第14話 王宮マウントガールズ(1)
(あらまあ)
王家主催の夜会で、トイレを済ませたダイアナは、三人の少女に取り囲まれた。
クリノリンで膨らませたスカートに阻まれ、間をすり抜けて逃げ出すことは不可能だ。
「金で爵位を買った男の娘は、夫も金で買うようね」
「本当に浅ましいこと」
「嫌だわ。こんな品の無い人達が、貴族を名乗るなんて」
「全くね。一緒にされたくないわ」
少女達はクスクスと、これ見よがしにダイアナを嘲笑った。
舞踏会の会場とは離れた場所にあるトイレのため、人通りはない。
ダイアナはさりげなく廊下に目を走らせたが、彼女含め四人の少女の姿しかなかった。
高位貴族であれば、もっと会場近くのトイレを使うことができるのだが、貴族としては最底辺の男爵位であるダイアナは会場から最も遠いトイレしか許されていない。トイレ格差!
片道十分、往復二十分。早めに移動しないと、取り返しのつかない事態になる。つら。
「……パートナーを待たせておりますので、失礼致します」
先ずダイアナは波風立たないように、やんわりと離脱を試みた。
ダイアナお嬢様は切れたナイフなのだが、常に剥き出しな訳ではない。
理性ある生き物なので、ちゃんと初手は対話を試みるのだ。
「パートナーって、シルバー様の事を言ってるの? 大人しそうな顔して、図々しいわね!」
「あの方がどれだけ人気があるのか知らないの? ああ。知っていて、ひけらかしているのね」
「親の力を使ってシルバー様を縛り付けて、恥ずかしいと思わないの?」
「……」
覚醒後も、見た目は大人しそうなダイアナ。
彼女が反論しないのを、都合よく勘違いした御令嬢達は調子に乗った。
ダイアナはショックを受けている訳でも、図星を指されて反論できない訳でもなく、彼女達を観察しつつ弾を装填しているだけだ。
何の弾かって? そりゃ勿論ショットガンよ。
彼女達は嬉々として、ダイアナを攻撃しているのだ。
右の頬を打たれたら、ショットガンで撃ち殺す系お嬢様のダイアナは無言で銃を構えた。
少女達よ、もっと言葉を選びたまえ。今際の際だぞ。
「貴女はシルバー様と、スフィア様の仲を引き裂いた自覚がないのかしら?」
「スフィア様?」
初めて聞く名に、ダイアナの眉がピクリと跳ねた。
興味をひかれた彼女は、引き金にかけた指を一旦止めた。
「シルバー様の恋人のスフィア様よ! お金なんかじゃなくて、真実の愛で結ばれた本物の絆よ!」
「恋人?」
「知らないはずがないでしょう! お二人とも目立つし、学園では有名なカップルだったんだから、とぼけても無駄よ!」
残念だが本当に知らないのである。
記憶を取り戻す前の、ダイアナお嬢様は『ぼっち』だった。
先程、名も知らぬ令嬢Aが言ったように、由緒正しい貴族の方々は、金で爵位を買ったアダマス家を同じ貴族として認めていない。
直接的な攻撃はしないが、遠巻きにして、決して自分達から話しかけたり仲間に入れようとはしなかった。
更にダイアナお嬢様。お家は裕福だが手持ちは無いので、お金目当てで彼女にタカる人間もいない。
ワンマン仕事中毒なクレイは「家族何それ美味しいの?」状態なので、学園に通う生徒達は、娘である彼女を足掛かりに父親に近付いてうまい汁を吸うこともできない。
俯きがちで自分の意見を言わないダイアナは、話して楽しいタイプでもないし、人と共有できるような趣味もない。
社会的にも、金銭的にも、人間的にも彼女と交流して得られるものは無いのだ。
故にぼっち。
ダイアナ自身も人と関わろうとせず、学園では気配を消して過ごしていたので、噂話どころか流行りも知らない。
休み時間は何してるって?
本を読むか、景色をぼーっと眺めるかだ。
就学して数年間これで過ごしているのである。一人でも全然平気。ある意味肝が据わっている。
この辺はソロ活のプロであった前世と同じだ。
どこでも一人で楽しめちゃう奏江の趣味は「一人で地方の遊園地に行き、絶叫系に乗りまくる」だ。
地雷臭が凄い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます