行してもらえるけど、それでも最短二十分待ちなんだから!」


 おいおいおい。盛りすぎておかしなことになってるぞ。

 その列の先頭、シルバーじゃなくて『新刊五百円』って書いてるテーブルじゃない?

 最後なんて完全に有名テーマパークじゃん。シルバーとのダンスは大人気絶叫型アトラクションなの?


「それは凄いですね」


 ツッコミどころは色々あるが、まだ欲しい情報を引き出せてないのでダイアナはスルーした。


「――例えば過去にどんな方とお付き合いされたり、お誘い受けたりしたんですか?」


 苦し紛れの創作話とは違って、過去に見聞きしたゴシップを披露するだけなので、少女達は意気揚々とそれはもう饒舌に語りはじめた……



 婚約者の女性遍歴という欲しい情報を手に入れたダイアナお嬢様は、目の前の少女達を始末することにした。


 理由は様々だろうがシルバーとダイアナの政略結婚を、快く思わない連中は多いのだろう。彼女達が良い例だ。


 この三人を無傷で解放してしまえば、今後もダイアナは第二、第三の正義のお節介達に絡まれる日々を送ることになってしまう。


「――誤解を訂正したいのですが、我が家はシルバー様を指名したわけではありません」


 表現が端的過ぎたのか、三人はあまりピンときていない様子なので、丁寧に説明する。


「シルバー様が、婚姻において恋愛感情を重視することはご本人の口から聞きました。その時に、私からも『恋心を貫きたい相手が現れたら直ぐ申告してほしい。婚約者変更に応じる』と伝えています」


 一見すると悪役令嬢転生の「断罪されたくないよぉ。ヒロインを好きになったら、直ぐに婚約解消するから言ってね?(プルプル)」だ。

 だが実際は「お前じゃなくても良いんだから、変なところで引っ張るんじゃねぇぞ。やる気ねぇなら、とっととリタイアしろ」だ。


「!? そんな出まかせ、信じると思うの!?」

「そっ、そうよ! 口では何とでも言えるわ!」

「嘘おっしゃいッ!」


「ジェンマ国でも屈指のイケメンであるシルバーに、ダイアナが目をつけて、彼を縛り付けている」と思い込んでいた少女達は動揺した。


「嘘ではありません。スターリング侯爵にはシルバー様が辞退された時に備えて、代役となる婚約者候補のリスト作成をお願いしています」


 侯爵家当主が出てきたことで、彼女達の顔色が変わった。


「何それ? 聞いてないわ!」

「どういうこと?」

「話が違うわ!」


 苦し紛れの嘘だと思いたいが、スターリング侯爵の名まで出してしまっては、真実が明らかになった場合に苦境に立たされるのはダイアナだ。故に彼女が嘘をついている可能性は低い。


 彼女達はスフィアのお友達であるが、共犯者ではない。

 シルバーがたてたフラグを、きっちり回収したスフィアは夜会の前にお友達の前で嘆いたのだ。



「アダマス家に嵌められて、スターリング家からは婚約を解消できない。ダイアナから婚約を辞退してくれない限り、シルバーは無理矢理結婚させられてしまう」と――。

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